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[全12話]神へと転生した魂は自称プリティーエンジェルと肉食求め旅をする。  作者: 安ころもっち


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第4話・湖に力を注いでみた件


 カブトム神となった英二は、『御神湖(おしんこ)』の全体に広がる濁りを吹き飛ばそうと、魂の力を湖の深部へと集中させていた。


「『御神湖(おしんこ)』よ、清まれ!」


 その時、英二は強烈な闇とねっとりとした液体に全身を包まれた。


「!?」


 何が起きたのか理解できない。周囲は真っ暗闇で皮膚を通して伝わる感覚は粘っこい。そしてカブトムシの硬い甲羅すら溶かしそうな、焼けつくような激しい痛みが襲ってきた。


(な、なんだ!?消化されているのか!?)


 自分が何かの生物の腹の中にいるのだと気づいた瞬間、英二は魂の底から突き上げるような恐怖で悲鳴を上げた。


「あっ、あああああああーーー!!!」


 その絶叫と共に英二の魂から、祠の時とは比べ物にならないほどの制御不能な神気が溢れ出した。体が内部から熱源と化し、凄まじいエネルギーが周囲の液体と内壁を破壊した。


 ドゴォンッ!!


 湖面が大きく爆発し濁った水しぶきが竜巻のように天高く舞い上がった。


 爆発の衝撃で英二の依代であったカブトムシの体は、湖の縁へと吹き飛ばされ散開していた。


 水飛沫が収まった後、ニーヤが慌ててその体へと駆け寄る。


「カブトム神様ーッ!大丈夫ですか!?えっ、マジっすか?神様ぁー!」


 ニーヤは、バラバラに砕け散ったカブトムシの亡骸を見て泣き崩れた。角は折れ、光沢を放っていた甲羅は割れ散乱している。


 見るも無残な姿になった亡骸に縋りつくニーヤ。


(ああ……、また、魂だ)


 英二は意識を失わずに魂だけがスッと抜け出し、空中をフワフワと漂いながらその光景を見下ろしていた。


 湖面にはドロリとした巨体が腹を上にしてぷかりと浮いている。体長は優に3メートルを超える巨大なナマズ。口元からは消化されかけの植物や魚の残骸が吐き出されておりかなりグロい。


(どうやらこいつが原因だろうな?)


 このナマズこそ、『御神湖(おしんこ)』の生態系を乱し、濁りの原因となっていたのだろう。英二の神気爆発により、その巨体は一瞬にして絶命したようだ。


(これで、湖の濁りの問題は解決するだろうま)


 納得する英二。しかし、今の英二には体が無い。このまま魂でニーヤの前に現れても良いのだが……。


 英二は憑依する対象を探して周囲を見渡した。


 すると湖畔の横に設定されている建物の外に吊り下げられた、エルフの里の工芸品が目に留まった。木製の小鳥の玩具だ。紐を引っ張ると、首がカクカクと動くユーモラスな一品のようだ。


 そんな工芸品ではあるが、その中のひとつに魂のような物が宿っているのを感じた。


(よし、これならいけるだろ?これにしよう)


 英二の魂は予想通りカクカクな玩具へとスッと乗り移った。


 そしてカクカク神(仮)となった英二が視線を向けた先には、カブトムシの残骸を抱きかかえ、瞳に涙を滲ませながら必死に看病するニーヤの姿。


「カブトム神様!目を開けてください!生きて……、生きてまたこの私を輝かせてくださぁーい!」


 ニーヤは砕けたカブトムシの頭部に、まるで人工呼吸でもするように、必死に息を吹きかけているのだった。


 英二が乗り移ったカクカク玩具は、その光景を見て、コクリ、コクリと、ただ静かに首を上下させた。


「カブトム神様!生きて!生きてつかぁーさぃ!」


 ニーヤのその必死な声の最中、彼女の視線がふと英二の乗り移ったカクカクな玩具に向けられた。


 キッと、ニーヤの美しいエメラルドの瞳が鋭くなる。


 そしてカブトムシの残骸から手を離すと、玩具へと顔を近づけりニーヤ。


「神様?」


 ニーヤは小声で囁いた。


 英二がカクカクと首を縦に振ると、彼女は一瞬で安堵の表情に変わった。


「もうっ!神様っ!」


 安堵の直後、ニーヤはぷうっと頬を膨らませ、堰を切ったように小言を始めた。


「いいですか?この神様の第一神徒であるプリティーエンジェルな私が、必死で無事を祈っていたのですよぁー?カブトム神様の残骸を見て、どれほど心配したと思っているんですかぁ?」


 ニーヤは、カクカク玩具に向かって身振り手振りで訴える。


「早く出てきて無事を知らせてくれてもいーじゃないですかぁー?私が、どれほど、どれほど悲しんだかっ!泣いちゃいましたよ?ええ、それはもうぼろぼろと!こんなところで一人、大泣きしていたなんて……、恥ずかしいじゃないですかぁーーー!!!」


 そう言いながら両手で顔を覆うニーヤ。


 甲高い声で「うぅ、うぅ」と、芝居がかった泣きまねをしている。涙一つ流れていないが、その顔には心底心配したという感情と、見事に騙された悔しさが入り混じっているように見えた。


 英二は、ニーヤの長々と続く小言を、カクカクと首を縦に振りながら聞いていた。


 カクカクな玩具の体では、相槌を打つ以上のリアクションが取れないのが幸いだった。


(これで『御神湖(おしんこ)』の問題は解決だろう。あの巨大ナマズが原因だったようだし、湖面も少しずつだが澄み始めているしな)


 湖面に浮かぶナマズの亡骸を眺めながら、英二はこれからについて考えを巡らせた。


(まずは、この体をどうにかしなくては)


 今のカクカクな玩具は移動に不便すぎる。


 紐を引っ張らなければ動けない。


(次に憑依する体は、できれば飛べる奴が良いな?それと、すぐにバラバラにならないような、状態の良い亡骸を手にれなくては……)


 英二は、今後の目標を頭の中で整理しながら、カクカクと首を振った。


 ニーヤは、小言を言い終えると、ハッと真面目な顔に戻った。


「『御神湖(おしんこ)』は神様の御力のおかげで、徐々に清まり始めています!これは紛れもなく奇跡です!さあ、神様、いえ、カクカク神様、里へ戻ってこの奇跡を報告(じまん)しましょう!」


 ニーヤはそう言うとカクカクな玩具をそっと建物から外し、胸に抱きしめながら里へと急ぎ足で戻り始めた。


 カクカクな玩具の中で、英二は静かに決意を新たにした。


(次はもっと強固で、もっと格好いい体に乗り移ってやるぞ!)


 カクカク神の次の依代探しは里の報告の後に持ち越しとなった。


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