第1話・転生したら神様と呼ばれた件
始まりました。本日はもう一本お届け。
加納英二は、ふと目を開けた。
「……ん?」
あたりを見回す。視界に入るのは鬱蒼とした森の緑。
深呼吸をしようとして英二は気づいた。
呼吸をしていない?
否!!!
体が……存在しない。
つい先ほどまで、英二はトラックの荷台に積まれた木材の下敷きになっていたはずだ。
信号無視のトラックに跳ね飛ばされ、激しい衝撃と共に意識を失った。
つまり自分は死んだという記憶。
今の状態はまるで空中に自身の魂だけが浮かんでいるような感覚。透き通り、重さはなく、ただそこにあるだけの存在。
「まさか……、地縛霊?」
思わずそんな言葉が脳裏をよぎる。
しかし、体が無いにも関わらず妙に清々しい気分だった。不安よりも好奇心が勝る胸躍る衝動。どうせ死んだのだ。ならばこの不思議な世界をこのまま見て回ろう。
英二は意識を向けるままに森の中を移動し始めた。
まるで水中を漂うクラゲのようにふわふわと。
しばらく森の奥地を彷徨っていると、声が聞こえた。
「そこの魂ー!」
慌てて振り返る。
そこにいたのは、自分と同じように透けたぼんやりと光る魂だった。性別は判然としないが声はやや甲高く、女性のように聞こえた。
「な、なんですか……?」
英二が戸惑うとその魂は感動したように声を震わせた。
「おお、その神気!間違いありません!どうか……、どうか私の、超絶美形な私のお願いを聞いていただきー、たいっ!」
(なんだこのテンション、それに神気?何を言っているかわからん……)
そう戸惑う英二。
その魂は英二を急かすように森の奥にある古びた小さな祠へと案内した。
祠の中。
重苦しい空気が立ち込めていた。
薄暗い光の中に一人の女性が横たわっており、一瞬ビビる英二。
その女性は透き通るような色白の肌をしている。
長く先が尖った美しい耳があった。
絹糸のような銀色の髪が煌めいている。
閉じた目元すら完璧に整った、まさに超絶美形と言って差し支えない姿であった。
彼女は古木の根元で作られた寝床に、まるで死んでいるかのようにだらりと……、だらしなく股を広げて寝そべっていた。
「私の体です。もう300年程この祠に封印されていて……。このままじゃ、退屈で腐っちゃいます!!!」
そう言うのはここまで英二を案内してくれた魂だ。
英二は驚きつつ尋ねた。
「あなたは何者ですか?それに、どうしてこんなところに封印されたんですか?」
目の前で揺れる魂は明るい声で答えた。
「私はニーヤと申します!近くの里で暮らしていたエルフ族なんですが、見ての通り、里でも一、二を争う絶世の美女、プリティーエンジェルなんです!」
「で、なぜ封印を?」
英二ははぐらかされた部分を聞き返す。
「封印の理由ですか?いやーまあ、ちょっと悪戯がすぎちゃいまして……。テヘヘッ!」
英二にはその揺らめく魂が舌を出し頭をこつんとするアホな姿が見えた気がした。
「で、悪戯って?」
平常心を装い確認する英二。
「はい!里の精霊樹っていう古臭~い木がありましてね。その幹に『絶世の美女!里の宝☆ニーヤ様☆見参!』って、私のサインを彫っってあげたですよ?そしたら~、じーちゃん怒っちゃって?」
(それは悪戯というには少々度が過ぎている気がするが……)
そう思った英二。
ニーヤはその罰として里から遠く離れたこの祠に、特別な術で封じられてしまったとのことだった。
「魂はこうして自由なんですが体に戻ることができないんですよねー。術のせいで遠くまでも行けないし?もう退屈で退屈で……。だから、神様にお願いです!どうか、私を助けてください!」
ニーヤと名乗ったエルフの魂は、英二の周りをせわしなく回った。
「それにしても、何をどうしたら……」
とは言え、英二に助ける術があるはずもなく、しかし目の前で困っている若干うざい魂がいる。
放っておくこともできずに頭を悩ませる。
当然だが結論など出るはずもなく、英二はとにかく現状を変えようと彼女の横たわる体に近づいてみた。
ドォーン!
まるで周囲の空気が弾けたような爆発音が鳴り響いた。
その音と振動にびびる英二は、祠を覆っていたであろう重苦しい空気が一気に晴れ、清々しい光が差し込んできたことに戸惑っていた。
そして……、横たわっていた女性がゆっくりと目を開け体を起こした。
「ありがとうございます!」
声の主は先ほどの魂ではなく、目が覚めた起き上がり、右手を突き上げぴょんぴょん跳ねているニーヤだった。
魂の姿だった彼女は無事に元の体の中へ戻ることができたようだ。
そしてニーヤは英二の魂に向かって深々と頭を下げた。
「ニーヤと申します!私はあなた様によって長き封印から解き放たれましたヒャッホー!」
若干可笑しなテンションで喜ぶ彼女は真剣な眼差しで英二を見つめた。
そして可笑しな動きを繰り返すソレを見て、深く考えることを止めた。
「あなた様が私に触れた時、私の体を縛っていた術がまるで霧散するように消えました。これはただの力ではありません。私を呼ぶ声に導かれた、尊き神の御力です!まさに神です、ゴッデスです!」
「ゴ、ゴッデス……?」
戸惑う英二に、彼女は真摯な誓いを捧げた。
「私はあなた様の初めての神徒として、永遠の忠誠を誓います。神様……どうか、あなた様のご意思のままに、この世界を私と共にお巡りください!よろぴくね!」
彼女の透き通るようなエメラルドの瞳には、一切の迷いがなかった。
口調のわりになぜ目の横でピースなのか疑問に思いながらも、ニーヤを神徒と認める英二。
こうして英二は、自分がなぜこの世界に転生し、なぜ魂だけの存在となり、なぜ神と呼ばれたのかと……。
何も分からないまま、自称超絶美形なエルフのニーヤとの、この世界を巡る旅が始まった。
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