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[全12話]神へと転生した魂は自称プリティーエンジェルと肉食求め旅をする。  作者: 安ころもっち


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第7話・奴隷商に出会った件


「どうしてこうなった……」


 虹くじゃドランゴ神となった英二は今、巨大な鉄製の檻の中にいた。


 鉄格子には奇妙な文様が刻まれている。


 触れるとピリッとした抵抗を感じ、全身から発せられるはずの神気がまるで水に吸い込まれるように消されてしまう。間違いなく霊的な力を封じるための効果が施された檻だった。


 隣には英二の背中に寄りかかるように、ニーヤがぐっすりと眠っている。その口元には、うっすらと肉の脂が光っていた。


 里を出て数日、英二は草食生活に耐えながらニーヤと共に王都を目指していた。


 森を抜けた街道で数名の男性グループに呼び止められた。彼らはベテラン冒険者のお節介を装い、旅の無事を祈ると言いながら、英二(ドランゴ神)に特別な草と称して、良い香りを放つ葉っぱを差し出してきた。


(この際、旨い葉っぱを探すのもいいかもな)


 そう油断したのが運の尽きだった。


 英二がそれを啄んだ瞬間、強烈な眠気に襲われた。


 すぐに目を覚ましたものの、その時にはすでにこの檻の中。そして、傍らには満腹で眠りこけているニーヤがいたのだ。


(このバカエルフめ!お前だけ肉を食いやがって!)


 ニーヤは彼らが差し出した肉に食らいつき、そのまま眠ったのだろう。口元の炙殻らそう判断した。英二は自身の判断の甘さと、ニーヤの不用心さに心の中で悪態をついた。



 どうやら、彼らはこの虹くじゃドランゴを珍しい魔物として売り飛ばすつもりらしい。英二が檻に入れられている荷馬車は、護衛らしき男たちに囲まれ、王都の奴隷商人の屋敷へと連行されている最中だった。


(多分だがこんな檻、で神気を爆発させれば壊せそうだが……)


 檻の中には何人かの獣人と思われる人達も居た。危ないことは最後の手段い取っておこう。そう思った英二はひっそりと時を待った。


「おい、いい加減起きろ!」


 英二は、眠っているニーヤに声をかける。小さく低い声を出してこめかみを嘴で軽く突いた。


「んぎゃ!あっ……、神様……、お肉はもうありませんかぁ?」


 一旦目を覚ましたニーヤは、周囲の状況を把握するなり目をパチクリさせた。


「あ、私たち、奴隷商に売られたんですね?」


 驚く様子もなくむしろ呑気な口調でニーヤは言った。


「神様ご心配なく。どうせ行先は王都でしょ?どうせならこのまま王都まで送ってもらいましょう。王都には冒険者ギルドがありますから。そこで『肉食もできる、飛べる格好いい亡骸』を依頼したらいいのですよー!」


 そう言い放つと、ニーヤは英二の背中に頭をこすりつけ再び目を閉じた。


「神様がいればこの檻くらいすぐに壊せます。私が寝ている間に脱出するのも芸がないからやめて下さいね。見せ場は私の演出があってさらに映えるのですよー」


 小声でそう言うニーヤに呆れる英二。


 その言葉を発した虹くじゃドランゴに驚き目が釘付けになる獣人たち。


 英二は文句を言おうとしたがすでにニーヤは既に深い眠りこけ小さないびきをかいている。


 英二はため息をつく。


 この状況を逆に楽しんでいるかのようなニーヤに、腹立たしさと、どこか呆れたような安心感を覚える。


(ま、いいか。どうせ王都に行くつもりだったんだ。王都の奴隷商の屋敷か……、そこなら吹き飛ばしてもいいかな?)


 英二は己の新しい体、そしてニーヤの安眠のため、王都までの旅路を檻の中で耐えることにした。


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第8話・プリティーエンジェルが物理な件


 奴隷商に連行された英二とニーヤを乗せた荷馬車は、数日後、ついに王都にある奴隷商人の豪奢な屋敷へと到着した。


 英二は足枷を、ニーヤは手枷をつけられた状態で、他の奴隷達と一緒に屋敷の庭に並ばせられた。この足枷と手枷にもさらに強力な細工が施されており、英二は神気を使えずにいた。


 庭に現れたのは奴隷商の頭であるオーリカ伯爵。


 財力によって貴族の地位を手に入れた三代目で、奴隷貿易でさらなる富を築き上げ、侯爵への昇格を目論んでいる傲慢な男だ。


 オーリカはふんぞり返り奴隷達を眺めた。


 そして並んだ奴隷たちを品定めするように杖で突いて吟味していく。


 そしてニーヤの前に立ち止まる。


「ほう。珍しいエルフの娘か……。だが、るからに細いな。まだガキだ。ま、そう言うのが好きなやつもいるだろう?」


 オーリカの言葉にニーヤの顔が怒りに染まった。


「このプリティーエンジェルなニーヤ様を、クソガキだと!?」


 ニーヤは怒りで全身を震わせた。


 オーリカは「クソガキとは言ってな……」と弁明したが、次の瞬間、ニーヤの細腕にかけられていた手枷が、物理的な力によってミシリと音を立てた。


「ガキではないのだー!成熟した乙女なのだー!」


 怒りの力によりニーヤの手枷はあっけなく引きちぎられ、両手を打ち付けるようにして合わせた結果、その全てが砕け散った。


「プリティーエンジェルの魅力が分からないバカな男、成敗!」


 ニーヤはそのままの勢いでオーリカの顔面を殴りつけた。


 ガツン!という鈍い音と共に、伯爵の巨体が宙を舞い地面に激突、ゴロゴロと転がると建物にぶつかって止まる。


「な、なんだ!?」


 護衛たちが慌てふためく中、ニーヤは英二に向かって叫んだ。


「神様ぁ?こんなもの紙切れ同然ですよ?」


 ニーヤは瞬時に英二の背後に回り込むと、両手でドランゴの足枷を鷲掴みにした。


 渾身の力で一気に握りつぶされた。


 英二の神気を封じていた足枷はニーヤの純粋な暴力の前には、何の障害にもならなかったようだ。


 足枷を破壊された英二は全身に自由と神気が戻るのを感じた。


「よし!」


 英二、にじくじゃドランゴ神は大きく翼を広げ、奴隷商の庭の上空へと一気に舞い上がった。


 ニーヤはそのまま護衛や他の奴隷商の部下たちを相手に暴れまわっている。エルフ族の持つ高い身体能力に加え、300年の封印生活で溜め込んだエネルギーを一気に解放したのだろう。


 次々と男たちをなぎ倒し、最後には庭に立っている者はいなかった。


 ニーヤは鼻血を流して倒れ込むオーリカ伯爵の尻に片足を乗せ、「フハハハハ!」と高笑いをした。


「どうです神様!プリティーエンジェルな神徒にふさわしい活躍でしょう!」


 だがそんなニーヤは、騒ぎを聞きつけ駆けつけてきた王都の衛兵たちにより一時拘束された。


「すまないが、事情を確認するまで大人しくしてくれないか!」


 泣きそうになりながら必死に頼み込む老年のおじさんの説得に、さすがに返り討ちにすることはしなかったようだ。


 もしニーヤが暴れたら止めようとは思うが、その時に被害者を出さない自身がなかった英二。その年配のおじさんに深く感謝した。


 事情聴取の結果、オーリカ伯爵の違法な奴隷取引が明るみに出たことで、ニーヤと英二は正当防衛としてすぐに釈放された。


 こうして解放された英二とニーヤは、本来の目的地である冒険者ギルドへと向かうことができたのだった。


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