表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

彩光の詩 第1話【母の影と新たな光】

 音楽に導かれた17歳の少女――かなでは、葛藤を抱えながら、かつて音楽に生きた若者たちの恋と友情の調べに耳を澄ます。

 情熱の歌声、繊細なギター、そして、天才キーボーディストと呼ばれた一人の少女。

 愛と友情が織りなす青春のドラマが、今、ここに幕を開ける!

・プロローグ:霧咲の秋、響かない音


 10月を迎えた霧咲の街は、柔らかな陽光が桜並木の紅葉を揺らし、遠くの山々が茜色に染まる。17歳の少女、かなでは、ショートカットの髪を軽くウェーブさせ、慣れないコンタクトレンズに目を細めながら、スケッチブックを抱えて廃校となった霧咲高校へ向かう。大きな瞳には、母・彩花あやかの情熱と父・れいの優しさが宿るが、その奥には葛藤が揺らめく。


 母・彩花は天才キーボーディストとして名を馳せ、数々のメジャーアーティストと共演。不定期に開催されるソロライブには熱心なファンが詰めかける。「彩花の魔法」と称されるその演奏は、聴く者の心を掴んで離さない。ライブ後、笑顔でファンにサインする彩花の姿は、奏にとって誇りであると同時に、遠い存在だった。母さんの輝き…私には眩しすぎる…ライブ会場で、ファンの歓声とスポットライトに照らされる母の姿を見るたび、奏の心は締め付けられる。私の音、誰も聴いてくれない…


 高校の廊下を歩けば、すれ違う生徒の囁きが耳に刺さる。「奏ちゃん、さすが彩花さんの娘!」「昨夜の彩花さんのライブ、最高だった!」その言葉は、奏の心に冷たい鎖を巻きつける。軽音部でキーボードを弾く彼女のSNSには、「彩花の劣化コピー」とのコメントが突き刺さる。指が鍵盤を叩くたび、母の輝く影が心を覆う。母さんの音に誰もが酔いしれる…私の音は、ただの残響… 嫉妬と無力感が、胸の奥で軋む。


 ある夜、夕食の席で、奏の感情が爆発した。「私、音楽、辞める!」赤いフレームのメガネを外し、テーブルに叩きつける。「いつも母さんの影! 私の音、誰も認めてくれない! 母さんみたいになれない私に、音楽なんて…何の意味があるの…?」涙が溢れ、奏は部屋に駆け込む。ベッドに倒れ込み、枕を濡らす。彩花の魔法…私には呪いでしかない… 心の叫びは、誰にも届かず静寂に溶ける。


 彩花は娘の叫びに胸をえぐられ、目を潤ませる。高校時代の自分を思い出す――内気で、ステージに立つのが怖かった日々。親友のりん、恋人のれい、旧友の優奈ゆうなに支えられたあの頃。私も、怖かった…でも、音を信じたから…


  彩花の心に、5歳の奏が浮かぶ。リビングで小さな手をキーボードに伸ばし、目を輝かせて言った。「ママ、お姫様みたい! 奏も、ママみたいな音、作りたい!」あの無垢な笑顔が、彩花の心を温める。奏…あなたの音は、きっと誰かの心に届く…


 夫の怜が彩花の手を握り、静かに囁く。「奏は強い。お前が自分を信じたように、奏も自分の音を見つけるよ。」彩花は震える声で呟く。「奏…あなたの心、いつか響く…」


・新たな一歩:あおいとの出会い


 翌日、奏はメガネをコンタクトレンズに変え、髪を軽くウェーブさせて学校へ向かう。もう、彩花の娘とは呼ばせない… 軽音部を辞め、美術部に入部した。キャンバスに向かう時間は、音楽の重圧から解放してくれる。ここなら、私、ただの奏でいられる… 絵筆が動くたび、心が軽くなる。母の影に縛られず、私だけの色を描ける… 初めて感じる自由に、胸が震える。


 美術部で、奏は同級生のあおいと出会う。青い髪留めとスケッチブックがトレードマークの葵は、太陽のように明るい。「奏、絵、めっちゃ繊細! こんな心揺さぶる絵、初めて!」葵の純粋な言葉に、奏の心に光が差し込む。葵…私のこと、ちゃんと見てくれる… 誰かと比べない、ただの奏として。閉ざしていた心の扉が、かすかに開く音がする。私は…私でいいんだ…


 放課後の教室で、奏と葵は絵を描き、漫画や夢を語り合う。「奏の絵、なんか…音が聞こえるみたい!」葵の笑顔に、奏は初めて心から笑う。葵と一緒なら、ありのままで笑える… 親友の絆が静かに芽生え、母の影やSNSの言葉が遠ざかる。奏の心に、初めて自分の居場所ができた気がした。


・試練の第一歩:霧咲高校へ


 ある日、美術部の写生旅行で、廃校となった霧咲高校を訪れることになった。葵が「廃校ってロマンチック! どんな絵描こう?」と興奮する中、奏は胸に重さを感じる。霧咲高校…母さんの青春、父さんとの出会いの場所… 彩花の伝説が生まれた場所だ。行きたくない… 母の輝く過去に、奏の不安が疼く。


 だが、葵の笑顔に押され、奏は校舎へ足を踏み入れる。秋の風が髪を揺らし、夕陽が古い窓ガラスを茜色に染める。廃校の静寂の中、奏の心に小さな音が響く。母さんはここでどんな音を奏でたんだろう… 母の過去と向き合う恐怖が、かすかな好奇心に変わる。


「彩花の魔法」が育まれた場所で、奏の新たな旋律が芽生えようとしていた。


・次回予告:第2話【音楽室の邂逅】(8月15日【金】20:00公開予定)


 霧咲高校の廃校、両親の青春が響く場所。奏が足を踏み入れた音楽室で、夕陽に輝く鍵盤が彼女を呼ぶ。そこで見たものはなにか? 奏の葛藤が音に変わる瞬間、どんな旋律が生まれるのか? 涙と希望の共鳴が、奏の未来を切り開く!

・コメントのお願い


 奏の葛藤、葵との出会い、霧咲高校の静寂、どの瞬間があなたの心に響きましたか? 奏の新たな旋律、どんな展開を期待しますか? ぜひコメントで教えてください!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ