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第13話 昼下がりのひと時

 すみれ色のワンピースに編み上げのブーツ。髪の毛は三つ編みにして、お気に入りの帽子を被る。お財布とメモを入れたポーチを肩から提げれば準備万端。

 あとはジニアが来るのを待つだけだ。


 メラニアは帽子とポーチだけ避け、リビングの椅子に腰掛ける。

 目の前にはハーブティーと児童書。本を机に立てながら、ゆっくりとページを捲る。メラニアが読んでいるのではない。ももちゃんに頼まれてページをめくる係をしているのだ。


 ちょうど物語が終わり、パタンと本を閉じる。

 パチパチと、ももちゃんが小さな手を必死に叩く。絵本でも児童書でも、捲ってもらうだけでも読み聞かせでも。ももちゃんは必ず拍手で物語の始まりを歓迎し、拍手で物語に感謝を伝えるのである。


「キュキュ! この本も面白かったな! 最後に子供達が魔女に手を差し伸べたところが良かった」


 ももちゃんは手つかずのまま置かれていたシュークリームを全身で抱え、食べ始める。ちなみにももちゃん用のハーブティーは小さなカップに入っている。


 ももちゃんが家族になった翌日、父が仕事帰りに買ってきたのだ。ドール用にしては大きく、かといって子供用にしては小さい。ちょうどいいサイズをよく見つけたものだ。


「今日のお菓子も大変美味だ」

 そう言って、半分ほど残っていたハーブティーをゴクゴクと飲み干した。

 メラニアはほどよく冷めたハーブティーを自分とももちゃんのカップに注ぐ。


「シュークリームはもっとないのか?」

 キラキラとした目でメラニアを見上げるももちゃん。先ほどまで身体全体でシュークリームを抱えながら食べていたせいか、ところどころに生クリームが付着している。


 メラニアは濡れたハンカチでももちゃんの身体を拭く。

 ももちゃん専用のハンカチを用意したのは母だ。食事の際は必ずカップとセットで濡らしたハンカチを置く決まりとなっている。


 そうでなければももちゃんがお菓子の食べかすを付けたまま飛んでいってしまうからだ。


 野性で暮らしていたのだから仕方ないとはいえ、ガルド家に来たからには綺麗に過ごしてもらいたい。ももちゃん本人も母が定めたルールを素直に従ってくれている。


 ちなみにももちゃん専用ハンカチは数枚あり、今日のハンカチは端っこにももちゃんの姿が刺繍されている。ももちゃんが一番気に入っているのもこのハンカチだ。


「喜んでもらえて嬉しいけど、シュークリームはこれで終わり。あんまり食べすぎるとまたお母様に怒られちゃうから。ハーブティーだけで我慢して?」

「母君は栄養バランスに厳しいからな……」

「ももちゃんの健康を考えてのことだから、ね?」

「分かっておる。このハーブティーも我が輩が美味しくシュークリームを食べられるよう、ぬしがブレンドしてくれたのだろう? さっぱりしていて飲みやすかった」

「ももちゃん、ハーブティー好きだよね」


 ももちゃんがガルド家の一員となってからまだ数日だが、いくつか好みが分かってきた。


 紅茶よりもハーブティー派で、甘いものが好き。


 物語はハッピーエンドで終わるものが好きで、王子様が出てくる物語よりも騎士が活躍する物語が好き。それから妖精や魔女が仲間として出てくると応援に熱が入り、悪役だと目に見えてしょんぼりとする。


 ももちゃんは好みが顔や態度に出やすいタイプなのだ。


 好みが分かりやすい分、本を選ぶ方も傾向が掴みやすい。今晩も父と兄がオススメの一冊を読み聞かせることだろう。メラニアもももちゃん用のお菓子とハーブティー、濡らしたハンカチの準備が日課となりつつある。


「ずっと見ていたからな! 紅茶もいいが、いろんな組み合わせが楽しめるのもなかなかいいものだ」


 以前はハーブティー好きの人がいる家の近くにでも住んでいたのだろうか? 

 ももちゃんはキュキュッとご機嫌で鳴きながら、おかわりを所望する。メラニアは空いたカップに少し冷めたハーブティーを注ぐ。ももちゃんは猫舌なのだ。


 小さな手も熱さには弱い。暑くなってきたらポットに氷を入れて、アイスハーブティーにしようか。冷やして飲むと美味しいレシピもいくつか知っている。


「ねぇ、ももちゃん。夕飯もちゃんと食べるって約束できたら、クッキーを一枚だけあげる」

「我が輩は約束はしっかり守るタイプだ! 夕飯もきっちり残さず食べるぞ」


 ももちゃん用のクッキーポットからクッキーを一枚取り出す。いろんな種類がある中で、選んだのはバタークッキー。ももちゃんの一番好きなクッキーだ。


 小さな両手で受け取り、早速もぐもぐと食べ始めた。可愛い。人差し指で頭を撫でていると、使用人がやってきた。


「メラニア様、ジニア様がいらっしゃいました」

「ありがとう。じゃあももちゃん、いってくるね。お土産も買ってくるから」

「おもひほひほほははひほひはいひへひふほ」


 頬をパンパンに膨らませた状態では何を言っているのかさっぱりだ。

 けれど行き先が本屋である以上、求めるものはただ一つ。


「絵本でいい?」


 メラニアが問いかける。

 ももちゃんは大きく首を縦に振る。たった一度だけだが、ももちゃんの気持ちはしっかり伝わった。


「期待しておいて!」

 帽子を被り、ポシェットを肩から提げる。

 そして今度こそリビングを後にしたのだった。


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