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彩光の詩 ~Eternal Echoes~  作者: 絹咲 メガネ
彩光の詩 2nd GATE ~Luminous Harmony~
24/37

2nd GATE 第1話【桜色のスケッチ】

 第二部「~Luminous Harmony~」は、第一部「~Eternal Echoes~」の続編として、霧咲の街に響く青春と絆の旋律を新たな視点で描きます。


 最初に語るのは、彩花の眩さから逃れたいと願った少女――奏。


 彼女が廃校の音楽室で鍵盤に触れたとき、霧咲の旋律は、新たな章を静かに開きました。どうか、彼女の最初の4小節を、一緒に聴いてください。


(本文にはGrokによるAI生成イラストの挿絵を挿入しております)

挿絵(By みてみん)


・廃校の音楽室:桜色の葛藤


 霧咲きりさきの秋は、夕陽が空を桜色に染める。数年前に廃校となった霧咲高校は、紅葉に包まれて静かに佇む。


 高橋たかはし かなで、17歳。


 赤いフレームのメガネを外して、もう半年が経つ。コンタクトにしたのは、母と同じ顔を隠したかったからだ。


 母――彩花あやか。12年前、30歳のときに決行した初ソロライブの映像は、今でも奏のトラウマだ。


 会場は収容500人程度の小さなライブハウス。ドームでもアリーナでもない。


 けれど、あの夜の熱気は、奏が後に見たどんな有名アーティストの映像よりも衝撃的だった。


 観客が総立ちで叫び、鍵盤一つで星空を降らせ、最後に彩花が静かに告げた。


「私の音は、みんなの心と共にある」


 その瞬間、会場が光の海に変わった。スマホのライトが波のように揺れ、誰もが自分の名前を呼ばれた気がして泣いた。


 そして、クライマックスで現れたゲスト――赤いシャツと黒いジャケットを身に着けたショートヘアの女性が、母と並んで力強く歌った。


 母はいつも多くの人々を惹きつけ、支えられて輝きを増す。


――その輝きを「彩花の魔法」と、人々は呼んだ。


 小さい頃は、母の真似をして毎晩鍵盤に向かい、「私も彩花の魔法を鳴らしたい」と泣きながら練習していた。


 でも、どんなに頑張っても、返ってくるのは「彩花の娘なのにね」という言葉と視線――。


 だから奏は逃げた。


 高校2年の春、キーボードを押し入れにしまい「もう弾かない」と宣言して美術部に入った。


 絵なら、少なくとも母と比べられることはないと思った。


 なのに…。


 今日、美術部の写生旅行で、なぜかここへ来てしまった。


 廃校の音楽室――、母が17歳のときに毎日座っていた、古いキーボードの前に。


 夕陽に照らされた鍵盤は、まるでまだ母が弾いているかのように輝いている。


 奏は震える指を伸ばす。触れた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。


「触るな……」


 自分の声だった。


(触ったら、また比べられる)

(また「彩花の娘なのに」って言われる)

(また、あの失望した顔を見なきゃいけない)


 涙が鍵盤に落ちて、小さな音を立てる。そのとき――埃が夕陽に光って、ふと母の姿が浮かんだ。


 振り返ると、そこにいたのは17歳の少女。


 白いシャツに紺のプリーツスカート、シルバーフレームのメガネ。奏と瓜二つの顔で、静かに微笑んでいる。


「……母さん?」


 幻の彩花は、奏の手を取って鍵盤にそっと置いた。


「怖いんだね」奏の喉が詰まる。


「怖くても、いいよ」幻は優しく、でも確かに告げた。


「だって、一番のファンも、一番のアンチも、自分自身なんだから」


――その瞬間、奏の中で何かが壊れた。


ああ、そうだった。私を一番傷つけてきたのは、誰でもなく私だった。


「だから、もう逃げるのはやめよう」


 幻が語り、奏の指を導いた。たった4小節の震えるメロディが自然と鳴り響く…。


 音が外れ、涙が鍵盤を濡らしたが、それは確かに「奏の音」だった。


 幻の彩花は優しく微笑み、震える奏の手を自分の上に重ねる。


「母さんの音じゃない。奏の音だよ」


――私は、私を一番信じてあげなきゃいけない。


 幻がそっと奏の頬に触れた。


――温かかった。まるで本当にそこにいるみたいに。触れた指先が桜の花びらになって散り、夕陽と共に儚く消えていく。


 残ったのは、誰にも聴かせたことのない、たった4小節のメロディと、鍵盤に落ちた奏の涙。


 でも、その涙はもう「逃げたい涙」じゃなかった。


 奏はスケッチブックを開く。


 無意識に描いていたのは、桜色に染まる鍵盤と、涙を流す自分の後ろ姿だった。――私は、彩花の娘じゃない。高橋 奏だ。


 その夜、奏は赤いフレームのメガネをかけ直した。半年ぶりに。


桜丘さくらおか高校の美術室:葵の光


 奏が通う桜丘さくらおか高校の美術室は、絵の具の匂いと秋の風が混ざり合う。


 新校舎は、廃校となった霧咲高校の記憶を引き継ぎつつ、若々しい息吹に満ちている。


 赤いフレームのメガネをかけ直した奏がキャンバスに向かい、廃校の音楽室のスケッチを仕上げる。


 鍵盤、夕陽、桜色の影。だが、心はまだ定まらない。


「奏ちゃん、めっちゃいい! この絵、音が聞こえるみたい!」


 隣で笑うのは、あおい。美術部の同級生で、青い髪留めが揺れる少女だ。桜丘高校のブレザー制服をカジュアルに着崩し、ネクタイを緩め、シャツの裾を出す姿が、自由な雰囲気を漂わせる。


「音? 絵なのに?」


挿絵(By みてみん)


 奏は眉をひそめる。「うん! 奏ちゃんの絵、キラキラしてる。ピアノの音が響いてるみたいだよ!」


 葵の笑顔が、奏の曇った心に光を差す。


「葵、私…音楽、辞めたかった。母さんの『魔法』と比べられるのが怖くて。コンタクトにしてたのだって、母さんの赤いメガネを拒んだから…」


 奏はスケッチブックを握りしめる。


「でも、廃校で母さんの幻を見た。『自分の音を信じて』って。母さんの真似じゃなくて、私の何かを見つけたい。」


 葵は目を輝かせる。


「だったら、やってみたら? 奏ちゃんの絵と音楽、合わせたら絶対すごいよ! 学園祭の美術部発表会、プロジェクターあるから、そこで試してみなよ!」


 彼女の純粋な応援が、奏の心に火を灯す。絵と音楽を融合させる挑戦。怖気づくが、葵の笑顔に背中を押される。


「音楽に戻るの、たしか半年ぶりだよね!」笑顔で話す葵を見て、奏は静かに、でも確かに答えた。


「戻るんじゃない。これから始めるんだ」


 ――母さんの魔法じゃなくて。私の音で。


 奏は初めて笑顔を見せる。


 ・自宅スタジオ:凛との出会い 


 彩花の自宅スタジオは、木の温もりと夕陽に包まれた聖域だ。壁には彩花のソロライブや、奏の父、れいがプロデュースしたバンドのポスターが飾られ、赤いシンセサイザーが佇む。


Northノース ELEMENTエレメント3」、奏が母から受け継いだ年代物が、いまも輝きを放つ。 


 奏は鍵盤の前に座り、指を置く。


「何か、ひらめいた?」父の怜が声を掛ける。ダークグレーのジャケットに、穏やかな笑顔。音楽プロデューサーとしての円熟した落ち着きと、かつての端正な少年の面影が重なる。 


 奏はスタジオの棚から、彩花の高校時代の写真を見つける。17歳の彩花、そして、太陽のような笑顔の少女。


 サテンのピンクとレッドの衣装で、ステージに立つ二人。「BlossomEchoブロッサムエコー」と書かれた文字。


「この人、誰?」奏は写真を手に、怜に尋ねる。 


 怜は笑う。「りんだよ。彩花の親友で、昔一緒に音楽ユニットをやってた。熱い奴だったな。今は…桜丘高校の音楽教師だよ。」


「え、桜丘の山崎先生!?」奏は目を丸くする。 


 吹奏楽部を全国優勝に導いた、情熱的で少し怖い名物教師が、母の親友だったなんて。奏は凛の笑顔を見つめ、葵と重なる何かを感じる。


「凛さん、どんな人だったんだろう?」彼女は「North ELEMENT3」に触れ、音を紡ぎ始める。


 ポップとクラシックの融合。明るい音から切ない音へ変わるメロディで、希望と葛藤を織り交ぜる。曲の名は「桜色のスケッチ」。 


 無意識に、彩花の「Stardustスターダスト Breezeブリーズ」のコード進行を引き継ぐ。絵の投影とシンクロするイメージが、奏の心に広がる。


「奏の音、いいね。母さんも喜ぶよ。」怜の言葉に、奏は頷く。母の青春への好奇心と、自分だけの表現への挑戦が響き合う。


・カフェ「ルミエール」:母の魔法


 霧咲駅前のカフェ「ルミエール」は、温かな光で包まれる。奏は、母と同じ赤いフレームのメガネ姿で、彩花と向き合う。 


 向かいに座る彩花は、42歳とは思えないほど穏やかで、クリーム色のセーターに赤いメガネという、ステージ上の「伝説のキーボーディスト」とはまるで別人の装いだった。


 今、目の前にいるのは、ただの優しい母。だからこそ、怖かった。


 奏は震える指で写真をテーブルに置いた。高校時代の彩花と凛が、サテンの衣装でステージに立つ姿。


「母さん……この『BlossomEcho』って何? 凛さんって、桜丘の山崎先生?」


 彩花は驚いたように瞬き、それから優しく微笑んだ。


 「そう、山崎やまざき 凛。旧姓は栗本くりもと。私の親友で、高校で一緒に音楽をやってた子。……あ、そうか。奏は覚えてるよね。私が30歳のソロライブで、ゲストで出てくれた人。赤いシャツに黒いレザージャケットで、私の横で歌ってくれた女性。」


 奏の胸が締め付けられた。――あのときの、太陽みたいな声。


「覚えてる……あの人の声、今でも耳に残ってる。」


 彩花はホットココアを両手で包みながら、静かに続ける。


「凛はね、私が一番怖がってたときに、いつも『一緒にやろう』って手を差し伸べてくれた。私はステージに立つのが怖くて震えてたけど、凛の歌声が私を引っ張ってくれた。……だから、あのソロライブで凛を呼んだの。私をここまで連れてきてくれた人に、最後に歌ってほしかったから。」


 奏は唇を噛んだ。「……私、母さんみたいになりたくて、でもなれなくて、逃げてた。コンタクトにしたのだって、母さんと同じ顔を見るのが嫌だったから。でも――」奏はメガネのフレームを指でなぞり、初めて母を真正面から見た。


「でも、もう逃げない。廃校で母さんの幻を見たとき、言われたんだ。『怖くてもいいよ。一番のファンも、一番のアンチも、自分自身なんだから』って。」


 彩花の目が、静かに潤んだ。奏は、声を震わせながら続けた。


「私は母さんの真似はできない。でも――母さんが歩いてきた道を、ちゃんと見てみたい。BlossomEchoのこと、凛先生のこと、母さんの青春を、全部知りたい。そして、私の音で、私だけの魔法を鳴らしたい。」


 彩花は、ゆっくりと立ち上がり、テーブルの上から奏の手を取った。「……ありがとう、奏。」


 母の指は、ステージで鍵盤を叩くときとは違う、ただただ温かかった。


「これからは、奏の音が誰かを照らす番だよ。比べなくていい。母さんはただ、奏が奏らしく輝くのを、ずっと待ってただけだから。」


 窓の外には枯れ葉が静かに舞っていた。


 奏は初めて、母と目を合わせたまま、はっきりと笑った。


「約束する。私は高橋 奏として、母さんの娘じゃなくて、自分の音を、ちゃんと鳴らす。」


 赤いメガネの奥の瞳に、確かな光が灯った。──これが、奏が母と真正面から向き合った、最初の瞬間だった。


・桜丘高校の発表会:桜色の光


 10月、桜丘高校の学園祭。美術部の発表会は、講堂の小さなステージで行われる。桜色のLEDライトが会場を柔らかく照らし、壁には美術部の絵が飾られている。


 奏は「North ELEMENT3」の前に立つ。赤いメガネ越しの瞳に情熱が宿るが、指先は冷たく震えている。


 客席には彩花と怜。彩花は穏やかに微笑み、怜は静かに頷く。観客は美術部の生徒や保護者、クラスメイトたち――50人ほどの小さな空間だ。


 舞台裏で葵がプロジェクターのリモコンを握りしめ、小声で囁く。「奏ちゃん、絶対できるよ! 自分を信じて!」


 奏は一度だけ深呼吸して、鍵盤に触れた。「桜色のスケッチ」が響き始める。ピアノの透明なアルペジオが静かに広がり、シンセパッドが桜の花びらのように舞う。


 スクリーンには奏の描いた廃校の音楽室が映り、夕陽がゆっくりと動き、埃がきらめく。最初の8小節は、ほとんど息ができなかった。心臓の音が耳に響き、指がすべりそうになる。


――ダメだ。今ここで逃げたら、また自分に負ける。


「一番のファンも、一番のアンチも、私自身」


 廃校で母の幻が言ってくれた言葉が、胸の奥で熱を帯びる。


――私は、私を信じてあげなきゃいけない。その瞬間、指が自然に動き始めた。


 サビに入った瞬間――鍵盤に触れるたび、廃校で見た母の幻が微笑む気がした。


 奏の指が加速する。明るいメロディが切ない和音に変わり、スクリーンの桜色が深みを増す。


「母さんの真似じゃない……私の音。」


 心の中で呟いた瞬間、音が震えた。感情が溢れて、涙が鍵盤に落ちそうになる。最後のコードを長く伸ばし、奏は鍵盤から手を離した。


――静寂。一秒、二秒。


 誰も動かない。そして、客席の隅から、ぽつん、と小さな拍手が鳴った。それが雪崩のように広がり、クラスメイトの誰かが立ち上がって叫んだ。


「奏、めっちゃよかった!!」拍手が嵐になり、知らない保護者が目を拭い、美術部の先輩が「絵と音が完全に合ってる……!」と呟く声が聞こえた。葵が舞台裏で両手を挙げてガッツポーズ。


 彩花は静かに、でも確かに涙を流していた。奏は息を吐き、初めて実感した。


――私の音、届いた。


 頬を伝う熱い涙を、奏は初めて、誇らしく感じた。


「私の挑戦、始まったばかり……」


・カフェの約束:美織への好奇心


 発表会後、カフェ「ルミエール」に彩花、怜、奏、葵が集う。枯葉が窓辺に積もり、ホットココアの湯気が温かな空気を満たす。 


 彩花が奏の演奏を振り返る。


「今日の発表会みたいに、誰かの音が誰かを勇気づける。そして、誰かがその音を色んなかたちで残してくれる。奏の絵と音楽、すごかったよ。…ね、怜、誰かを思い出さない?」


 怜は微笑む。「ああ、美織みおりだな。彼女はいつも、彩花と凛の音を絵で表現してくれた。」


「美織さん…?」奏は初めて聞く名前に目を輝かせる。


 彩花が続ける。「裏方で私たちを支えてくれた、大切な友達。美織はいつも、私たちの音を桜の絵に描いてくれてたの。BlossomEchoポスターも、ライブのキービジュアルも、全部美織の筆から生まれた。彼女の助けがなければ、今の私はいないって、本気で思うよ。」


 彩花はホットココアを見つめ、ぽつりと呟いた。「美織は今も、どこかで桜を描いてくれてる気がするの。」


 奏は写真の彩花と凛を見つめ、呟く。「美織さんの絵、どんなだったんだろう? 母さんの青春、もっと知りたい。」


 彩花は笑い、「いつか話すよ。『BlossomEcho』や『CrystalVeilクリスタルヴェール』『NightReaverナイトリーヴァー』の日々。みんなの音が、私をここまで連れてきてくれた。」 


 怜が手を握り、「奏の音も、誰かの光になる」と言う。葵が、袖をまくり上げながら笑う。「次はもっと大きい企画をやろうね!」


 奏は窓の外に舞う枯葉を見つめ、微笑む。 


 美織みおりの桜、りんの歌声、れいのギター、はやての情熱、優奈ゆうなの優しさ、真夏まなつの鼓動――


 母が愛した青春の欠片が、今、奏の中で新しい魔法を紡ぎ始める。


挿絵(By みてみん)

・次回予告:彩光の詩 2nd GATE 第2話【星空の裏方】


 25年前の霧咲の秋。学園祭の熱気の中、彩花と凛の「BlossomEcho」がステージを焦がす。だが、その輝きの裏には隠れた立役者、美織がいた。小柄な彼女の筆が、桜の花びらを散らすポスターに魂を込める。届かぬ想いを胸に、裏方の少女は星空の下で何を願うのか?


 ここまで読んでくださったあなたの胸に、どんな想いが残りましたか? どんな小さなことでも構いませんので、ぜひ教えてください。待っています。

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― 新着の感想 ―
もう一回★★★★★つけたいw 相変わらずいい言葉ですね。 一番のファンも、一番のアンチも、私自身。 どんな分野でも同じだと思います。 誰かの背中を追い続けて腕を磨いて、手の届きそうなところまで来ても…
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