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彩光の詩 ~Eternal Echoes~  作者: 絹咲 メガネ
彩光の詩 3rd FLAME ~燐火の贖罪~
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3rd FLAME 第3話【包囲網の魔法】

 澪の後任として、真夏がIronsylphの新ドラマーとして加入。女王は、初めて誰かを信じた。けれど、まだ自分を許せなかった。


 白いギターは確かに温かくなったのに、燐火の胸の奥には、まだ凍った棘が刺さっている。


――その棘を溶かすのは、霧咲からやってきた、静かな魔法使いだった。


 彼女の鍵盤は、まるで空を降らせるように、燐火の孤独を、音で包み込んだ。


(本文中にはGrokによるAI生成イラストを挿入しております)

挿絵(By みてみん)


・本番30分前の危機


──CLUBクラブ WEEDウィード 開演30分前


 キャパ500人のフロアはすでに熱気で沸騰していた。


 壁は振動し、床は震え、観客の「IronSylphアイアンシルフ!」コールが響き渡る。


 楽屋は、静寂と緊張だけが漂っていた。


  燐火りんかは彼女の愛機、Explosionエクスプロージョンを抱えたまま、ワインレッドのシャツの背中を壁にもたれさせていた。黒髪ロングが汗で頬に貼りつき、瞳は鋭く光っている。


 佑飛ゆうひが、淡いピンクの髪を震わせながら呟く。


「……キーボード、どうするの? 今日、本番なのに……」


 美夜みよが、栗色のボブを指で梳きながら、「……バックトラックでいくしかないわね」


  燐火は、小さく頷いた。


「……私が提案したんだから、私の責任」


――生キーボードを入れたい。


 真夏のドラムが加わってから、燐火自身が口にした言葉だった。


 雷鳴のようなリズムに、もっと厚みを。でも、時間はなかった。


 ファンをまた裏切ったら、今度こそIronSylphは終わる。



・霧咲の魔法使い


  そのとき、ドアが静かに開いた。 黒サテンブラウスに黒プリーツスカート。


 赤いフレームのメガネがスポットライトを反射して、きらりと光る。


 まるで図書委員のような華奢な女性が、控えめな笑顔で立っていた。


「遅れてごめんなさい。佐藤さとう 彩花あやかです。」


 燐火の瞳が、わずかに揺れた。


 黄色いサテンシャツを身に着けた真夏まなつが駆け寄る。


「彩花! 間に合った!」


 燐火は、まだ半信半疑いの声で。「……本番30分前よ。大丈夫なの?」


 彩花は、静かに微笑んだ。


「大丈夫です。音、聴かせてください」



・空を降らせる奇跡


──最終リハ。ステージ袖、わずか15分の奇跡。


 燐火のギターが、鋭く切り込む。

 真夏のドラムが雷鳴となって応える。

 佑飛のクリアな声が空を裂き、美夜のベースが地を這う。


 彩花は、ステージ脇に置かれたキーボードセットに手を置いた。


 そして、一呼吸。


 次の瞬間――


 天井から音が降ってきた。


挿絵(By みてみん)


 パイプオルガンの重厚な響きが頭上を覆い、アルペジオが観客の髪をそっと撫でるように降り注ぐ。


 最後列から遅れてパッドが返ってきて、真夏のバスドラが床を震わせる。


 まるで、荘厳な大教会の中にいるような音のドームが完成した。


 燐火の指が、一瞬止まった。


「……これ……何……?」


 彩花は、静かに微笑んだまま、床に広げたフロアプランを指差す。


「出力先を分岐させて、私のメインキーボードと同期させたんです。正面は燐火さんのギターと佑飛さんの声。天井からはアルペジオを降らせて、最後列からはパッドを返し、床は真夏さんのバスドラで震わせる。そして、美夜さんのベースは――」


 言い終わる前に、美夜がクールに口を開いた。


「逃げ腰になった観客の足首を、私のベースラインが絡め取ってあげる。低音の鎖で、観客を完全に私たちの虜にするわ」


 彩花は、その返しを待っていたかのように、にっこり微笑んで小さく頷いた。


「――その通り。だから、もう誰も逃がさない。観客を、完全に包囲するんです」


  燐火の瞳が、大きく見開かれた。


 自分のギターが、誰かの音に、包まれている。


 これまで、燐火のギターは、常に最前線で、誰かを焼き、切り裂いてきた。


 けれど今、彩花の鍵盤は、燐火の音を優しく受け止め、温かく、包み込んでいた。


 胸の奥にあった凍った棘が、ほんの少しだけ、疼いた。


「……これが、包まれるってこと……?」声は誰にも届かなかった。



 燐火は、静かにExplosionを構えた。


「……じゃあ、一緒にやってみようか」カウントを取る。


 燐火の指が、いつもの超高速タッピングを放つ。


 右手の人差し指と中指がハイフレットを連打、左手も低音域でハンマリングとプリングを加えて、ポリフォニックなランが爆発する。


 200BPMを超えるビートの嵐。


 奇数拍子で複雑に絡みつくフレーズが、開演前のステージを切り裂く。


 燐火の瞳が、鋭く燃える。


(誰も追いつけない。ここは、私の世界――)


 だが、次の瞬間―― キーボードから、同じ速さ、同じリズム、同じフレーズが、完璧に重なった。


──彩花だった。


 無数の鋸歯波ソウトゥース・ウェーブが重なり合う、厚い壁のような Superスーパー Sawソウ Leadリード が、燐火のタッピングを飲み込みながらも鋭く切り返す。


 彼女の両手が鍵盤の上を疾風のように駆け抜ける。


 右手の人差し指と中指がハイノートを掃くように叩き、左手も低音域でタップを加え、高音域へと跳躍する。


 燐火の指が、一瞬、わずかに揺れた。


(……この速さで……完全に合わせてくる……!?)


 燐火の視線が、彩花に向く。


 彩花は目を細め、唇を僅かに開いて集中している。


 菩薩のような、静かで優しい微笑みを浮かべながら―― 呼吸を、完璧にコントロールしている。


 吸うタイミング、吐くタイミング、すべてが計算され、次のフレーズに移るタイミングを見据えている。


――父さんが教えてくれた、神様たちの呼吸と同じ……


 息すらもフレーズの一部にして、一切の無駄を排除する…… 世界最高峰のシュレッダー(超速ギタリスト)のみが持つ、究極の集中。



 燐火のタッピングが加速する。彩花の鍵盤も、遅れなく追う。


 燐火が右手の薬指まで使い、複雑なスケールを加える。


 彩花も両手のコンビネーションで、同じ音を鍵盤で叩き返す。


 まるで、二人の音が会話している。いや――戦っている。


 燐火の瞳に、初めての驚愕が宿った。


(面白い……!)


 燐火のタッピングが、さらに加速。彩花の指も、震えることなく追う。


挿絵(By みてみん)


 二人のソロイストが、まったく異なる楽器で、完全に同一の魂を叩きつける。


 佑飛と美夜、真夏も、息を呑んで見つめるしかなかった。


 そして――最後の音。二人が同時に最高音を捉え、ビブラートを効かせて長く伸ばす。



 曲が終わった瞬間、燐火はギターを抱えたまま、息を吐いた。


「……真夏だけじゃない。ここにも、もうひとりの化け物がいたか」


 声は低く、でも確かに、感嘆に満ちていた。


 彩花はキーボードから手を離し、息を弾ませながら顔を上げた。


 額に薄く汗が浮かび、赤フレームのメガネを少し曇らせつつも、目は満足そうに輝いている。


 燐火は、感心した眼差しで彩花を見つめた。


「……あんた、すごいな」


 彩花は息を切らしながら、照れ笑い。


「燐火さんのタッピングが、速すぎて……必死でした。もう無理かと思ったけど…… 燐火さんの音に追いつきたくて、嬉しかったんです」


 彩花は恥ずかしそうに微笑みながら続ける。


「燐火さんのギターって、みんなは『速い』とか『鋭い』とか言うけど、私は違う。夜空に向かって、誰かに届くことを願いながら、力いっぱい手を伸ばしてる星みたいで…… だから、私の音で……そっと包みたくなったんです」


 燐火は照れ笑いを浮かべ、頼もしい目で彩花を見つめた。


 右手首のリストバンドに、まるで遠くにいる誰かの手が、そっと触れたように、かすかに疼いた。


挿絵(By みてみん) 



・包まれし炎


──開演。


 フィナーレの「Sylphシルフズ’s Flameフレイム」。 燐火のギターが、夕陽のように燃える。


 真夏のドラムが雷鳴となって轟く。佑飛の声が空を裂き、美夜のベースが地を這う。


 そして、彩花の鍵盤が――天井から降る音。最後列から返ってくる響き。床を震わせる重低音。


 5百人の観客が、熱狂に包まれた。


 燐火は、ソロの最後のフレーズを弾き終えたとき、ふと、耳元で、懐かしい声が聞こえた。


鈴叶すずか…… 世界に届くね」 父さんの声。


 ポケットの中、父のピックが熱を持った気がした。


 燐火はギターを抱えたまま、涙をこぼしながら、初めて観客に向かって深く頭を下げた。


 会場が、割れんばかりの歓声に包まれた。


  IronSylphは、確かに、世界への一歩を踏み出した。



・もうひとつの扉


 それから数カ月――


 一通のメールが届いた。


件名:【出演オファー】Crimsonクリムゾン Sirenサイレン

送信者:高原玖美(Dread-Queen)

「IronSylphの新体制、聴いたわ。ガールズロックの祭典で、野外3000人のステージ、用意してあるから、一緒に空を焦がさない?」


 燐火はスマホを開き、出演者リストをスクロールしていた。


 主宰の大御所女性ハードロックバンド、『Dreadドレッド-Queenクイーン』、そして名だたる凄腕ガールズバンドたちに加えて、同じステージに立つとは思いもよらなかったロックの女王たち。


 オープニングアクトは、彩花のプライベートユニット『BlossomEchoブロッサムエコー


 サポートプレイヤーの彩花にも目を付けていたなんて… 高原たかはら 玖美くみの眼力に驚かされる。


――そして、一番下


 Nocturneノクターン Abyssアビス


 指が、ぴたりと止まった。


【Dr:綾瀬あやせ みお


挿絵(By みてみん)


 涙が、スマホの画面にぽたりと落ちた。


――あのとき、私が壊した笑顔が、まだドラムを叩いてくれてる。


 リストバンドを握りしめ、燐火は震える息を吐き、初めて、誰かを呼んだ。


「みんな…… 世界の扉が、開いたよ」


 ――もう一つの扉も、開きそうな気がした。

次回予告:第4話(最終話)「Crimson Siren ~贖罪と共鳴~」(明日 1月10日公開)


 野外3000人の夕陽の下。燐火は白いギターを抱え、父の夢と自分の夢を重ねて立つ。


 国内最大の女性ロックフェス、Crimson SirenでのBlossomEchoとの奇跡の共演。


 そして、燐火が初めて感謝の言葉を伝える瞬間――


「私はもう一人じゃない。みんなのおかげで、私は人間に戻れた」


 炎は、ついに世界の果てへ届く。

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