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彩光の詩 ~Eternal Echoes~  作者: 絹咲 メガネ
彩光の詩 2nd GATE ~Luminous Harmony~
30/37

2nd GATE 第7話【炎のビート 真夏の情熱】

この物語は、一度は仲間を失い、ドラムスティックを握る手さえ震えた少女が、それでも「もう誰かを傷つけたくない」と誓いながら、雷鳴のようなビートで世界を叩き壊すまでの、熱く、痛く、眩しい闘いの記録です。

真夏は知っていた。自分のドラムは刃にも太陽にもなれることを。今夜、その刃が太陽に変わる。


――霧咲から世界へ、炎が走る夜です。


(本文にはGrokによるAI生成イラストの挿絵を挿入しております)

(この第7話は少し長めです。ぜひお時間に余裕を持ってご覧ください)

挿絵(By みてみん)


Roseローズ Neonネオンの出会い


 霧咲の商店街の地下に佇むライブハウス「Rose Neon」の薄暗いステージ。


 19歳の真夏まなつは、このライブハウスのスタッフとして会場の機材や音響を支えつつ、自らも世に出る機会をうかがっていた。


 ドラムスティックを握り、黒髪ポニーテールが汗で揺れ、シルバーのピアスが蛍光灯にきらめく。


 その夜も、いつものように裏方で機材チェックを終え、自分のガールズパンクバンド「BerryGardenベリーガーデン」の出番を、胸の奥で熱く待ちわびていた――


 突然、ステージから焦った声が飛び込んできた。


「すみません! キーボードの音が……出ないんです!」


 振り返ると、初めてのライブハウス出演で震える少女が、キーボードの前に立っていた。


――17歳の佐藤 彩花。


 真夏は一瞬で状況を把握し、スタッフのエプロンを外しながら駆け寄った。


「彩花、落ち着いて! プラグの接触不良だよ、すぐ直すから!」


 ライブハウスのスタッフとして、裏方で毎日アンプやマイクを触っていたからこそ、ステージのトラブルを、息をするように解決できた。


 焦る彩花を、真夏の迅速な対応が救った。


 この日のライブは、真夏自身も情熱的なドラミングでRose Neonを賑わせたが、彼女の心には深い傷が刻まれていた。


 数年前、真夏の最初のバンドは、彼女の完璧主義が原因で崩壊した。高速で正確なリズムを追い求め、ギタリストの感情を無視した結果、ライブ直前に突然の脱退を招いた。


 無人のステージに取り残された真夏は、ドラムスティックを握りしめ、悔しさが胸を締め付けた。「もう二度と、仲間を失いたくない…」真夏は心に誓い、BerryGardenで仲間との調和を学んだ。


 ハイハットの鋭い刻みとスネアの爆発的なロールで、バンドの情熱を支えた。Rose Neonでの成功後、BerryGardenはインディーズシーンで注目を集め、メジャーデビュー一歩手前まで駆け上がった。


 真夏のドラムは、ライブハウスを熱狂させ、インディーズアルバムが話題に。だが、ギター&ボーカルがソロアーティストとしてスカウトされ、バンドは解散の危機に。


「無理に引き止めたら、昔と同じ過ちを繰り返す…」


 真夏は笑顔で仲間を送り出した。ボーカルはJ-POPでメジャーデビュー、ベーシストはコンサートプロモーターに転身。


――二度の解散——


 真夏の胸に、底知れぬ絶望が広がった。


・ガレージの孤独と情熱の再燃


「音楽を諦められない」そう思った真夏は、かつて叔父が無線趣味に没頭していたガレージにドラムセットを据えた。


 棚には埃を被った無線機器がずらり並び、錆びたアンテナが天井から垂れ下がり、モールス鍵が無言で佇む。かつて叔父が世界と交信していた空間は、今や真夏の孤独な練習場と化していた。


 埃っぽい空気に響くのは、かつての仲間たちの笑い声ではなく、自分のスティックが叩く虚しいビートだけ。


自分のドラムを、少しでも多くの人に知ってもらいたい…。


 最初は、TubeStreamチューブストリームの自身のチャンネルで、人気のポップスやロックのセッション動画を配信していた。


 黄色いTシャツとポニーテールがトレードマークの彼女は、スネアのゴーストノートを丁寧に刻み、ハイハットのオープンクローズでグルーヴを整える——「また、誰かと一緒に叩きたい」そんな願いを込めて。


 だが、ある夜——コメント欄に、1つのメッセージが届いた。


夏姉なつねぇ、スピードメタルのカバーやってみてよ! 夏姉のプレイスタイルなら、絶対ハマるって!」


 真夏は半信半疑で、スラッシュメタルバンド「Strugglebornストラグルボーン」の代表曲「Eclipseエクリプス Stormストーム」を選んだ。


 再生ボタンを押した瞬間——地響きの様にバスドラムを高速連打する『ブラストビート』が、ガレージの埃まみれの空気を一瞬で焼き払った。心臓が、ドラムのように激しく鳴り始めた。


「これ……これだ……!」真夏の瞳に涙が溢れた。


 二度の解散で凍りついていた胸の奥、完璧主義が殺していた情熱が、雷鳴のように蘇った。棚の埃まみれの無線機器たちが、まるで嘲笑うように無言で佇む中、彼女は叫んだ。


「もう、逃げない——!」涙が頬を伝い、床に落ちる。その一滴が、ガレージの埃を溶かした。


挿絵(By みてみん)


 パンクのシンプルな8ビートでは満たされなかった、「速さ」と「正確さ」の極限——それが、彼女の魂の叫びだった。


 夜ごと、ガレージの薄暗い蛍光灯の下で、真夏はスピードメタルに没頭した。最初はブラストビートに苦戦——


 シングルストロークの限界を感じ、かかととつま先を交互に踏み抜くフットワーク『ヒール&トゥー』を徹底的に鍛え上げる。


 ツインペダルのスプリングを強化し、ダブルキックを安定させるまでに何度も足が痙攣し、汗が床に滴った。


 次に、タムのポリリズムに挑む。右手で16分、左手で3連、フットで8ビートを刻む——四肢が独立する瞬間、彼女は「これが私のドラミングだ」と確信した。


 フィルインも進化。スネアのロールからタムへ滑り込み、クラッシュを砕くようなアクセントで締める。


 汗が飛び、叫びがガレージに反響する。黒髪ポニーテールが激しく揺れ、男性顔負けのハードでテクニカルなプレイが、スピードメタルの疾走感を体現していく。


 TubeStreamにアップしたメタルカバー動画は、瞬く間に再生数を伸ばした。


「#夏姉ブラスト」「#ponyshredderポニーシュレッダー」のタグとともに、メタルファンの熱いコメントが溢れる。


「ポリリズムのタム使い、神。フィルからクラッシュへの流れで鳥肌立ったわ」

「このカバー聴いて、原曲の良さ再発見したわ。夏姉、ありがとう!!」


 コメント欄の温かさに、真夏の心は震えた。


「また、音楽で繋がれる」


 埃まみれの無線機器が並ぶガレージが、情熱の聖域へと変わった。視聴者の熱いコメントに心が温まり、音楽への情熱が再燃していく。


IronSylphアイアンシルフのオーディション


 24歳の秋、真夏は女性メタルバンド「IronSylphアイアンシルフ」の熱烈なファンとして、サポートドラマーオーディションに挑む。


 IronSylphは全員の演奏レベルが高く、特にリーダーのギタリスト・燐火りんかの才能が、異次元だった。


 黒髪ロングが艶やかに揺れ、ワインレッドのシャツが妖艶に光る。黒のレザーパンツが引き締まった脚を包み、鋭い眼差しがステージを支配する。


 幼い頃から洋楽ギターヒーローに心を奪われ、10歳から鍛え上げた指先は、もう人間の限界を超えていた。


 目を疑う超高速ソロ。一音の狂いもない正確無比なリフ。彼女が白いギターを振り下ろすたび、観客は息を呑み、ただ、魅了されるしかなかった。


 楽曲作成の監督も務める燐火は、世界に羽ばたきたいという野心を持ち、メンバーには厳しい態度で高度なプレイを要求。


 それが原因で前ドラマーが摩擦を起こし他のバンドに移籍、IronSylphは空中分解の危機に瀕していた。


 淡いピンクのショートヘアがトレードマークのボーカル、佑飛ゆうひはクリアで伸びやかな中音域とハーモニクスが持ち味、ベーシストの美夜みよは5弦ベースを愛用し、チョッパーやスラッピングなどをトリッキーに使いこなすテクニカルプレイヤーだ。


挿絵(By みてみん)


 IronSylphのサウンドは、燐火の超絶ギタープレイとパイプオルガンやパッド音のバックトラックが融合した、情感溢れるメロディックメタル。アップテンポで観客を熱狂させるが、ドラマーの不在で存続の危機に立たされていた。


 真夏は燐火の才能と情熱、IronSylphのサウンドに惚れ込み、オーディション参加を決意。


 薄暗いリハーサルスタジオに緊張が張り詰め、真夏は黄色いTシャツから覗く引き締まった腕を輝かせ、スティックを構える。


挿絵(By みてみん)


 燐火は「準備できてる? じゃあ、やってみて。『閃光の翼』をフルスロットルで」と、低く響く声で告げる。


 真夏は無言で頷き、ドラムスティックを軽く回して構えた。カウントインの瞬間、スタジオが震えた。


 真夏のツインペダルが雷鳴のように炸裂し、200BPMを超える猛烈なスピードで「閃光の翼」のイントロを突き進む。


 ヒール&トゥーのフットワークは稲妻の如く、バスドラムが地響きを立て、フロア全体を揺さぶる。彼女の手はスネアとタムを縦横無尽に叩き、ブラストビートで疾走感を加速させる。


 四肢が独立した完璧なリズム、髪を振り乱す激しい動き——まるでドラムセットが彼女自身の延長であるかのように、音の嵐を操る。


 フィルインではタムを回転するように叩き、クラッシュシンバルを叩き砕く勢いでアクセントを刻む。


 燐火の瞳に興奮の光が宿った。


 思わず彼女の愛機――白い鋭角ボディのダブルカッタウェイギター「Explosionエクスプロージョン」を手に取る。


 彼女の指が指板を滑り、高速リフが真夏のドラムに絡みつく。正確無比なリフが雷鳴のビートと火花を散らし、スタジオは一瞬にして戦場と化す。


 燐火の黒髪が翻る中、彼女のスウィープピッキングが真夏のフィルインに呼応、まるで二人の魂が音で剣を交えるかのようだ。曲がクライマックスに差し掛かり、真夏がロングフィルでタムを乱打、シンバルを一閃すると、燐火のギターが渾身のフルピッキングリードで炸裂。


 余韻だけがスタジオに響き、静寂が訪れる。


 静寂の中、燐火がギターを下ろし、真夏に歩み寄る。彼女の目は興奮と確信に燃えていた。


「あんた、化け物だね」と笑い、言葉に熱がこもる。


「たくさんのドラマーがオーディションに来てくれたけど、こんなドラミング、初めて聴いた。今日は配信で評判の夏姉が来るっていうから、ちょっと期待してたんだけど…、正直、こんなに凄いとは思ってなかった、本当に嬉しいよ。」


 燐火は右手を差し出し、真夏の手を強く握った。


 その瞬間、真夏の胸に熱いものがこみ上げる。


 佑飛が感激し、美夜が頷く。サポートドラマーから一気に正式加入へと話が進むが、真夏は一瞬、目を伏せた。


「……こんなチャンス、夢みたいです。でも――あの人が去った場所に、私が立てるのかって…… ずっと怖かったんです」


 燐火の瞳が揺れる。


 真夏は小さく笑って、でも確かに言った。


「でも、私はIronSylphの音に惚れて、ここに来たんです。だからこそ、ちゃんと継ぎたい。私のビートで、この偉大なバンドの炎を、もっと遠くまで届けてみたい」


 燐火が、息を呑む。


 真夏は涙を拭い、力強く頷いた。


「――お願いします。私を、IronSylphのドラマーにしてください」


 その夜、真夏はガレージに戻り、埃まみれの無線機をそっと撫でた。かつて叔父が世界中の声を拾い、夜通し交信していた空間——。


 叔父の声が蘇る。


「真夏、世界は広い。でも音も、声も、必ず届くんだ」。


 二度の解散で閉ざされていた心の扉が、燐火の言葉で再び開いた。


 埃っぽいガレージは、もはや孤独の檻ではなく、世界への発信基地へと変わった。真夏はスティックを握り、静かに微笑む。


「叔父さん…やっと、繋がれたよ」。


・新体制の課題と真夏の提案


 真夏のドラムはメンバーの期待を遥かに超え、ジグソーパズルのピースがハマったようにバンドのバランスを向上。燐火の厳しい態度も、真夏の情熱とテクニックに納得し、笑顔に変わる。


 4人揃っての練習では、佑飛が真夏の手を握り、美夜が冗談で場を和ませ、バンドの雰囲気が温かく結束。


 新曲「Sylphシルフズ’s Flameフレイム」がインディーズチャートで急上昇し、新体制初のソロライブが決定。キャパ500人規模のライブハウス「CLUBクラブ WEEDウィード」への出演が決まる。


 あらたに生まれ変わったIronSylphは何度もリハを重ね、新曲のレコーディングも順調に進んでいたが、ライブ活動を活発化させるにあたっての課題が浮上した。


挿絵(By みてみん)


 バンドのサウンドは、パイプオルガンやパッド音のバックトラックに依存。これまではPA経由でオケを流し、メンバーはイヤーモニターで確認しながら同期させていたが、真夏のアドリブ力をライブで活かすためにも、自由度の高い生演奏に変えたい。


 燐火が提案する。


「CLUB WEEDでバックトラックを生演奏にしたいんだけど、私たちの音を表現できるキーボーディストっているのかな?」


 燐火が軽く笑いながら続ける。「本番中にオケが飛んじゃったこともあるしね。もう、そんなハプニングはごめんだよ!」


 メンバーたちがクスクス笑い、緊張が和らぐ中、真夏が目を輝かせる。


――あの夜が、脳裏をよぎった。 


 Rose Neonのステージ裏。アンプのトラブルで震えていた彩花に、真夏は駆け寄った。


 でも、本当に救われたのは、彩花じゃなくて、真夏の方だった。


 彩花のキーボードが鳴った瞬間、真夏の心に、最初のバンドの解散で凍りついていた傷が、優しく、でも確かに溶けていくのを感じた。 


 あの音は、真夏の“やり直せなかった夢”を、もう一度、灯してくれた。だから今度は、真夏が彩花の音を、もっと大きなステージに届ける番だ。 


 真夏は、迷わず言った。


「彩花…! Rose Neonで一緒だったキーボーディスト!彼女なら、IronSylphの音を高めてくれる!」


・彩花のサポート参加


挿絵(By みてみん)


 佐藤 彩花、22歳。プロのスタジオミュージシャンとしての活動が軌道に乗り、サポートプレイヤーとして多くの現場で信用される存在。黒髪ロングが艶やかに揺れ、赤フレームのメガネが知的な輝きを放つ。


 ハードなメタルバンドへの参加は初だが、真夏の推薦に心を動かされる。


 IronSylphの楽曲を聴いた瞬間、彩花は息を呑んだ。重厚なギターリフが空気を切り裂き、ドラムが地を震わせる。でも、その奥に―― 物語を紡ぐような、深い情感があった。


「まるで…… ファンタジーの世界で強敵と戦い、誰かを守るために剣を振るう…… そんな、物語……」彩花の瞳が、静かに輝き始めた。


私の音で、この世界を、もっと優しく包みたい。


 リハに備え、彩花はバックトラックのフレーズを、まるで宝物のように丁寧に分析した。パイプオルガンの重厚なコードを、滑らかに、でも確かに再現し、パッド音を、幻想的なアルペジオに変える。


 デモ演奏を聴いた燐火が感嘆する。


「私のレイヤリングがこんな風に変わるなんて!」佑飛が笑い、美夜が頷く。「真夏の推薦、間違いなかった!」


 彩花はリハに立ち会い、真夏のドラムを見つめる。ダブルキックの迫力が燐火のリフを支え、フィルインが佑飛の歌を際立たせる。


「真夏さん…あのRose Neonの時から、こんなにカッコよくなって…! トラウマを乗り越えたドラム、ほんとにすごい…!」


 真夏が笑う。「彩花の音が、私のリズムを自由にしてくれるよ!」


・叔父の遺産:オレンジの炎


 真夏はふと思い出したように、機材ケースから古びた鉄のラジオのような機械を取り出す。


PLATEプレート」「LOADロード」「TUNEチューン」……馴染みのない表記のツマミと、内部に見え隠れする2本ガラス管。電源を入れると、ガラス管にオレンジの炎がゆらゆらと灯る。


「彩花、これ…私の叔父が無線機に使ってた真空管式のプリアンプなんだけど。昔、『オルガンの出力用にも人気なんだ』って自慢してたんだ。私にはよくわからないんだけど、この真空管がね、音を煮詰めて、爆発させるんだ」って。


 真夏は続ける。「これがあそこに残っていて、こうして彩花と再会できたのも、何かの縁だと思うんだ。良かったら使って欲しい」


 彩花は驚き、慎重にプリアンプを受け取る。「真夏さん…こんな貴重なものを? 叔父さんの思い出まで…ありがとう。真夏さんと叔父さんの魂、ぜったいに使いこなして、私の響きに変えてみせる!」


・本音の涙


 ライブ当日、ライブハウス「CLUB WEED」は、IronSylph復活を待ち侘びたファンで満員御礼。


 キャパ500人の会場は開場前から長蛇の列ができ、真夏の加入を歓迎するファンたちの熱気が壁を震わせる。真夏はイエローサテンシャツに黒ジーンズ、黒髪ポニーテールが汗で揺れ、シルバーのピアスが光る。


 ドラムセットを調整し、彩花を見つける。「彩花…! いよいよだね…!」


 彩花はサポートプレイヤーとして、黒サテンブラウスに黒プリーツスカートの控え目な姿だが、メガネと揃えた赤いベルトを揺らし、駆け寄る。「真夏さん…! こんな熱いステージで一緒にできるなんて!」


 リハ前の静かな一角、機材の影で二人きりになる。真夏は目を伏せ、声を震わせる。


「彩花…5年前のライブハウス、Rose Neonで話したこと、覚えてる? こだわりすぎて、ギタリストが突然抜けて…空っぽのステージがトラウマだったって話… あの夜、彩花の音が心に残って、BerryGardenで仲間とのバランスを学んだよ。ソロでスピードメタルのビートに目覚めて、IronSylphのファンになったんだ…特に燐火の才能と情熱に惚れてた… でも、彼女がメンバーに厳しく当たる姿見て、昔の自分を重ねちゃって…」真夏の目から涙がこぼれる。


「燐火は絶対世界に行ける。あの才能がつぶれるところ、見たくなかった。だから、彼女をがっかりさせないように、死ぬ気で練習したんだ… オーディション受けて、IronSylphを救いたかった。彩花の音が、今も私を支えてくれてる…やっと、トラウマ乗り越えられたんだ…!」


 彩花は真夏の手を握り、涙を浮かべる。「真夏さん…そんな思いで…! 燐火さんの才能を信じて、バンドを救ったドラム…ほんとにカッコいいよ!」真夏は涙を拭い、笑顔を取り戻す。


「彩花、ありがとう。練習中は何度も足がつって転げまわったけど、みんなの前では笑顔で頑張るよ。彩花にだけ、この本音見せちゃった…!」


 照れ笑いを見せる真夏を、燐火がニコニコ顔で呼びに来る。


 真夏は、かつて客席から見上げ、憧れていた燐火が、まるで昔からの親友のような笑顔を向けてくれることに、不思議な縁を感じる。


 かつて、音に拘り過ぎて大切な仲間を失ったあの苦しみ…真夏は燐火の目に、同じ光を見た気がした。


・最終リハ:立体音響の魔法


 ライブ本番前の最終リハで、彩花はバックトラックのキーボードアレンジ版を披露。打ち込み用の複雑なコードを滑らかに再現し、パッド音を幻想的なアルペジオに変える。さらに、シンセサイザーの音源ごとに出力先を分岐させた。


 IronSylphのメンバーを前に、彩花は微笑みを浮かべ、床に広げたフロアプランを指差した。


「みんな……今日は、ちょっとだけ“空”を鳴らしてみたいの。頭の上から、音の星が降ってくるような……そんな気持ち、伝わるかな?」


 佑飛がマイクスタンドを握ったまま振り返る。「空? いったいどういうこと?」


 彩花は微笑みを浮かべたまま頷く。


「正面PAは燐火さんのスピードリフと佑飛さんの力強いミッドボイス。でも、それだけじゃない。このホールには、天井のライティングトラスと客席最後列にもスピーカーがあって、ドラムライザーの真下にもサブウーファーがあるの」


 美夜がベースの弦を軽く弾きながら眉をひそめる。「つまり……音が頭上から降ってくる?」


「そう。シンセのアルペジオは天井から降らせて、客の髪の毛を震わせる。パッドは後ろから遅れて返ってきて、美夜さんのベースと真夏さんのバスドラが床を震わせる。正面からはギターとボーカルが迫る——まるで“包囲”される感覚」


 燐火は驚く「キャパ500人のハコをサラウンドさせるってこと!? でも……リハで合わせる時間、30分しかないけど?」


「大丈夫。私のメインキーボードをマスタークロックにして、MIDIで同期できる。佑飛さんのボーカルは正面固定で、ギターソロの瞬間だけ、天井からハーモニクスが降ってくる——、まさに”閃光の翼”が舞い降りるように…」


 彩花が微笑み、キーボードに手を置くと、低音が床を這い、高音が天井を跳ね、遅延パッドが後方から忍び寄る。


 メンバー全員が息を呑む。


 燐火が目を見開き、佑飛が思わずマイクを握りしめる。


 美夜がクールに微笑み、「つまり、観客を『地獄の楽園』に誘い込むわけね」と呟く。


 彩花は照れながらも自信たっぷりに、「この音の包囲…絶対にみんなの心を掴むと思う!」と返す。


 真夏はドラムセットから彩花の姿を見つめ、ふと、あの夜を思い出した。


――Rose Neon。


 アンプのトラブルで震えていた少女。「音が出ない……」と涙目で立っていた彩花。


 あのときの彩花が、今、IronSylphの音を、こんなに自由に堂々と操ってる。


 真夏の胸が熱くなる。


 スティックを握りしめ、笑顔で頷いた。


「彩花……最高だよ」


 リハがはじまると、真夏のドラムがテクニカルなダブルキックと高速フィルインで一体感を高め、燐火のリフ、佑飛の歌声、美夜のチョッパーが融合。


 燐火が小さく笑って、髪をかき上げる。「……やっぱりヤバい奴って、友達までヤバいんだな。真夏も彩花も、最高にヤバいよ」

 

 佑飛が淡いピンクの髪を揺らして、いたずらっぽく目を細めた。「燐火ちゃんが『ヤバい』って言うの、なんか世界滅亡の予言みたいで怖いんだけど!」


 メンバー全員が顔を見合わせて、くすくす笑いながら頷いた。


 リハーサルを終えたステージに、温かな笑い声が響く。


・炎のステージと絆のハーモニー


 CLUB WEEDのステージ、照明が赤く脈打つ中、満員の500人がIronSylphの復活を待ちわびた熱狂で壁を揺らす。IronSylphのセットリストが佳境に差し掛かり、フィナーレの「Sylph’s Flame」が始まる。


 真夏のドラムが轟き、テクニカルなダブルキックの重低音が床を震わせ、高速フィルインがサビを爆発的に盛り上げる。


挿絵(By みてみん)


 ハイハットのオープンクローズが佑飛の歌声にアクセントを加え、燐火の高速リフを際立たせる。


 彩花はステージ脇のキーボードセットに控えめに立つ。黒髪ロングが艶やかに揺れ、赤フレームのメガネが知的な輝きを放つ。


 黒いサテンブラウスに黒プリーツスカート、赤ベルトがアクセント。サポートプレイヤーとして黒を基調に溶け込みながら、指先が鍵盤を滑る瞬間、シンフォニックな魔法が発動する。


 スタジオ版の重厚なパイプオルガンを、彩花は生の息遣いで再現。荘厳なコードを滑らかに重ね、真夏のダブルキックにぴたりと同期。


 立体音響が会場を包み、観客は没入の渦に飲み込まれる。


 4人の生のリズムが荒々しく脈打つ中、彩花のキーボードはバンドのサウンドに新たな風を吹き込み、メロディックメタルの世界をより壮大に昇華させた。


 燐火はステージ中央に君臨し、黒髪ロングが激しく翻る。高速オルタネイトピッキングが、空間を切り裂く。


 指板を這う左手は、1フレットから22フレットまでを一瞬で制圧。


 まるで大剣を一気に振り下ろすかのように、音の軌跡が交差した直後、高速タッピングが始まる。右手が弦を叩き、左手がハンマリングとプリングで音を紡ぐ。まるで一人の人間が二本のギターを同時に支配しているかのよう。


 そのギターはIronSylphの魂! 世界を目指す太陽の輝きを見せた。


 佑飛は中央マイクスタンドに立ち、クリアな中音域にビブラートを効かせ、重厚なメタルサウンドを情感豊かな物語に変える。真夏のブラストビートに乗り、声が空気を切り裂くように伸び、観客の胸を震わせる。


 美夜はすました顔でベースを体の一部のように操り、ソロパートへ移行する。右親指が高速で高音弦を叩き、流れるようなスケールが会場を駆け巡る。


 ソロパートでは、燐火のギターが火花のように閃き、美夜のベースがそれを地響きのように受け止める。二人のアクションは完璧にシンクロし、ギターソロが頂点に達すると、美夜のスラップが爆音で割り込み、会場をさらに熱狂させる。


 ギターとベースのバトルが白熱する中、燐火がギターを一瞬止め、マイクに歩み寄る。


 黒髪ロングが汗で張り付き、ワインレッドのシャツが妖艶に光る。


 かつての近寄りがたいオーラは消え、穏やかな笑顔が会場を照らす。彼女の声は丁寧で温かく、しかし情熱に満ちて響く。


「CLUB WEEDの皆さん、ありがとうございます! 新体制でIronSylphがこうして復活できたこと、心から嬉しく思います。真夏のドラムが加わり、私たちの音は新たな太陽を灯しました。そして、皆さんの熱い声援——この会場を揺らす叫びが、私たちの力です! 一緒に、この瞬間を永遠に刻みましょう。皆さん、準備はいいですか?」


挿絵(By みてみん)


 観客の歓声が爆発し、拳が天に突き上がる。燐火の瞳に涙が光り、真夏がドラムから頷く。


 ソロの後半がはじまり、観客の涙と笑顔が交錯する。


 ギターソロのブリッジに入ると、真夏の真骨頂が現れる。高速フィルインでドラムセット全体を駆け巡り、タムを回転するように叩き、クラッシュシンバルを叩き砕くようなパワーでアクセントを付ける。

 

 燐火がギターソロの頂点で、一瞬だけ、美夜を見る。


 美夜は、初めて、小さく笑った。


 その笑顔に、燐火も初めて笑みを返した。


 燐火の閃光のような速弾き、美夜の地を這うようなチョッパーの波、真夏の雷鳴のようなドラムが一体となり、曲を頂点へ押し上げる。


 彩花は赤フレームのメガネ越しに真夏を見つめ、涙を浮かべる。


「あの夜、震える私を支えてくれた真夏さん… 今、世界を目指すバンドを牽引してる…!」真夏のドラムは、過去のトラウマを埋め、IronSylphを新たな高みへ押し上げた。


「Sylph’s Flame」が終わった瞬間、会場が割れんばかりの歓声と涙に包まれる。


 ステージ脇で、彩花は赤いシンセサイザーにそっと手を置いた。静かに、でも確かに呟いた。


「……私の音は、みんなの心と共にある」


 その言葉は、誰にも聞こえなかった。


 でも、真夏のドラムが少し優しくなり、燐火のギターが少し温かくなった。美夜のベースが、初めて柔らかく響き、佑飛の歌声が、力強くも優しく広がった。


――いつか、この音は、誰かを救う“魔法”になる。


 彩花の瞳に、静かな確信が灯った。


 観客の「アンコール!」の声に、彩花と真夏が視線を交わし、笑顔で頷く。


・ライブ後の絆


 ライブ後、バックステージで二人が抱き合う。真夏が微笑む。


「彩花、次はもっと大きいステージ! 必ず行ける! また、一緒に太陽を灯そう!」彩花が頷く。「真夏さん、絶対! この炎、もっと大きくしよう!」


 照明が二人の衣装を照らし、「勇気と輝き」が会場に響き合う。

次回予告:彩光の詩 第二部 第8話 情熱の共鳴(12月19日【金】20:00公開)


霧咲高校の学園祭から生まれたひそやかな絆。颯の寡黙な熱意と凛の明るい情熱が、音楽室の秘密セッションで交錯する。「BlossomEcho」と「NightReaver」の裏方で支え合う二人の絆は、2度のサプライズを起こす。怜と彩花の輝きを誇らしげに見守り、カフェ「ルミエール」で再会する青春の旋律。颯と凛の音は、霧咲の星空に永遠に響き合う――。


シリーズ屈指の長尺回に、最後までお付き合いいただきありがとうございます。 一言でも二言でも結構です。感想をいただけたら、作者が小躍りします。

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