1st STAGE 第18話【ストリートライブの光】
冬の霧咲で、彩花の音楽は大きく羽ばたく。大舞台の招待、凛との絆、怜への愛。
そして、桜柄の便箋が呼び起こす、懐かしい笑顔。
すべてが輝き始めたその時、雪のイルミネーションの下で、彩花は衝撃的な光景を目撃する。
・大舞台への挑戦・
年明けを迎えた霧咲の街は、清冽な空気と新年の静かな余韻に包まれている。
新学期が始まるころ、衝撃的なニュースが舞い込んだ。
「BlossomEcho」が、TubeStreamでの人気を背景に、3月の大規模ストリートライブイベント「霧咲ストリートソニック」に地元の人気ユニットとして招待されたのだ。
霧咲駅前の地下街「霧咲シティプラザ」で開催される盛大な舞台。物販ブースでのCD販売も予定されている。
彩花と凛は音楽室で目を丸くした。
「マジ!? 地下街のライブ!? 超やばいじゃん!」
凛が興奮を隠さず叫ぶ。彩花も笑顔で頷いた。
「うん、凛! 配信のおかげでこんな大舞台、絶対チャンスだよ!」
凛の情熱に心を燃やされ、彩花の胸が高鳴る。
凛は拳を握る。
「彩花、この機会、絶対ものにしよう! CD作って、物販で売りまくろう!」
目を輝かせた。
彩花も拳を握り返す。
「うん! 私たちの情熱、CDに詰め込んで、みんなに届けたい!」
凛と一緒に……もっと大きな舞台に……!
二人の心は、音楽への情熱で燃え上がっていた。
・レコーディングの熱気・
年明け後の慌ただしさの中、彩花と凛はレコーディングスタジオにこもり、CD製作に没頭した。
イベント会社の協力で、プロのエンジニアが手助けしてくれる。
スタジオは防音ブースのガラスが冬の光を反射し、ミキサー卓のLEDがカラフルに瞬く。
柔らかなスポットライトが凛の赤いチェックシャツと黒のジーンズを照らし、マイクが彼女の息遣いを捉える。
彩花の愛機、North Element3の音色がスピーカーから響き、吸音材が音を温かく包む。
彩花はオフホワイトのコットンブラウスとショート丈のデニムスカート、赤いメガネ、ポニーテールで、初めてのプロ環境に心臓がドキドキと鳴った。
こんな本格的なスタジオ…… 私、ちゃんとやれるかな……?
エンジニアが合図をし、収録が始まる。
彩花は頬を赤らめ、震える指で慎重に鍵盤を叩く。
透明なメロディがスタジオを満たし、冬の星空を思わせるサウンドが響く。
エンジニアがヘッドフォンを外し、隣のスタッフに囁いた。
「アマチュアでこんな安定感……初めてだな。」
もう一人が肩を叩き、「最初からここまでやられちゃ、俺たちやることないじゃん!」と笑い合う。
だが、彩花にはその声が遠く感じられた。
スタッフの笑顔……
私の音、ちゃんと届いてるのかな……?
凛がブースに入り、ショートカットが軽く揺れる。
彼女の歌声が「Sparkle Rush」で炸裂し、まるで、空間を支配するかのようにスタジオに響き渡る。
凛の声……こんなに力強いなんて……!
彩花の心が震え、凛の情熱が炎のように燃え上がるのを感じる。
エンジニアも驚きを隠せず、「配信の人気、納得だな!」と呟く。
スタッフの一人が頷き、「こいつは凄い! 鳥肌もんだ!」と手を叩いた。
スタジオに興奮の空気が広がり、凛は笑顔で彩花にウインク。
「彩花、ノリノリでいくよ!」
凛の炎のような眩しさ……
私の音、こんな光に追いつけるのかな……?
彩花の心に小さな影がちらつく。スタッフの熱狂が凛に集中している気がして。
「凛、このハモリ、私ももっと感情入れてみるね!」
彩花が提案すると、凛はマイクに顔を近づけ、「おっけー! 彩花のハイトーン、めっちゃ心に響くから、ガンガン乗っていくよ!」と笑った。
二人の声が重なり、スタジオが温かな光で満たされる。
凛は彩花との共鳴に胸が熱くなった。
・彩花の決意・
2月に入り、レコーディングを終えてスタジオを出た二人は、イルミネーションが輝く霧咲の夜を歩く。
彩花は凛にそっと言った。
「凛、CD作り、ほんと楽しかった。ストリートライブ、絶対成功させようね!」
凛は笑顔で頷く。
「当たり前だよ! 彩花と一緒なら、どこまでだって……行けるよ!」
凛の笑顔がまぶしくて、彩花は少し胸が軽くなった。
だが、BlossomEchoに夢中になりすぎたせいか、最近、怜との時間が減っている気がする。
怜にそっけなくして、愛想を尽かされたら……?
不安が胸をよぎり、彩花は慌ててメッセージを送った。
「怜、レコーディング終わったよ! CrystalVeilも、絶対新曲作ろうね!」
怜からの返信がすぐに届く。
「彩花! レコーディングお疲れ! ライブ、応援するよ! でもまた一緒に音楽やろうな!」
怜……いつも応援してくれて……大好き……。
彩花の心が温まる。
・街角の邂逅・
週末の午後、彩花はパン屋でのアルバイトを終え、霧咲の小さな雑貨店に立ち寄った。
オフホワイトのシャツが店の暖かな照明にきらめき、シルバーフレームのメガネ姿に、髪を下ろした姿で棚を眺める。
怜に会いたいな……。
あのスタジオの温もり……クリスマスイブの貸しスタジオでの親密な時間が頭をよぎり、頬が微かに熱くなった。
新曲のアイデアを書き留めるため、メモ用紙を探していると、桜柄の便箋が目に留まる。
淡いピンクの花びらが夕陽のように輝き、彩花の心を強く揺さぶった。
この柄……中学の図書室で、優奈とメモを交換したあの桜……!
懐かしさに胸が熱くなる。
優奈の笑顔は、今の私に勇気をくれる……。
便箋を手に、彩花は決意を新たにした。
凛に負けないように頑張らなきゃ……!
優奈と同じように、私も誰かを照らしたい……!
便箋を手にレジへ向かう。レジのカウンターで、店員の少女が桜柄の便箋を手に取り、一瞬、動きを止めた。
少女が顔を上げ、驚いた様子で語り掛ける。
「ねえ……彩花? 彩花だよね?」
視線を合わせると、そこには信じられない光景が広がる。
中学時代、同じ図書委員として淡い想いを寄せていた優奈が立っていた。
ショートカットだった黒髪はゆるくウェーブし、黒いエプロンにクリーム色のブラウスが照明に揺れる。
優奈の笑顔は、まるで図書室の夕陽がそのまま降りてきたように鮮やかで、彩花の心臓が一瞬止まった。
「優奈! うそ……ほんと、優奈なの!? こんなところで……信じられない……!」
彩花の声が震え、瞳が輝く。
中学二年の春、気さくに話しかけてくれた優奈。
図書室で本を整理しながら笑い合い、夕陽に染まる窓辺で優奈の声に心を奪われた記憶が、鮮烈に蘇った。
優奈……。
過去の憧れが再燃し、胸が激しくざわめく。
目の前にいる優奈が本物だと信じられず、思わず手を伸ばして彼女の袖に触れる。
「彩花! めっちゃ久しぶり! このメモ用紙……図書室で一緒に使ったよね?」
優奈がカウンターから身を乗り出し、笑顔で彩花の手を握った。
柔らかな温もりに、彩花の瞳が潤む。
「優奈……ほんと、優奈なの……? こんなところで……!」
中学の図書室、優奈の笑顔が鮮烈に蘇り、胸がそっと揺れる。
「優奈、びっくりしたよ……! 何してるの? 霧咲にいるなんて……」
彩花の声が詰まり、優奈の温もりに心が震えた。
優奈は笑顔で続ける。
「親の仕事で転勤が続いてたんだけど、最近ようやく霧咲に戻ってこれたの。彩花にまた会えるかもって、ずっとどこかで願ってた……。この桜柄を見た途端、図書室の夕陽が鮮やかによみがえってきたよ。」
優奈の瞳が輝き、彩花をまっすぐ見つめる。
優奈……私のこと、覚えててくれて……!
彩花の頬が熱くなり、心臓がドキドキと高鳴った。
「優奈……私も、図書室のあの時間、ずっと忘れてなかった…… こんなところで会えるなんて、運命みたい……!」
二人は連絡先を交換し、優奈はエプロンを整えながら微笑む。
「バイト中だから、今日はここまでだけど…… また絶対話そうね、彩花!」
彩花は便箋を胸に抱き、頷いた。
「うん、優奈! また会おう!」
雑貨店の暖かな光が、彩花のシャツを輝かせ、二人の再会を祝福する。
・憂いと運命の共鳴・
冬の午後、彩花は街角のカフェ「ルミエール」で優奈と落ち合う。
木の温もりに満ちた店内は、コーヒーの香りと柔らかなジャズで包まれ、窓際の席から雪がちらつく街並みが覗く。
彩花はベージュのセーターにネイビーのフレアスカート、シルバーのメガネ姿で座る。
怜との愛、凛との友情、優奈との記憶が交錯し、私……どんな自分でありたいんだろう……? と心が揺れる。
優奈が現れ、クリーム色のニットに白いスカート、柔らかな笑顔で手を振る。
「彩花、久しぶり! このカフェ、落ち着くよね!」
彼女の明るい声に、微かな憂いが滲む。
二人はホットココアを注文し、雪を眺めながら中学時代を語った。
「図書室、覚えてる? 彩花と初めて会った時、本整理しながら、好きな本を同時に言ったら同じだったって…… めっちゃ楽しかったよね!」
優奈の言葉に、彩花の心が夕陽に染まる図書室へと引き戻される。
中学二年の春、図書室の窓辺に差し込むオレンジ色の光。
桜の花びらが校庭を舞い、静かな本棚の間で優奈が微笑む。
「彩花、詩、書いてみる?」
優奈が桜柄の便箋を差し出し、彩花の震える指がペンを握る。
二人は窓辺に並び、夕陽に照らされた便箋に言葉を綴った。
――夕陽に輝く桜、心を照らす光――
優奈の柔らかな声が詩を読み上げ、彩花の心に光が灯る。
優奈……この詩、私の影を照らしてくれた……。
図書室の静寂に、桜の香りが漂い、二人の笑顔が夕陽に溶ける。
「うん、優奈が明るく話しかけてくれて…… 私、救われた。あの時間、大好きだった……」
彩花の声は柔らかく、過去の憧れが疼く。優奈の笑顔が一瞬曇る。
「彩花……実は、中学の時、転校してから…… ちょっと大変だったんだ。」
彼女の声が小さくなり、指がマグカップを握り震える。
「優奈……何があったの……?」
彩花は息を呑んだ。
優奈は深呼吸し、語る。
「転校先で、仲間外れにされることが多くて。最初は明るく振る舞ってたけど、だんだん自信なくなっちゃって…… 中学の頃の自分、どこかに行っちゃったみたいで。」
優奈……そんな辛いこと……。
彩花の胸が締め付けられ、自分に自信が持てない気持ちを重ねる。
「優奈…… そんな辛いこと、あったんだ……。私も最近、自分がどんな人間か、わからなくて…… 自信なくなるとき、あるよ。優奈の気持ち、めっちゃわかる……」
彩花の声が震え、優奈を見つめる。
優奈は驚き、微笑んだ。
「彩花、そんなこと思うんだ? 今の彩花、キラキラして見えるのに…… でも、そう言ってくれると、安心する。」
彼女の瞳が潤み、彩花の手を握る。優奈は明るく続ける。
「転校先で悩んだからさ…… 人の心のこと、もっと知りたいって思って……心理学を学びたくて、専門学校に通うための勉強と貯金してるんだ。いつか、誰かの心を支えられる人になりたいなって……」
優奈の瞳に希望が宿る。。
「優奈、すごいよ! 人の心を支えるなんて、素敵な夢だね! 優奈なら、絶対できるよ!」
彩花の声が弾む。彩花はふと口を開く。
「ねえ、優奈……私、今、音楽やってるんだ。『BlossomEcho』っていうユニットで、凛って親友と一緒に配信とかライブしたりしてる。それとね……『CrystalVeil』っていうのもあって、怜……私の彼氏とやってるんだけど……」
彩花は、かつて思いを寄せていた優奈に、自然に恋人の話題を出した自分に驚いた。
これで、優奈への想いは過去のもの…… 今は、怜を愛してるって、確信できた……。
優奈の目が輝く。
「え、待って! 『CrystalVeil』!? それ、私、知ってる! TubeStreamで見たよ! 『Autumn Whisper』、めっちゃ綺麗な曲だった! コメント欄に、私、書いたんだ……『ユウナ』って名前で!」
彩花の心臓が跳ねる。
優奈……あのコメント、ほんとに優奈だったんだ……!
「え、ほんと!? 優奈、コメントしてくれてたの!?『中学の図書室で、夕陽の中で笑った誰かを思い出す』って…… あれ、優奈だったんだ……!」
彩花の瞳が輝き、運命的な縁に胸が高鳴った。
「うん! 曲を聴いていると懐かしい気持ちになって…… 中学の時の彩花を思い出したんだ。まさか、彩花が『Crystal Veil』だったなんて……! 運命、めっちゃ感じるよね!」
優奈が笑い、二人は目を合わせて笑った。
・心の調和・
優奈との会話を通じて、彩花の心は少しずつ整理されていく。
優奈との再会、桜柄のメモ用紙が呼び起こしたあの夕陽…… それは、共感と支え合いの気持ち…… 優奈の憂いと夢に触れ、彩花は彼女を応援したいという純粋な気持ちに気づく。
凛への想いは、音楽で繋がる友情……。あの気まずさも、音楽で乗り越えた……凛との絆は、恋愛を超えた深い信頼だと確信する。
そして、怜への想い…… これは、唯一の愛…… 怜の温もりと優しさが、彩花の心の中心にあることを再確認した。
私、女の人にも、男の人にもドキドキする……。
でも、それでいいんだ。
私、こんな自分、嫌いじゃない……。
彩花の深い悩みが、ようやく溶けたように軽くなった。
彩花は優奈の手を握り返し、「優奈、今日、会えてほんとよかった。『Crystal Veil』のコメント、優奈だったなんて…… 運命みたいだね。優奈の夢、応援してるから…… また、話そうね!」
優奈も頷き、「うん、彩花! 私も、彩花の音楽、応援するよ! ストリートライブ、必ず見に行くね!」と笑顔を返した。
・衝撃の光景・
カフェを後にし、晴れやかな気持ちで駅前通りを歩く彩花。
優奈の夢を応援したい…… 怜と凛とも、もっと音楽を…… 雪が舞うイルミネーションの通り。
クリスマスの残り香が漂う中、彩花の足が、ふと止まった。
凛の弾ける笑い声が、凍える風に鋭く響いた。
視線を上げた瞬間―― 世界が、音を失った。
雪がゆっくりと舞い落ちる中、イルミネーションの淡い光に照らされて、凛と怜が肩を寄せ合って歩いている。
凛の赤いコートが雪に映え、怜の紺色のコートが彼女に寄り添うように重なる。
凛が怜の腕を自然につかみ、スケッチブックを一緒に覗き込み、笑いながら彼の肩を軽く叩く。
怜が優しく笑い返し、二人の距離は―― まるで恋人同士のように、親密で近い。
彩花の心臓が、一瞬、止まる。
凛……怜……?
視界が雪で白く滲み、足元がふらつく。
怜は私の恋人なのに……
凛は私の親友なのに……
優奈が転校で突然消えたあの日の寂しさが、今、冷たい刃となって胸を刺す。
私…… 怜に愛想尽かされたのかも……
BlossomEchoに夢中で、怜を遠ざけたのは私だ……
凛の輝きに迷う自分なんて、置いてかれて当然……。
後悔と絶望が、雪のように積もり、心を白く覆い尽くす。
メガネを震える手で外し、冷たい風に目を細めた。
冬の星空の下、彩花は立ち尽くし、心の不協和音が響く。
・次回予告:第19話 雪の日の手紙(10月14日【火】20:00公開)
怜と凛の親密な様子に彩花の感情が爆発! ストリートライブ本番が迫る中、彩花は郵便受けに一通の手紙を見つける。スタジオへと走る彼女の胸に去来するものは何か? 次回、「雪の日の手紙」、青春のメロディが新たなドラマを切り開く!
・読者の皆さまへ
優奈との運命的な再会、BlossomEchoの大舞台への挑戦、凛と怜の親密な姿による彩花の揺れる心、どの瞬間があなたの心を震わせましたか?
ストリートライブの行方、どんな展開を期待しますか? ぜひその想いを聞かせてください。
どんな小さな言葉でも、すごく嬉しいです。物語もいよいよ終盤へ…… 次回も、一緒に見守ってください。




