2nd GATE 第8話【情熱の共鳴】
この物語は、彩花と怜の“表の青春”のすぐ横で、ひそかに奏でられていた、もう一つの旋律のお話です。
誰も知らない音楽室のセッション。誰にも言えなかった、二人だけのフレーズ。
――これは、誰にも語られなかった、でも確かにあった、もう一つの「彩光の詩」。
どうぞ、そっと耳を澄まして、お聴き下さい。あなたにも、きっと届くはず。
・はじまりの昼休み
霧咲の街は、秋の涼やかな風に色づく桜の木々が揺れ、学園祭の熱気がまだ残る。17歳の栗本 凛は、音楽ユニット「BlossomEcho」のボーカルとして、彩花と共にステージを輝かせた。
一方、同じクラスの山崎 颯は怜と共に「NightReaver」のツインギターでハードロックを響かせ、初めての学園祭ステージを成功させたばかり。
凛と颯は、まだ誰にも知られぬまま、ひそやかな旋律を奏で始めていた。
凛の明るい情熱と颯の寡黙な熱意が交錯し、音楽を通じて結ばれた絆は、青春の星空に静かに輝く。
学園祭を終えて数日後の昼休み、霧咲高校の教室は穏やかな喧騒に包まれる。
颯は怜と窓際の席で、学園祭のライブについて語り合う。怜との「Thunder Pulse」、めっちゃ盛り上がったな… 颯の寡黙な瞳に満足感が宿る。
そこに、弾ける笑顔の凛が現れる。カジュアルに着崩した制服姿、白いブラウスにネクタイを緩め、黒髪ショートカットが元気に揺れる。
「ねえ、怜くん、颯くん! 学園祭のライブ、めっちゃカッコよかったよ! あのハードロック、超本格的! 一緒に音出したら、絶対やばいよね!」凛の明るい声が教室に響き、怜は照れ笑いを浮かべる。
颯は一瞬、気恥ずかしさに目を伏せ、ぶっきらぼうに答える。
「俺たちなりにぶちかましただけだよ…まあ、ありがとな。『BlossomEcho』も、すげえ盛り上がってたじゃん。」
凛の歌声…あんなパワー、なかなかねえな… 颯は内心、凛のステージでの思い切りの良さに感心する。
彼女の激しいバッキングギターと情感あふれるソロは、怜との慎重なセッションとは異なる、自由で奔放な輝きを持っていた。凛、めっちゃ楽しそうに弾くよな…
凛は颯のそっけない態度にもめげず、ニッコリ笑う。「やった! 颯くんに褒められた! ねえ、颯くんのギター、めっちゃ熱いよね! 6弦開放でミュートしてザクザクいく感じ、心ドーンって撃ち抜かれた! また一緒に音出したいな!」凛の純粋な好奇心に、颯の心が揺れる。
こいつ、ほんとまっすぐだな… 「…機会があれば、な。」颯は小さく微笑み、凛の情熱に少しずつ心を開き始める。
・秘密のセッション
学園祭から数週間後、霧咲高校の秋の音楽フェスティバルの練習が始まった音楽室は静かな聖域だ。夕陽が窓から差し込み、カーテンが揺れ、埃っぽい空気が漂う。
彩花は図書室で課題に取り組み、怜は家の用事で不在。偶然、音楽室に二人きりになった凛と颯は、二人きりのセッションの機会を得る。
凛は制服のネクタイを緩め、エレキギターを手にニヤリと笑う。「颯くん、せっかく二人だし、ちょっとジャムってみない? あの熱いリフで、音楽室ぶち抜いてよ!」颯くんのギター、絶対楽しい!
颯は一瞬躊躇するが、凛の明るさに押され、ギターを肩にかける。「…いいぜ。どんな曲にする?」凛のテンション、なんか乗ってくるな… 凛は目を輝かせ、「颯くんの弾きたいように弾いてみてよ! 私が適当に絡むからさ!」
二人は即興でセッションを始め、颯のダウンピッキングが鉄のように重く、ピックが巻弦を抉るたびに、アンプから歪んだ低音が腹に響く。開放E弦のパームミュートが、音楽室の壁を震わせる。
凛のオルタネイトピッキングは風のように軽やかで、高速で弦を往復する指先が、まるで稲妻のように火花を散らす。二人のリフが噛み合った瞬間、まるでツインリードが絡み合うように、空気が引き裂かれた。
凛のギターは、激しいバッキングから繊細なハーモニクスまで自在に操り、まるでステージのように思い切り弾く。こいつの音、めっちゃ生きてる…! 颯の心が高揚し、普段の寡黙な自分を忘れ、ギターに魂を込める。
セッション中、凛が叫ぶ。「颯くん、このリフ、めっちゃカッコいい! もっと飛ばして!」颯は笑みをこぼし、「お前も負けねえな! じゃあ、このフレーズに乗ってみろ!」二人の音がぶつかり合い、音楽室を熱気で満たす。凛の笑顔が夕陽に輝き、颯は初めて心から笑う。
「凛、お前のセンス、すげぇな。俺、こんな風に弾けねえよ。」こいつと音出すの、ほんと楽しい…。
セッションが終わった瞬間、音楽室に残るのは心地よい余韻だけだった。
颯はギターを膝に置き、小さく呟いた。
「凛…お前の音、俺の心、全部持ってくんだよな」
凛は一瞬、驚いたが、すぐに頰を赤らめて笑った。
颯は照れ臭そうに目を逸らしたが、口元に笑みが残っていた。
凛は汗を拭いながら、颯のギター、マホガニーボディのハニーバースト・トラディションをまじまじと見つめた。
「……このギター、重くて、音がドスンと胸に響く。めっちゃ“颯くん”って感じする。」
指先で木目とグラデーションをそっと撫で、小さく呟く。「私、ずっとストラトス・アルダーしか弾いてなかったけど… こんな太くて力強い音、いつか私も鳴らしてみたいな。」
颯は照れ臭そうに目を逸らし、でも小さく頷いた。
「こいつはブリッジもボディも頑丈で、ピックアップも高出力だからな…… いつか、お前にも似合うやつが見つかるよ。」
凛は目を輝かせ、拳を握った。
「約束だよ! いつか私もブラックバースト・カスタムを抱えて、颯くんと肩を並べて弾く!」颯は小さく笑って、確かに頷いた。
その直後、二人は最後に生まれたフレーズ―― 颯の重いリフに凛の明るいメロディが寄り添う、希望の旋律――をメモ帳に走り書きした。
「これ、後で歌詞つけてみようかな…」
凛が呟くと、颯は静かに頷いた。
この瞬間、怜も彩花も知らない、二人だけの音が生まれた。
・裏方と絆
数ヶ月後の3月、霧咲シティプラザの大規模ストリートライブイベント「霧咲ストリートソニック」当日。
観客の熱気が春の空気を震わせる中、ステージ袖で、怜のサプライズ登場に備えてギターセッティングを終えた颯は、ふと正面のステージへと視線を向けた。
――そして、息を呑んだ。
そこに立っていたのは、赤いサテンシャツにレザーミニの凛だった。
いつも軽やかなストラトス・アルダーを肩にかけていたはずの彼女が、今は漆黒のブラックバースト・カスタムを抱えていた。
マホガニーボディの重みが肩にずっしり乗り、ハムバッカーの高出力ピックアップが、すでに唸りを上げている。
あの音楽室で「いつか私も」と呟いた言葉が、今、確かに形になって颯の目の前にあった。
凛は颯に気づくと、ちょっと照れ臭そうに、でも満面の笑みで小さくウィンクした。
――お前、あのときの本気だったんだな。
ライブのクライマックス、颯は怜のギターの調整を終え、凛に目配せする。二人は小さく笑い合い、彩花が観客に語りかける。
「今日は、特別なゲストを呼びます! 私の…大切な人、怜!」
観客がどよめく中、怜の登壇を見守る。「Autumn Whisper」が流れ、彩花のキーボード、凛のコーラス、怜のギターが重なり、会場は感動に包まれる。
颯はステージ脇で、3人の才能が開花する様子を誇らしげに眺める。凛の歌声、彩花のメロディ、怜のギター…俺もこの熱気の一部だ…
・未来への旋律
高校卒業後、颯はITの専門学校に進学し、音楽は趣味として続ける。凛は音楽教師として情熱を注ぎ、吹奏楽部の顧問として部員を鍛え上げる。
二人は時折、霧咲の街のカフェ「ルミエール」で再会し、互いの近況や悩みを語り合う。ある秋の夜、雪がちらつくカフェの窓際で、24歳の凛はミルクティーを手に笑う。
「ねえ、颯、怜と彩花、めっちゃ幸せそうだよね! あのストリートライブのサプライズ、ほんと感動した! 青春の熱、ギュッと詰まってたよね!」
颯はコーヒーをすすり、静かに微笑む。
「ああ、怜と彩花、すげえとこまで行ったな。…でも、凛、お前の歌声も負けてねえよ。ステージがでかければでかいほど輝くよな。あの春の野外フェス、オープニングアクトで3000人の大観衆をガンガン煽ってたの、めっちゃ鮮明に覚えてるぜ。」
凛はミルクティーを置いて、目を細める。
「ガールズロックの祭典『CrimsonSiren』、彩花が繋いでくれた縁で出られたんだよね。一日だけの『BlossomEcho』の復活だったけど…IronSylphも出てたから、美夜と真夏がサポートで入ってくれたんだよ。」凛が話を繋げ、テンションを上げる。
颯はコーヒーカップを置き、ニヤリと笑う。
「4人態勢のBlossomEcho…新鮮だったな。あの野外音楽堂で赤いシャツ着て、ステージの端から端まで走り回って煽ってたの、めっちゃ鮮明に覚えてるぜ。しかも、ドラムとベースがゴリゴリ鳴ってて、ロックフェスに相応しい体制だったな。」
凛は大げさに身を乗り出し、「……あの日のリズム隊、ヤバかったよ。美夜のベースが地震みたいに地面を揺らして逃げられないし、後ろでは真夏が台風みたいに暴れてて床が抜けそうなんだよ! 彩花はショルダーキーボードで見せ場つくってるのに、私だけ必死で『ついていかなきゃ!』って…… 正直、あのメンツの中で歌ってるのが信じられなかった」
颯は笑いながら突っ込む。「本当か? 怜から聞いたぞ。凛が一番観客を煽ってて、彩花が焦ってたってな。」
凛は頬を膨らませ、「ちょっと! 怜、余計なこと言ってる! でもまあ…あのステージに立つのって、母さんから託された夢だったからね! 生徒たちも配信で見てたみたいで、しばらくは廊下を歩くのも大変だったけど。」
二人は顔を見合わせて大笑いし、青春の熱が再び胸に灯る。
・結婚式への招待
「そういえば、来月は彩花と怜の結婚式だよね? 颯も出るんでしょ?」凛が唐突に切り出すと、颯はカップを置き、苦笑いする。
「あぁ、なんでもデカい観光船のディナークルーズで披露宴やるんだってな。あの2人、大人しそうに見えて、案外、派手好きなのかもな。」二人は顔を見合わせて再び笑う。
凛がニヤリと笑い、颯に尋ねる。「余興で演奏とかしないの?」
颯は首を振り、笑顔で答える。「主役はあの二人だからな。CrystalVeilのワンマンで決まりだろ。」
凛は目を細めてからかう。「そうかな? まだわかんないよ。」
そして、小さく呟くように。「でもさ……颯って、いつも怜のこと、彩花のこと、私のこと、ちゃんと立ててくれるよね。表に出ないところで支えてる姿、好きだな……」
颯は一瞬、顔を真っ赤にしてコーヒーを吹きそうになる。
「お、おい、急に何だよ……!」
凛はクスクス笑いながら続ける。
「だって本当じゃん。学園祭のときも、ストリートライブのときも、今日だって…… 颯はいつも、誰かを輝かせるために音を鳴らしてる」
颯は照れ隠しにカップを回しながら、小声で、でも確かに言った。
「……お前も、だろ?」
颯は続ける。「俺は、輝くやつの横にいるだけで十分だ」
二人は顔を見合わせ、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑い合った。
凛も照れ隠しに続ける。「そうそう、怜が言ってたよ。『音楽業界でいろんなギタリスト見てきたけど、颯のリフを超えるやつにはまだ出会えてない』って!」
「怜、ホント余計なことばかり言うよな…でも、ありがとな。そういや、怜って、今でも俺んちにNightReaverのレコーディングに時々来るんだよ。いまや立派なプロデューサー様なのに、『実家に帰ってきたようで落ち着く』んだってさ。」二人は笑い合い、青春の記憶を共有する。
颯はコーヒーカップを置き、指先でテーブルの木目を撫でるようにして呟いた。
「凛、俺、いまは仕事で忙しいけど…音楽、やめねえよ。ギターを触れない日もあるけど、ギターを愛さない日はない―― あの巻弦をピックで抉る瞬間、アンプから歪みが吐き出される瞬間…… それが俺の生きてる証なんだ」
凛の瞳が揺れ、颯は静かに続ける。
「――お前もそうだろ?」
凛は頷き、「うん、そうだね。私、生徒たちにいつも言ってるんだ。『観客が泣いたら勝ち。笑ったら大勝ち。両方したら神!』って。私、まだ神にはなれてないけど…… これからも目指していくよ。ずっと!」
颯はコーヒーカップを置き、少し照れ臭そうに、でも優しく笑った。
「……泣かせるのもいいけど、『笑わせる方が上』ってのが、お前らしいな」
凛は一瞬驚いて、すぐに頰を赤らめてニヤリと笑った。
「でしょ? 颯も、いつか笑わせてあげるからね!」
雪が舞う窓の外、霧咲の街に、二人の音が静かに響き続ける。
・怜と彩花の結婚式当日
霧咲からほど近い「朝霧港」から出航する大型レストランシップ「シーヴェール朝霧」。
夜の海に浮かぶディナークルーズのデッキで風船がリリースされる中、二人の入場のBGMが静かに流れ始める。
「Sunlit Future」――あの音楽室で生まれた、颯のリフと凛のメロディを、凛が密かに仕立て直した曲。
アコースティックギターが温かくも力強く響き、凛の優しいコーラスが彩花の入場を包む。
彩花は涙をこぼし、「えっ? 凛の声…?」
怜は驚きと嬉しさに声を詰まらせながら、「このギターの進行、まさか颯か…?」と呟いた。
・式の後
幸せな披露宴が終わり、船は朝霧港に近づく。乗客と列席者が下船準備を進めるなか、凛と颯はデッキに上がる。
目の前には、朝霧の街の夜景と港の喧騒がロマンチックに輝く。心地よい海風を感じながら、凜は颯にそっと耳打ちする。
「颯…あの音楽室のセッション、怜たちには内緒にしてたけど…結婚式のBGMにしちゃった。」
颯は一瞬固まり、照れ笑い。「…お前、ずるいサプライスの天才かよ。」
凛は得意げに笑う。「ストリートソニックの時は、彩花がちょっと勘違いしちゃったけど、今回は完璧でしょ?」
颯は苦笑いしながら頷く。「ああ、完璧すぎて文句ねえよ…」
──デッキの上、夜の海風が二人の髪を優しく揺らす。
二人の視線が絡まり、凛が小さく、でも確かに呟いた。
「音楽がなかったら…… こんな風に、颯の隣にいられなかったよね」
颯は目を伏せ、静かに、でも深く頷いた。
「……ああ。俺も、お前と音を出してなかったら、こんな風に、笑えなかった」
二人の指先が、かすかに、震えながら触れ合う。
颯が、照れ臭そうに、でも声を低くして言った。
「なぁ、凛…… 俺たち、ここまで来るのに、時間かかっちゃったな。お互いのこと、ずっと昔から知ってるのに……」
凛は目を細めて、涙をこらえながら微笑む。「でも……最高の舞台じゃない? 彩花たちと同じ日に、私たちも、船出できるなんて」
二人は、近づく夜景を見つめながら、しっかりと手を握りしめた。
凛は涙を浮かべ、笑顔で言った。
「ねえ、颯……彩花の言葉、覚えてる? 『私の音は、みんなと共にある』って。あの言葉、私たちの青春そのものだよね」
颯が、凛の手を強く握り返し、静かに、でも確かに言った。
「ああ……ほんとだな。俺は、いつも誰かを輝かせるために音を鳴らしてきた。怜を、彩花を…… でも、今気づいた。お前のメロディが俺のリフに乗った瞬間、俺のギターが、初めて“自分の音”になったって」
颯の目が凛を優しく見つめ、言った。
「これからは―― お前だけを、もっと輝かせたい」
凛の涙が頬を伝い、初めて颯の肩にそっと頭を寄せた。
颯が、優しく微笑む。
凛は、その笑顔を見て、涙を拭いながら、ぷっと吹き出した。
「……颯、笑ってくれた! 彩花は泣かせたし、颯は笑わせたし…… 私、両方やっちゃったね!」
颯は一瞬固まって、そして、照れ臭そうに、でも心底嬉しそうに声を出して笑った。
子供みたいに肩を震わせ、涙が浮かんだ。
「……お前、神かよ」
凛も、涙と笑いが止まらなくなった。
二人は、夜の海風に包まれながら、まるで高校生に戻ったみたいに、腹を抱えて笑い合った。
海風に混じって、遠くで「Sunlit Future」がまだ鳴っている。
――あの音楽室で生まれた音が、今、二人だけの永遠のメロディになった。
次回予告:彩光の詩 第二部 第9話 霧咲の歌声(12月23日【火】20:00公開)
彩花が遠くで輝くたび、胸が痛んだ。「私の歌は、もう届かないのか?」
けれど凛は知っていた。本当の歌声は、ステージの大きさじゃなく、心の深さで決まることを。
彩花と並んで立つために、凛は自分だけの音を鳴らした。――誇り高く、誰よりもまっすぐに。
次回は、凛の歌姫としての誇りの物語です。
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最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
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これからも精一杯書いていきますので、どうかよろしくお願いします。
彩花たちの物語が、あなたの心に少しでも残りますように。




