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[全12話]神へと転生した魂は自称プリティーエンジェルと肉食求め旅をする。  作者: 安ころもっち


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8/12

第8話・プリティーエンジェルが物理な件

本日3本更新します。1本目。


 奴隷商に連行された英二とニーヤを乗せた荷馬車は、悪臭を放つ奴隷たちと共に数日間の過酷な旅路を終え、ついに王都にある奴隷商人の豪奢な屋敷へと到着した。


 その屋敷は驚くほどの大きなもので、その富の大きさを見せつけるようでもあった。


 英二はドランゴの太い脚に足枷を、ニーヤは細い手首に手枷をつけられた状態で、他の奴隷たちと一緒に屋敷の石畳の庭に並ばせられた。


 この足枷と手枷にはさらに強力な魔術的な細工が施されており、英二は全身から湧き出るはずの神気を微塵も使えずにいた。まさに無力な鳥籠の鳥の状態だった。


 庭に現れたのは奴隷商の頭であるオーリカ伯爵。


 金と力で一代で成り上がった家系の三代目だと、執事っぽい恰好の男に紹介される。


 英二の目には、そのオーリの顔に傲慢と欲望が張り付いているように見えていた。


 その見立ても間違ったものでは無く、彼は奴隷貿易でさらなる富を築き上げ、貢物の力により侯爵への陞爵を目論んでいる金の亡者だった。


 オーリカは絹のローブを翻し、ふんぞり返った態度で奴隷たちを眺めた。その視線には、命を品定めするような侮蔑の色が滲んでいる。


 そして並んだ奴隷たちの前へと近づくと、品定めをするように銀の杖をコツコツと鳴らし、そして杖先で奴隷達を示しながら眺めている。


 杖の先がニーヤの前で止まった。


「ほう。珍しいエルフの娘か……。確かに整っているが見るからに細いな。まだガキだ。ま、そう言うのが好きなやつもいるだろう?」


 オーリカは鼻で笑いながらニーヤを商品として値踏みした。


 その瞬間、ニーヤの顔が怒りに染まった。後で聞いた愚痴により、その怒りは過去最高レベルのものだったようだ。


「このプリティーエンジェルなニーヤ様を、クソガキだと!?」


 ニーヤは怒りで全身を小刻みに震わせた。


 彼女の金色の瞳はまるで燃え盛る炎のように輝きを増した。


 オーリカは「クソガキとは言ってな……」と、杖を持ち上げながら弁明しようとしたが、その言葉は最後まで続かなかった。


 次の瞬間、ニーヤの細腕にかけられていた手枷が、物理的な力によってミシミシと不気味な音を立て始めた。


「ガキではないのだー!私は、300年の封印を経て、極限まで成熟した乙女なのだー!」


 怒りの力は、手枷の封印を遥かに凌駕する。


 ニーヤの手枷はあっけなく引きちぎられ、彼女は両の鉄の輪を打ち付けるようにして合わせた結果、その全てが砕け散った。鉄片が石畳に散らばり、護衛たちも息を呑む。


「プリティーエンジェルの真の魅力が分からないバカな男には、神徒による物理的な神罰がお似合いだ!」


 ニーヤはそのままの勢いでオーリカの顔面目掛けて、凄まじい右の拳を叩き込んだ。


 ガツン!


 骨と肉を叩きつけるような鈍い音と共にその巨体が宙を舞うことになったオーリカ。ゴロゴロと体勢を崩しながら転がると、建物の玄関扉にぶつかってようやく止まった。


 倒れ込んだ彼はピクリとも動かない。


「な、なんだ!?何が起こった!?」


 護衛たちが恐怖に顔を引きつらせて慌てふためく中、ニーヤは英二に向かって振り返り、勝ち誇った笑みを浮かべた。


「神様ぁ?こんなもの、紙切れ同然ですよ?私のプリティーパワーの前には、こんなもの、無意味!」


 ニーヤは瞬時に英二の背後に回り込むと、両手でドランゴの足枷を鷲掴みにした。そして一気に握りつぶした。鉄と魔力の籠もった足枷はまるでガラス細工のようにあっけなく砕け散り、地面に落ちた。


 英二の神気を封じていた足枷は、ニーヤの純粋な暴力の前には、何の障害にもならなかったようだ。


 足枷を破壊された英二は、全身に神気が戻るのを感じた。


「よし!」


 英二は大きく翼を広げ、奴隷商の庭の上空へと一気に舞い上がった。その虹色の輝きと威圧感に護衛たちの足がすくむ。


 ニーヤはそのまま、残りの護衛や他の奴隷商の部下たちを相手に暴れまわった。エルフ族の持つ高い身体能力に加え、300年の封印生活で溜め込んだ、怒りのエネルギーを一気に解放したのだろう。


 彼女は次々と男たちをなぎ倒し、最後には庭に立っている者はいなかった。


 ニーヤは鼻血を流して気絶しているオーリカ伯爵の尻に片足を乗せ、「フハハハハ!」と高笑いをした。


「どうです神様!プリティーエンジェルな神徒にふさわしい活躍でしょう!これで、私の成熟した美しさを疑う者はいないはず!」


 だがそんなニーヤも、騒ぎを聞きつけ駆けつけてきた王都の衛兵たちにより、やむなく一時拘束された。


「すまないが、我々は王都の治安維持を担っている。事情を確認するまで、どうか大人しくしてくれないか!」


 駆けつけたのはいかにも真面目そうな年配の衛兵隊長だった。彼は泣きそうになりながらも高笑いするニーヤに説得を試みる。


 もしニーヤが暴れたら、この年配の隊長を始めとした衛兵たちを返り討ちにすることは容易だろう。その時に被害者を出さない自信が、空中の英二にはなかった。


「抵抗するな。まずはこのおじさんに従おう」


 英二はその年配のおじさんの必死なまでの誠実さに心を動かされ、ニーヤの肩に乗り押さえつけるようにそう言った。


 ニーヤは不満そうではあったが渋々英二に言われるがまま大人しく拘束された。


 目立ちたくない英二はその年配のおじさんの命懸けの交渉に感謝した。


 事情聴取の結果、オーリカ伯爵の違法な奴隷取引がすぐに明るみに出た。その結果、ニーヤと英二は正当防衛として、そして違法奴隷取引の被害者として、すぐに釈放された。


 こうして英二とニーヤは、奴隷商の魔の手から解放され、本来の目的地である冒険者ギルドへと向かうことができたのだった。


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