第40話 君以外愛することはできない
悲し気に目を伏せると、正面から震えた声が聞こえてくる。
「俺は、メラニア以外を愛することはできない。記憶を忘れても、何度だって君に惹かれてしまう。メラニアといる時が、君のことを考えている時が一番の幸せなんだ」
ぽつりぽつりと小さな声を続ける。
これが長年見えていなかった真実なのだろうか。こんな都合のいい話があっていいのだろうか。メラニアの視界が涙で濡れる。
「私で、いいんですか?」
「君じゃなきゃダメなんだ。メラニアこそ、俺でいいのか? 俺は結婚する時も自分の想いを打ち明けられず、結婚した後だって学生時代に戻して欲しいと言われるのが怖くて、ずっと家宝の存在を隠し続けていた」
「信頼されていなかったわけじゃないんですね……よかった」
教えてもらえなかったことにはちゃんと理由があったのか。メラニアの胸のつかえが取れた。
「あの日、帰りの馬車で種の能力を打ち明けるつもりだった。本当はメラニア用の種が落札できたらよかったんだが、格好はつかずとも、これから先も共に生きて欲しいと伝えるつもりだった。……もっともフランシスカが落札した種も、結局は俺が使ってしまったが」
「同時に二つの種を使ったってことですか?」
フランシスカが落札した種は、メラニアが刺された日に見に行く予定だったジュエルフラワーから採取できる種のはず。
あの種には一体どんな能力があったのだろうか。
それに別々の能力を同時に使うなんてことが可能なのか。
未だジュエルフラワーの種の能力に関する知識が浅いメラニアにはイマイチ状況が想像できない。
「フランシスカが獲得した種の能力が『増幅』でな、メラニアの訃報を聞いた彼女が譲ってくれたんだ」
「フランシスカ様が……。時間を遡る前の私達は今ほど親しくなかったのに、なんでそんな大事なものを」
「フランシスカは学生時代からずっとメラニアのことを気にかけていたから。本人が隠したがっていたから黙っていたけど、会う度にメラニアのことを聞かれていた。本当は今みたいに親しくなりたかったんだと思う。ジェルケイブス教授の授業中に戻ったのもフランシスカの案なんだ。終わったらすぐに俺が教室に駆け込んでメラニアに接すれば、きっと王子とフランシスカ、ルイとエリザ、そしてジェルケイブス教授のうちの誰かが異変に気づくからと。違法サロンを潰す時期としてもちょうどいい。さすがに俺がメラニアに関する記憶を忘れたことと、メラニアが記憶を所持したまま戻ってきたことは予想外だったけどな。二つの種を使った影響なんだろう」
一番にメラニアの異変に気づいたのは、隣の席のフランシスカだった。彼女もまた以前からメラニアを気遣ってくれていたのだろう。
一度目の学生時代、恐れてばかりいた王子の嫉妬も何度だってメラニアを助けてくれた。
彼らには感謝してもしきれない。
「あ、じゃあ図書館の妖精は関係なかったんですね」
「そうだな」
最大の謎であったメラニアが死に戻った理由も、これで説明がつく。
図書館の妖精などいなかった。
そう考えると少し寂しいが、大人になった彼は今、メラニアの前にいる。ならば多くを望むのは野暮というものだろう。
だがももちゃんはまたしても抗議の声を上げる。
「何を言うか! 関係大アリだ!」
「どういうことだ?」
ジニアの疑問に答えるため、ももちゃんはテーブルの真ん中に降り立つ。そして胸を張って宣言する。
「何を隠そう、我が輩こそが『元祖 図書館の妖精』だからな!」
「元祖とかあるのか?」
「我が輩はお前が図書館に足を運ぶ何百年も前から、度々王都の図書館に転移してはそこを訪れる子供達の様子を見守ってきた。それをたかだか二、三十年程度しか生きておらん若者なんぞに『図書館の妖精』の看板を譲るつもりはない!」
元祖に看板と続くと、不思議と歴史ある料理店が頭に浮かぶ。
そういえば例の店はまだ代替わりをしていないのではなかろうか。
これまた夜会に出席するために王都を訪れた際、ジニアと立ち寄った店である。家庭料理をメインに出す食堂といった雰囲気の店だったが、どの料理もそれはそれは美味しかった。
だが店主曰く、先代の振る舞う料理には到底敵わないと。いったいどんな料理を出すのだろうかと、二人で話していたものだ。
ジニアの記憶が戻ったのなら、今度二人で足を運んでみるのもいいかもしれない。




