第27話 その後
空が夕暮れに染まり出した頃。
メラニアがぼんやりと窓の外を眺めていると、宿の前には複数の馬車が停まった。いずれも立派な馬車だ。新たな宿泊客が来たのだろう。
すぐに興味をなくしたメラニアだったが、それからすぐにドアの外からダダダと駆ける音が聞こえてくる。
「なぜ君達がここに!」
「連れてきてもらったの!」
「そこを退いてちょうだい! メラニア! メラニアは無事なの!」
ドアを突き破る勢いで現れたのは、エリザとフランシスカだった。そのままメラニアの元まで一直線で進み、抱きしめる。
「よかった……生きてる」
「ごめんなさい。私のせいで危険な目に遭わせて、本当にごめんなさい」
「フランシスカ様は何も悪くありません」
「いいえ。一緒に図書館に行けばこんなことにはならなかったわ」
ごめんなさい、ごめんなさいと何度も繰り返すフランシスカ。どうしたものかと困っていると、遅れて現れたルイと王子と目が合った。
まさかフランシスカだけでなく、王子まで来てくれるとは……。時間を考えると、メラニア達が騎士と合流する前から王都を出発していたのだろう。
「ご心配をおかけしました」
「罪人の脱獄はこちらの不手際だ。怖い思いをさせてしまい、申し訳なかった」
王子は深々と頭を下げる。その様子にメラニアはギョッと目を見開いた。
「頭を上げてください! この通り、私はなんともありませんでしたから」
無事をアピールするために両手を広げたいところだが、フランシスカとエリザはメラニアに抱きついたまま。メラニア自身、じんわりと広がる温かみに心地よさを感じている。王子相手に不敬だとは思いつつ、自由な手だけをブンブンと振る。
「そうはいかない。公爵にも改めて謝罪させてもらう。その前に宮廷医師に診せるのが先だが。すでに王都からこちらに向かっている」
「お気遣いありがとうございます。ところでその……シリスさんはどうなりましたか?」
「シリスというと、君の誘拐を手伝った令嬢か。彼女なら昨晩のうちに保護された。治療された後、事情聴取を受けることになるだろう」
「そうですか……よかった」
日頃魔物と戦っている冒険者達ですら、夜の森は恐ろしいと話す。負傷した令嬢ともなれば助かる見込みは薄い。そんな中で、早々に救助されたシリスは幸運以外の何者でもない。
一人の男性を愛するが故に犯罪に手を染めてしまった彼女にとって、この先これ以上の幸福が訪れるとは限らない。それでも加害者であり、被害者でもある彼女には強く生きてほしいものだ。
「ジェルケイブス教授も改めて診てもらったが、ギックリ腰だけで済んだようだ。記憶はどうにもならんが……」
「王子、教授のことはまだメラニア嬢には……」
「そうだったか。すまない。なら後日落ち着いた時にでも」
「教授がどうかされたんですか!?」
前回はなかったはずの臨時休講には、やはり何かしらの意味があったのか。
メラニアの顔から血の気が引いていく。
「順番に説明しよう。繰り返すが、教授は無事だ。離れて暮らしていた息子さんも来てくれて、今後は息子夫婦と暮らすことが決まった」
王子はそこから教授の身に起きたことと、すぐにメラニアの救助に駆けつけられた理由を教えてくれた。
「そんな……私のせいで教授が……」
メラニアは小さく震える。
トロルに関してのレポートを書いたのは一年生の時だ。
死に戻る前、子供を助けて亡くなったという話も真実かどうか分からない。今回アルゲルの脱獄に力を貸した者達によって隠蔽されていたとしたら……。
大勢の生徒達によって見送られた棺を思い出し、涙が溢れる。
同時におとぎ話だと思っていたジュエルフラワーの種に宿る力が、教授の命を守ってくれたことに感謝する。
「教授はこの一件で、ジュエルフラワーと妖精に強い興味を持たれたようだ。早くも資料を読みたいと騒いでいる。だから父のことは気に病まないでほしいと、彼の息子から言伝を預かってきた」
教授と同じく、彼の息子さんも優しい人なのだろう。
こんな時でさえメラニアに気を遣ってくれる。
「教授とお会いすることはできますか? 私のことは忘れていても、お礼だけはお伝えしたくて……」
「彼らならきっと歓迎してくれるはずだ」
王子は柔らかく微笑み、王都に戻ったら連絡を取ると約束してくれたのだった。




