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第7話 学友として

 模範的でありつつ、王族に責任を押し付けるような回答でもある。

 口にしてから気づいた。


「なるほど」

 スゥッと息を吸うような音が続き、思わず身構える。だが王子の期待に応えることはできたらしい。緊張感を抱かせる圧は消え、代わりに彼の顔には笑みが浮かんでいた。


「私は王族として、君のような家臣に恵まれたことを誇りに思うよ」

「ありがとうございます」


 メラニアの身体から力が抜ける。

 その時、ドアからコンコンコンと軽い音が聞こえた。


「誰だ」

「ジニア=ウィルヴェルンです。入室の許可をいただきたく」

「誰かと思えばジニアか。入ってくれ」

「失礼します」

「一体どうした?」

「どうしたもなにも、王子が渦中の令嬢を生徒会室に連れ込んだと噂になっております。この噂を聞いたらフランシスカがどう思うか……」


 入室したジニアは意外にも気安い様子だ。

 フランシスカを呼び捨てにしてるのも気になった。死に戻る前の、メラニアが知っているジニアは必ず敬称を付けていた。王子とフランシスカ、両者とよほど親しくなければそうするのが当然だ。


 だが王子はジニアにそれを指摘することはなく、彼の質問に答える。


「これは王命だ。メラニア嬢を一時的に悪意から守るためのものでもある。すでにフランシスカにもそう伝えてある」

「え」

「メラニア嬢、何か文句でも?」

「いえ、何もありません!」


 王子の独断だと思っていた、とは口が裂けても言えない。

 少しでも心の声が漏れないよう、メラニアは唇をぎゅっと結ぶ。


「ならいい」

 フッと鼻で笑う王子。だが嫌な気はしない。そこにあるのは絶対的な自信と、揺らぐことのないフランシスカへの愛だけだ。


 王命というのも、箝口令を敷いたことによってガルド家がしわ寄せを食らわないように配慮した結果なのだろう。同時に噂が加速することで、残った貴族の間に新たな溝が生まれないように先手を打ったとも言える。


「こんな大切な時期に婚約者のいる男子生徒と変な噂が立つなど……。いくら王命とはいえ、もっとやりようがあったでしょう」

「一刻も早く確認すべきことがあったのでな。そうだ、ジニア。君も協力してくれ」

「協力、ですか」

「そう身構えるな。ただの人避けだ。しばらく君がメラニア嬢の近くにいれば下手に寄ってくる者はいないだろう」

「まぁ王子が行くより私の方がマシではある、か。私は構いませんが、メラニア嬢は困るでしょう」

「困りません! 是非、ジニア様のことを友人に紹介させてください」


 即座に否定したメラニアに、ジニアは目を丸くしている。

 遅れて、眉間に皺が寄っていく。困っている時の仕草だ。


「……無理してないか?」

「全く、そのようなことはありません」

「メラニア嬢の友人も、彼女に悪意がなければ、警戒するような者達ではない」


 王子はメラニアの言葉にウンウンと頷く。メラニアを気遣っているようでいて、顔には『用事が済んだのだからさっさと行け。早くフランシスカとランチがしたい』と書かれている。


 ジニアにも王子の心の声が聞こえたのだろう。深いため息を溢した。




「友人のルイとエルザです。ルイ、エルザ、こちらはジニア様。しばらく一緒に行動してくださることになったの」

 固まる二人。ジニアは一瞬だけ寂し気に眉を下げた。けれどこの反応には慣れているのか、いつものキリッとした表情に戻った。


「突然のことで申し訳ないが、なるべく君たちの邪魔にならないよう心掛ける」


 ペコリと頭を下げられ、ルイとエルザは慌てだす。


「あ、いえ。ジニア様も一緒にいてくださるのはとても心強いです!」

「邪魔にならないよう、なんて寂しいこと言わないでください。この機会に学友として互いのことを知っていきましょう」


 メラニアとジニアが夫婦として初めて参加した夜会でも、大好きな友人はジニアの良さをすぐに理解してくれた。今度は学友として親しくなってくれれば、と願わずにはいられない。


「それでは食堂に行きましょうか。早く行かないと昼食を食べる時間がなくなってしまうので」

「王子ももっと時間を考えてほしいわよね~。今回はちゃんとフランシスカ様にも声かけてからいったみたいだけど、ちょっと困ってたわよ。メラニア、変なこと言われてない?」

「うん、大丈夫」

「ならよかった」


 ジニアに気を遣うルイと、いつもとあまり変わらないエルザ。

 王子への文句を普通に話す様子にジニアは面を食らっている。だがマイナスな印象はないようだ。ポリポリと頬を掻きながら、素直な感想を告げる。


「なんというか、王子が君達を信頼する気持ちが理解できた」

「そうですか?」

「ああ。そうだ、敬語は止めてくれ。学友なのに変にかしこまる必要もない。名前も呼び捨てでいい」

「そう? なら遠慮なく、ジニアと呼ばせてもらうわ」

「エルザは相変わらず適応が早いな……」

「さっさと慣れた方がお得でしょ?」

「まぁそうだけどさ。改めて、これからよろしくな、ジニア」

「ああ、よろしく頼む」


 紹介も済み、食堂に向かって歩き始める。

 昼休みの半分が経過してしまっているため、気持ち早足で。


「それにしても今日、ジニア様とランチをご一緒できてよかったです」

「今日、何かあるのか?」

「今日のデザートはラムレーズン入りのチーズケーキなんですよ。私の分もよければ」


 ジニアはラムレーズンが好きで、中でもラムレーズン入りのチーズケーキが大好物なのだ。結婚後、メラニアはジニアのために度々ラムレーズン入りのお菓子を作っていた。その時、学生時代は食堂のデザートに出てくるのが楽しみだったと教えてくれた。


 自分のせいでジニアが大好物を食べ損ねることがなくてよかった。

 先程気遣ってくれたお礼には及ばないが、死に戻り前に受けた恩と合わせて、これからコツコツと返ししていこう。


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