2nd GATE 第3話【桜の音色】
「彩光の詩」第二部は、第一部の「彩花の魔法」が生まれるまでの、始まりの物語です。
第3話は、彩花が初めて「音で心を解いた」日。孤独だった教室の窓際で、凛の笑顔と美織のスケッチに出会い、BlossomEchoが生まれた、桜の日の記録。
震える指、初めての笑顔、桜の下での約束。この瞬間がなければ、13年後の彩花の魔法は存在しませんでした。 どうか、17歳の彩花が扉を開く瞬間を、優しく見守ってください。
それでは、桜の花びらが舞う、霧咲高校の音楽室へ。
(本文にはGrokによるAI生成イラストの挿絵を挿入しております)
・霧咲高校の新学期
校庭の桜は満開で、春風に花びらが舞い散る。
教室の喧騒が響く中、高校2年に進級した佐藤 彩花は窓際の席で一人、ノートに曲のアイデアを走り書きする。
白いシャツに青いネクタイ、紺のプリーツスカートが華奢な身体を包み、シルバーフレームのメガネ越しに長い黒髪が揺れる。
友達が欲しい――そう願いつつ、クラスメイトの笑い声に心が縮こまる。話しかける勇気がない。彩花の指はペンを握り、音符を綴る。音楽だけが、私の心を解いてくれる…
中学時代、ピアノの堅苦しいレッスンに縛られ、発表会で失敗した記憶が彩花を苛む。緊張で指が震え、観客の冷たい視線に押し潰され、ピアノを辞めた。あの日以来、部屋に閉じこもり、心を閉ざしていた。
両親はそんな彩花を心配し、キーボード「KASHIMA TONE」をプレゼントしてくれた。鍵盤数は61、ピアノより音階の幅も小さく、タッチの感度も低い安価な電子楽器だったが、彩花は鍵盤を叩くたび、様々な音色に心を躍らせた。
パイプオルガンの荘厳な響きが、部屋を教会のように満たした。
レッスンで習ったコードやスケールを辿っただけなのに、まったく別の世界が見えてくる!
ストリングスの優しい波が心の扉をそっと押し開き、ブラスの輝くファンファーレが胸の奥に勇気を灯し、フルートの軽やかな調べが涙を誘うように、彩花の閉じた心を未知の冒険へと優しく連れ出していった。
コードを入力するだけで、自動伴奏機能が最適なパターンを生成してくれる。彩花はKASHIMA TONEを自在に操り、自分だけの音の世界にのめり込んだ。
「彩花の演奏は物語のようね」と母が微笑み、彩花の音を褒めてくれた。
あの言葉が、凍った心を溶かし始めた。ピアノの重圧から解放され、自分の気持ちを音で表現できた。
クラス替え直後、知らない顔ばかりの教室で、彩花の目はふと隣の席に落ちる。黒縁メガネの少女が、スケッチブックに色鉛筆で桜の花びらを描いている。小柄な身体に制服が少し大きく、ショートカットの髪が静かに揺れる。名前は…美織、だったかな?
彼女の集中した瞳と、桜の花びらを丁寧に描く手つきに、彩花は自分の姿を重ねる。自分だけの世界に籠ってる…私みたい…
美織のスケッチブックに舞う桜が、彩花のノートに書かれたメロディと重なり、心がそっと動く。話しかけてみたい…でも、どうやって…? 勇気が出ないまま、彩花はノートに目を戻す。
・音楽室の共鳴
放課後、彩花は教室を抜け出し、音楽室に駆け込む。夕陽が窓から差し込み、木の床にオレンジ色の光が揺れる。
母から贈られた「KASHIMA TONE」を持ち込み、鍵盤の前で目を閉じる。オリジナル曲のメロディが、孤立感と希望の間で揺れる心を映す。
指先が震え、透明なアルペジオが音楽室を満たす。私の音…誰にも言えない気持ち…
「バン!」突然、ドアが勢いよく開き、弾ける笑声が響く。
「彩花でしょ? 前から話したいと思ってたんだ!」彩花の指が鍵盤で止まる。
振り返ると、同じクラスの栗本 凛が立つ。ショートカットの髪が夕陽に輝き、ネクタイを緩めた制服と赤いスニーカーが活発さを物語る。
ギターケースを肩にかけ、凛はキーボードに近づく。「え…私の名前…?」彩花の声が震え、人気者の凛が自分を知っていることに胸がざわつく。
なんで…凛が私のこと…?
凛はキーボードの隣にドカッと座り、馴れ馴れしく微笑む。「彩花、時々この音楽室から聞こえるメロディ、めっちゃ心に刺さるんだよね! それ、オリジナル?」
気さくな口調に、彩花は目を逸らす。「う、うん…なんとなく弾いてただけなんだけど…」こんな風に話しかけられるなんて…
凛の明るさに圧倒され、頭が混乱する。凛はギターを取り出し、「ね、彩花。一緒にやってみない?」と目を輝かせる。「え…私なんかと…?」彩花は躇し、声が小さくなる。
凛は構わずギターを弾き始めるが、最初のコードがズレ、不協和音が響く。
「うわっ、ミスった! ダサっ!」ギターの弦が悲鳴を上げ、彩花の心の壁が一瞬で崩れる。 凛が笑い、彩花も思わずププッと笑ってしまう。
私…笑った…? 凛の無邪気な失敗が、彩花の心の壁を一瞬で突き崩す。
「彩花、めっちゃ可愛い笑顔! やっぱ笑うと最高じゃん!」凛の言葉に、彩花の頬が熱くなる。人前で笑えなかった自分が、初めて自然に笑えたことに心が震える。
「もう一回…合わせてみる?」彩花は勇気を振り絞り、囁く。
凛の目が輝き、「お、彩花、いいね! 行くよ!」とギターを構える。彩花のキーボードが再び響き、明るい音から切ない音へ変わるメロディが希望と葛藤を織り交ぜる。
凛のギターが力強いコードで寄り添い、まるで二人の心が抱き合うよう。私の音…凛に届いてる… 彩花の胸が熱くなり、涙が滲む。
凛もまた、彩花のメロディに心を奪われる。この音…私の空っぽな心、満たしてくれる…
・桜のトラウマ
それから毎日、放課後になると、彩花と凛は音楽室で練習を重ねる。彩花の指がKASHIMA TONEを滑り、明るく始まり切なく響くメロディが部屋を満たす。だが、突然、彩花の指が止まる。
中学のピアノ発表会、観客の視線、失敗の音――トラウマが蘇り、手が震える。「凛…私、弾けない…あの時、みんなの前で…失敗して…笑われた…」涙が溢れ、彩花は鍵盤に顔を埋める。
凛はギターを置き、彩花の手を両手で包み込む。「彩花、大丈夫。失敗なんて、誰にでもあるよ。私だって、いつもミスってばかりだしさ!」彼女の笑顔が、彩花の心を軽くする。
「ね、彩花、外で弾いてみない? 音楽室、ちょっと堅苦しいしさ!」凛は音楽室の隅にあったミニキーボードを手に取り、彩花に渡す。「これ、軽いし、持ち運べるよ! 桜の木の下でさ、自由に音出そうよ!」
彩花は目を丸くするが、凛の勢いに押され、ミニキーボードを抱えて校庭へ向かう。
満開の桜の木の下。夕陽が金色に輝き、花びらが春風に舞う。彩花は震える指で鍵盤に触れた。
桜の花びらが鍵盤に落ちたとき、母の声が頭に蘇った。
『彩花の演奏は物語のようね』
――今なら、物語の続きが書ける。
凛がギターを構え、笑う。
「彩花、自由に弾いて! 桜が全部受け止めてくれるから!」
メロディが響き、花びらが音に乗って舞う。凛の歌声が重なり、まるで桜が歌っているみたいだった。
凛が叫んだ。「彩花、この音! 桜の花が響き合うみたい! ね、私たちのユニット名、『BlossomEcho』にしよう! この桜の下で生まれた、私たちだけの音だよ!」
彩花は涙を拭い、初めて満面の笑みを浮かべた。
「BlossomEcho……うん、好き……心に、温かく響いてくる……」
桜の花びらが二人の絆を祝福するように舞い、夕陽が音を金色に染める。
・心の隙間
二人は音楽室に戻り、静寂が訪れる。夕陽が窓の外で桜の花びらを舞わせ、鍵盤とギターに金色の光が反射する。彩花は震える声で呟く。
「私…人と話すの苦手で…教室で、みんなが笑ってる中、私だけ…置いてけぼり…」涙がこぼれ、心が裸になる。
凛はギターを置き、彩花の隣にそっと座る。
「彩花…わかるよ。私、いつも笑ってるけど…心が空っぽなとき、あるんだ。友達はいっぱいいても、ほんとの自分を話せる人…いなかった。」彼女の声は小さく、弱さが滲む。
「彩花の音、聴いてたら…なんか、ほんとの自分に戻れる気がして。この音楽室から聞こえるメロディ、前から気になってたんだ。彩花の音は本物だよ、私が保証する!」
彩花の涙が頬を伝う。「凛…私も、凛の声、好き…。温かくて…私の気持ち、包んでくれる…」初めて心の扉が開き、胸が熱くなる。
凛の笑顔が、夕陽に照らされて輝く。「彩花、こんな音、一緒に作れるなんて、めっちゃ嬉しいよ!」
凛が立ち上がり、音楽室の窓を開ける。春風に桜の花びらが舞い込み、木の床に散る。
「彩花、この音、学園祭でみんなに聴かせようよ! 私が歌って、彩花がキーボード! 絶対、すごいステージになる!」彩花は目を丸くする。
「えっ、人前? 私、怖いよ…」中学の失敗が脳裏をよぎり、身体が縮こまる。
凛はニヤリと笑う。「彩花、はじめて会った時、私のダサいギター、めっちゃ笑ってたよね? それでいいんだよ、一緒なら何でもできる! 私がそばにいるから、怖くないって!」
彩花はクスクスと笑い、心が軽くなる。人前で笑えなかった自分が、凛の明るさに解き放たれた瞬間だった。
「うん…凛と一緒なら、やってみる…」
声は震えながらも、希望に満ちる。凛が拳を握る。「よし、決まり! 『BlossomEcho』、学園祭で絶対輝くよ!」
・桜の絆
放課後の音楽室に、凛が誰かを連れてくる。
「彩花、紹介するよ! こいつ、美術部の山内 美織! ポスターとかめっちゃ上手いんだから!」黒縁メガネの小柄な少女、美織がスケッチブックを抱えて現れる。
制服が少し大きく、ショートカットの髪が静かに揺れる。彩花は驚き、あの窓際の桜の絵の子…美織が、凛の友達? と心が動く。「美織、彩花の音、めっちゃすごいんだよ! 学園祭のポスター、頼める?」凛が笑う。美織はメガネを直し、照れながら頷く。
「うん、凛、彩花、さっきの音、めっちゃよかったよ…! ポスター、作りたいな。桜の花びら、BlossomEchoってユニット名にちょうどよさそうだし…」彼女の声は控えめだが、瞳に情熱が宿る。
「私、美術部の決まった課題に馴染めなくて…自分だけのテーマを探してたの。彩花の音、凛の声、なんか…私の絵に合う気がする。」美織のスケッチブックには、すでにポスターの構図やアイデアが描かれていた。
彩花は美織の言葉に心が温まる。私と同じ…自分だけの何か、探してるんだ…
「美織、ありがとう…そんな風に言ってくれて…」彩花は微笑み、初めての安心感に包まれる。
凛が拳を握り、「よし、決まり! 彩花のキーボード、私の歌、美織のポスター! 『BlossomEcho』、学園祭で絶対輝くよ!」
三人の笑顔が音楽室を満たし、夕陽が白いシャツ、赤いスニーカー、黒縁メガネを金色に染める。
私の音…凛と、美織と一緒なら、どこまでも届く… 彩花の心は、初めての友情と音楽の希望で震える。
凛も、彩花と一緒なら、ほんとの自分になれる… と涙が滲む。「学園祭、最高のライブにしよう! 約束ね!」
凛が拳を突き上げ、彩花と美織が頷く。
桜の花びらが音楽室に舞い込み、春の空に三人の絆が響き合う。
・次回予告:彩光の詩 2nd GATE 第4話【情熱と絆】(12月5日【金】20:00公開)
霧咲の秋。音に妥協を許さない彩花と凛は、学園祭を前に早くも試練を迎える。激しい衝突が二人の絆を揺さぶるが、美織の小さな行動が奇跡を呼ぶ。彩花のノートに隠された想いとは? 彼女たちの絆は、どんな輝きを放つのか?
霧咲の音楽室の明かりは、あなたが感想をくださるたびに少しずつ明るくなります。よろしければ、一言でも結構ですので、お気持ちをお聞かせください。




