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第9話 ★ジュエルフラワーとジニアの決意

 ジュエルフラワーの種はそれぞれ異なる能力を持っている。

『二枚爪を治す』『髪の毛をサラサラにする』などちょっとしたお役立ち能力から『思い浮かべた建物を実体化させる』『いかなる病も完治させる』など、種類は様々だ。


 けれど共通している点がいくつかある。



 ①能力を使えるのは一度だけ。

 使用後は種が割れたり消滅したりすることもあれば、色が変わるだけ、はたまた見た目には変化が起きないケースもある。



 ②種に宿る能力を知ることができるのは、ジェルフラワーの種を収穫した者のみ。種を拾うと同時に頭の中に情報が流れ込んでくるという話だ。


 そのためジュエルフラワーに不思議な能力があることは噂どまりになっている。


 また採取前のジュエルフラワーの種と収穫後の種とでは価値が異なる。能力目当ての者からすれば、収穫後の種の能力を確かめる術がないからだ。


 もっとも宝飾品として求める者からすれば関係ないため、収穫後であっても価格が一定より下回ることはないのだが。



 ③一つの花から生まれる種は二つだけ。うち一つは花が枯れた直後、その場に根付く。動かすことはできない。一度根付いた花を動かそうとすれば枯れてしまう。


 また、もう一つの種も一日以内に収穫しなければ消えてしまう。

 消えた種は離れた場所で種として発見される場合もあれば、どこかで根付くこともある。


 離れた場所で発見された種を拾った者が能力を把握できたことから、妖精によって運ばれたのではないかと考えられている。


 今回ジニアが使用した種も、先祖が裏庭で拾ったものらしい。



 ④同じ能力が同時に存在することはない。どのような原理かは不明だが、最低でも使用から十年経過しなければ発見されない。



 ⑤能力の使用には、望みに応じた代償が必要となる。また大きな望みを叶えた場合、次に発見されるまでの時間も長くなる。


 例えば、二枚爪を治す力であれば、修復範囲はあくまでも二枚爪のみに固定される。指の本数に応じて代償がやや変動するが、あまり大きな代償は必要ない。


 それこそ林檎が目の前から消える程度だ。種自体も能力を失うだけで見た目に変化はない。この能力を持っていた種は宝飾品として多く残っている。


 一方で『いかなる病も完治させる』のように、現在の状態が固定化されていなかったり、能力を使える幅が広かったりすると、それだけ代償の大きさも変わってくる。


 ⑥ 能力使用時の代償は使用者の価値観、もしくは使用する能力によって変動する。


 ⑤にも関係することだが、多くの場合は前者に当てはまる。後者はごく一部だ。


 使用する能力によって代償が変動する例として最も有名なものは『思い浮かべた建物を実体化させる』能力。


 この種は子供が収穫、もしくは拾った場合にしか発現しない。

 またこの種のサイクルは非常に早く、十年から十一年に一度必ず発現する。つまり手に入れた者は一年以内に使用している。過去に実体化された物は犬小屋、家、孤児院など。


 年齢だけでなく、置かれている状況や性格なども関わっているのではないかと考えられている。


 いずれも使用者が大きな代償を支払うことはなく、けれど建物は普通に建てられた物よりも丈夫であった。二百年前に実体化された孤児院に至っては今も使用されているほど。



 ⑥はやや特殊なこともあり、ジュエルフラワーの共通点として認識されたのはほんの二百年ほど前のこと。


 これ以外にも知られていないルールが存在する可能性は否定できない。

 今回はそれに当てはまったのか、はたまた完全なイレギュラーなのか。


 ジュエルフラワーの種は、人間の力ではどうしようもできないことを実行する能力を持つ。ジニアとて大きな代償を支払う覚悟はしていた。


 だが妻の友人であっただろう、メラニアを巻き込むつもりなんてなかったはずだ。

 モモンガに至ってはまるで覚えがない。時間を巻き戻った際、なぜかジニアの頭の上に乗っていた。


「最近はどこかに出かけているようで、夜になっても帰ってこない日もあるくらいです。まぁ腹が減ったら帰ってきますが」


 野性味はまるでない。食事は人間が用意するのを待っているし、遅くなればジニアの頭をペシペシと叩いて催促だってする。ジニアの制服のポケットの中で眠ることもある一方で、部屋に用意させた巣に入れるクッションはやけにこだわっていた。


 妻が飼っていたペットなのだろうか。

 ややふてぶてしいモモンガだが、共に生活をする上でこれといって困った点もない。

 早くも学園や王都に慣れているようだ。巻き込んでしまった申し訳なさはあるが、この時間に適応できているようでホッとした。今のところは自由に生活させている。


「巻き戻り仲間のメラニア嬢に会いに行っているのかもな」

「一緒にいるところを見かけたら話を振ってみようと思います」

「時間を戻ってきていること、メラニア嬢に告げるつもりはないのか?」

「親しかったのは妻ですし、メラニア嬢だってそんなことを言われても困るだけでしょうから」


 愛する妻とは二度と会えないかもしれない。

 会えたところで、ジニアも気づけるかどうか……。もう一度夫婦となることは叶わないだろう。


 それこそが時を戻した代償だとしても、彼女がどこかで笑ってさえいてくれればそれでいい。


 ジニアは記憶の中の妻に思いを馳せる。

 そして、せめて妻の友人を悪意から守る盾くらいにはなってみせようと決心するのだった。



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