第6話・ドランゴ神には不満が残る件
虹くじゃドランゴ神となった英二は、その新しい体と翼の感触を確かめるように、エルフの里の広場に着地した。
「神様!素晴らしい!神々しいとはこのことです!まさにプリティーエンジェルな私が仕えるに相応しいお身体です!」
ニーヤは目を輝かせ興奮を隠せない様子だ。
英二も自身の新しい姿に満足していた。
力強く、そして美しい……。
これで空を自由に飛び回り、思う存分世界を探索できる。
だが、まずは腹ごしらえだ!
英二は、宴の残りの肉に目をつけた。冷めてしまっているだろうが、その串刺しの脂のテカった肉片を、ドランゴの鋭いくちばしで力強く啄んだ。
「おえぇぇぇっ!!!」
次の瞬間、英二の口から肉片と胃液が盛大に吐き戻された。
強烈な吐き気に襲われ体が震える。肉の味どころかその匂いを嗅いだだけで激しい拒絶反応が起きてしまった。
英二は大きく翼を広げ空を見上げながら、その衝撃で自然と瞳から涙が流れ出た。
「しかたないですよー。ドランゴは草食ですからねー?」
ニーヤはそんな軽いテンションで言いながら、近くの地面に生えているごく普通の雑草をむしり始めた。彼女の口調には、英二の苦境を前にしても、どこか他人事のようなのんびりとした響きがある。
「ちょ、お前、なぜそれを先に言わねーんだよっ!」
英二は心の底から苛立つ感情を露わにする。
せめて食べる前に教えてくれれば、こんな惨めな姿を晒さずに済んだのにと。
ニーヤはそんな英二の気持ちなど知る由もなく、むしった草をまるで高級な料理でも捧げるようにドランゴ神の前に差し出した。
「はい、葉っぱですよぉー。旨いっすかねー?多分旨いと思いますよー?」
態度とは裏腹なその雑な言葉で差し出された草の山。
それは、泥や土も混じった、無造作なものだった。
英二は渋々、恐る恐るでその草を啄んだ。
拒否反応は無かった。
だが、旨くもない。
ただの草の味だった。
青臭く水気の多いただの草の味……。
肉も果物も受け付けない今の体では、今後は草しか食べられないという悲しい事実を突きつけられた。
「神様……、次の依代を探しましょう?」
さすがのニーヤも英二も気の毒になったのか、そう提案してきた。
英二は一瞬考えた。
確かにこのままでは満足な食事が取れない。しかしこの虹くじゃドランゴの力強く美しいフォルムは捨てがたい。これまでの依代の中で最も英二の理想に近かったこの体。
「そうだな。次の体を探そう。肉食もいける、いや、肉食以外受け付けない体に……」
英二は決断し、ニーヤに里を出ることを宣言した。
ニーヤは、すぐに族長のもとへ向かい、やたらと仰々しく伝言を伝える。
「族長っ!それにその他の雑多なエルフたちぃー、よーく聞け!この虹くじゃドランゴ神様は、この里で成し遂げた神湖の奇跡に満足することなく、更なる神威を示すため、その神威に相応しき肉体を探す旅に出ることを御決意された!」
「な、なんと!」
族長は涙を流しながら感謝の気持ちを表し、英二の旅立ちを喜んでいるようだ。
里のエルフたちもドランゴ神に感謝と祈りを捧げた。
多くの若者たちは、『御神湖』に浮かんでいた巨大ナマズを確認しに行った者も多く、英二に対し畏敬の念を抱く者も少なくなかった。
その為、仰々しく頭を地面に擦り付けた後、その旅路の安全の祈願して里に伝わるという踊りを始めた。
(単に草食なのが嫌になっただけなんだけど……、まあ新たな旅だし悪くはないか?)
英二は心の中でツッコミを入れつつ、里の者たちの歓声を聞き、良く分からない踊りを堪能した。
そして旅立ちを惜しむエルフたちが集まり、最後ということで里の綺麗どころの女性エルフたちが次々と英二の周りに集まってきた。
美エルフたちの囲まれた、美エルフに抱きかかえられるようにして、柔らかな太ももに座らせられる。
右隣に座る幼エルフは、遠慮がちに英二のドランゴの頭を撫でてくれる。
左からは色気のある姉エルフが、艶めかしい指で英二のドランゴの脛を撫でまわしてくる。英二の鱗の上をなぞるその仕草に、英二は思わずだらしない顔をしてしまう。
そしてその光景を、正面からギギギと悔しそうに歯噛みするニーヤが睨んでいた。彼女の額には青筋が浮いている。
「神様!後でお話がありますからね!」
そう言われたが、英二は特に気にすることもなく、まったりと美エルフに囲まれた至福の時を過ごした。
そんなこんなで一夜が明け、謎の頭痛に戸惑いながら目を覚ました英二。昨夜の出来事の記憶がどうにも曖昧だ。
だがそんなことは些細な事。
英二は新しい依代、そして美味しい食料を求めて、ニーヤと共に里を後にした。
虹くじゃドランゴ神の食肉を求める旅が、今まさに始まった。
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