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第24話 トロル襲撃の真相

 ウルフを一掃したジニアは周りをよく確認し、他の魔物がいないかを確認する。

 そして剣を納めてからメラニアに駆け寄った。


「メラニア嬢、動けるか?」

「はい。助けに来てくださって、ありがとうございます」


 メラニアは背中を支えてもらいながら立ち上がる。

 ジニアとももちゃんが来てくれたおかげで、すっかり恐怖と震えが引いていた。


「いや、まだだ。トロルがこちらに向かっている可能性がある。すぐにここから離れよう」

「トロルのことなら心配はいりません。元は温厚な種族だけあって、謝ってトロールウッドを返したら帰ってくれました」

「そうか、これはトロルの襲撃の跡だったのか……。すまない。私がもっと早く駆けつけられていれば……」


 周りの惨状が引き起こった原因を知り、ジニアの眉間に皺が寄る。


「そんな! ウルフから守っていただけて、とても助かりました」

 メラニアは顔の前でブンブンと手を振る。ジニアは何も悪くない。トロルもそうだ。悪いのは地面で伸びている略奪者達。


 ただの学友でしかないメラニアのために、こんなところまで来てくれたジニアには感謝するばかりである。


「ありがとうございます」

 深々と頭を下げる。


「だが君がトロルに襲われなかったのは運が良かっただけだ。もし間に合わなかったらと想像しただけで目の前が真っ暗になる」

「うむ。トロルはぬしを襲わないと分かっていたが、転倒していた馬車を見た時は我が輩も肝が冷えたぞ」


 ジニアの言葉にももちゃんが続く。

 すると一緒に登場したはずのジニアがギロリとももちゃんを睨んだ。


「なぜ襲わないと言い切れる」

「そこに転がっている奴らが襲われたのは、身体にトロールウッドの匂いが染み付いておるからだ。頻繁に燃やしていなければここまで強く染み込まん。我が輩も鼻を摘まみたいくらいだ。こんなのが近くにいたら、ぬしのことなど目に入らん」


 ももちゃんは小さな手を鼻に当て、渋い顔をする。


 トロルのボスがメラニアの身体の匂いを嗅いだのは、アルゲル達の仲間ではないか確認するためだったのか。メラニアがトロールウッドに触れたのは、木箱からおもちゃを取り出す時だけ。


 他と比べ、圧倒的に匂いが薄かったために無害と判断された。

 そう考えると、トロル達の行動に納得がいく。


 もっともあれだけ怒りを露わにしていれば、メラニアを襲ってもおかしくはない。許してくれたのは単純にトロルが温厚な種族だったから。彼らの優しさに救われたのだ。


「大事な木を燃やされて怒ってたんだね」

「トロルは温和な生物だ。森を管理するための伐採や焼却であれば、怒りを露わにすることはない。繁殖期には欠かせないアイテムが足りずに困っている時に、略奪者は惜しげもなく使用しているから許せなかっただけだ」

「繁殖?」


 意外なワードに、思わず首を傾げる。ジニアも意外そうな表情をしている。

 ももちゃんは二人の疑問に応えるよう、大きく頷いて言葉を続けた。


「トロールウッドには強い催淫作用と鎮痛作用があってな、繁殖能力が弱いトロルはそれらを活用しなければろくに子孫を残すこともできんのだ」

「なるほど」

「強い力ゆえ、トロルですら繁殖期以外に使用することはない。偶然その効果を知ってしまった人間の中には快楽に溺れ、身を亡ぼす者も多い。子作り目的であっても決して手を出すでないぞ」


 アルゲルが複数の女性と関係を持っていたのは、まさにこの力に溺れたが故なのだろう。摘発が大規模になったのも、メラニアを刺した女性がみすぼらしい姿だったのもおそらくは……。


 婚約破棄を急ぐ意味もあったとはいえ、死に戻る前よりも数年早く摘発が行えたことは、メラニアが想像していたよりもずっと大きな変化になったようだ。


「分かったわ」

「こ、子作り」


 強く頷くメラニアとは対照的に、ジニアの耳が真っ赤に染まる。暗闇でも分かるほど。メラニアの視線に気づくと、恥ずかしそうに顔を逸らした。


「トロルに襲われる心配がないのであれば、先にこいつらを縛っておくか。王子が騎士を派遣してくださるはずだ。壊れた馬車と合わせて引き渡そう」

「あ、ロープなら馬車の中にちょうどいいものがありますよ。取ってくるので少し待っていてください」


 メラニアは馬車の中からロープを回収する。荷物を括るために積んであったのだろう。結構な長さのものが三本もある。


 メラニアが戻ってくると、ジニアは男達から武器を回収していた。目を覚ましてもすぐには手が届かないよう、抜き取ったものを遠くにスライドさせる。


「どうぞ」

「ありがとう」


 メラニアからロープを受け取ったジニアは、次々に男達をぐるぐる巻きにする。縛って切って転がして。さすがの手際だ。メラニアが手を貸す隙さえない。


「ううっ……」

 ロープでキツく縛られたアルゲルが唸り声を上げる。抵抗する余裕はないが、ひとまず一命は取り留めたようだ。目の前で死なれては寝覚が悪かったので、ひとまず胸を撫で下ろす。


 アルゲルのことはこの先ずっと好きになることはない。だが「出てくんじゃねぇ!!」と叫んだ彼の目は、メラニアの姿を捉えていた。


 ただの商品なら囮にして逃げればよかったのに。よく分からない人だ。


 メラニアはアルゲルのことを理解しようとは思えない。理解しようと踏み出したが最後、両足を掴まれて泥沼に引きずり込まれてしまうから。


 沼に溺れるなら、ジニアのためがいい。

 二度もメラニアを暗闇から救ってくれた彼のために生きていきたいから。


 メラニアは、元婚約者で幼馴染みのアルゲルには背を向ける。

 今度こそ犯した罪と向き合って生きてほしいものだ。今度こそ別の道を歩み出したメラニアが彼に望むのはそれだけだ。


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