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第8話 ターニングポイント

 ユフィアの聖水はとても美味しい。

 不純物がないのはもちろんだが、最近は香ばしさというか、何とも言えない芳醇さがあるのだ。


 ただ気になるのは、俺の目の前で水を入れてくれなくなった。


 少し寂しいが、ようやく気付いたのかもしれない。ちょっとだけ水の出し方(マーライオン)が異質だと。

 わかってくれればそれでいい。たとえ口の周りから魔法陣が出現し、不純物がなく清潔だとしても見栄えというものがある。


 しかし今度はカーテンの裏とか、洗面所とか、なんかよくわからないがスカートをまくるような音が聞こえる。

 前に声をかけたら、なぜかガニマタでしゃがみこんでいた。

 体調不良かと思ったが、そうではなかった。


 飲み水のコップが、股の間に置かれていたのだ。

 よくわからないが、新しい水補充の仕方を考えたのだろう。


「今日も美味しいよユフィア」

「良かったです。試行錯誤したかいがありました!」

「ええと、どうやって入れたんだ――」

「またいつでも言ってくださいね!」


 尋ねようとしたら、満面の笑みで返ってきた。

 ま、それならいいか。


 愛情があれば、何でもオールオッケーだ。




「あれが水のユフィアと砂のサンドか。強いらしいな」

「まだガキじゃねえか」

「駆け出しは何かとちやほやされるからな」


 街を歩いていると、通りすがり、見知らぬ冒険者が俺たちのことを話していた。


 シルバーになったおかげと、ガルダンたちを一撃で吹き飛ばしたことで、知名度が少し上がっているのだ。


 といっても、まだ舐められているらしい。

 それは別に構わない。有名になればなるほど面倒事もあるだろうからな。


 それよりも俺たちは、今日やるべきことがある。


 それは、魔法をもう一段階上にあげることだ。


 【フリファン】では、仲間が増えると面白いことができる。


 魔法の連携だ。


 砂と水は相性がとびきりいい。

 今でこそ生活でお互いに補えているが、戦闘でもそれが出来れば、更に強くなれるはず。


「ユフィア、今日は前から話してた通り、連携の練習をしよう」

「わかりました! 具体的には、どんなことをするんですか?」

「まずは水弾と砂嵐を合わせてみるか。広範囲に待ち散らすことができるし、ダメージも上がるはずだ」

「それは凄そうですね……。基本の魔法制御はどちらが行うんですか?」

「それは俺がするよ。ユフィアは雨のように降らしてくれたらいい」

「わかりました! にしても、サンドさんは本当に凄いですね。制御ってめちゃくちゃ大変ですし」

「褒めても砂しか出ないぞ」

「砂、大好きです!」


 よくわからないが、俺のおかげで砂が大好きになったらしい。

 その割には外で地面に座ると、スカートをパンパンして「あーあ、砂で汚れちゃった」と嫌そうな顔をしているのは複雑だが。


 でもいい。砂はいい。砂はいいのだ。よくわからんが。


「そういえば、今日の服、いつもより可愛いなユフィア」

「え、き、気づいてくれたんですか!?」


 そりゃ気づくだろう。

 砂の家から出るなり、俺の目の前で何度も振り返って、スカートをひらりひらりしているのだ。

 純白の透け感があっておしゃれだが、一応冒険者専用の防具らしい。異世界、最高。


「可愛いのもありますけど、こっちのほうが水の補充がしやすいですから!」

「え、なんで?」

「あ、あの鳥さん可愛いです!」

「聞こえてる?」


 集合場所(・・・・)に到着すると、既に冒険者が何十人もいた。

 今日はギルドから依頼された、美味しい(・・・・)任務がある。


 魔法の練習は夕方に森で行う予定で、その前にお小遣い稼ぎ。


「凄い。人がいっぱいですね」

「ただの護衛で銀貨50枚なら誰だって志願するさ。すぐに定員割れしたらしいしな」


 冒険者の中に混じって兵士が数人。


 北門から出て数時間で港につくのだが、それまでに魔物がよく現れる。

 俺たちは要人を警護をするのだ。


 馬車はかなり豪勢だった。たった一人を守る為らしいが、中はゆうに五人は入れるだろう。

 なぜこんな俺たちみたいな駆け出し冒険者が参加できるのか。

 噂によると、経費削減らしい。


 聞けば実に悲しい話だった。

 俺たちが護衛する人は、何と王家の人らしいが、家系で権力がまったくないらしい。

 その割にはなぜか外交を任されているらしく、いつも直属の少ない兵士で移動しているとか。


 ロック家の記憶を思い出すと、貴族社会は好きじゃない。


 とはいえ仕事だ。

 周りは大勢いることで楽勝ムードが漂っているが、俺は反対に気合を入れていた。


 【フリファン】はイベントが多い。何かあっても不思議じゃないからな。


「ユフィア、油断するなよ――」


 それを伝えようと思ったが、彼女は既に目を瞑りながら魔力を整えていた。

 はっ、優秀すぎて可愛げがないな。


 そのとき、おおおっと声が上がった。

 ようやく依頼人が来たらしい。


「何だよ、まだ子供じゃねえか」

「っても綺麗なもんだな」

「金さえ入ればなんでもいいや」


 冒険者の雑談が兵士の耳に入るとどうなることやら。

 まったく、こいつらは節操ってもんがないな。

 

 ユフィアはまだ精神統一していた。凄い集中力だ。

 俺は、人混みからひょいと覗き込んだ。


 次の瞬間、なぜ外交を任せられているのかがわかった。

 綺麗すぎるのだ。まるで、絶対の美少女を見ているかのよう。


 年齢は俺たちと同じぐらいだろうか。


 赤髪で、目鼻立ちが整っている。


 ……いや、もしかして、嘘だろ!?


 俺はすぐにユフィアの元に戻った。


「聞いてくれ。とんでもないことがおきた」

「え? ど、どうしたのですか?」

「……もしかしたら、命がけの戦いになるかもしれない」

「ど、どういうことです!?」


 【フリファン】には多くのイベントがある。


 今馬車に残りこんだ彼女の名前は、おそらくエルリ・ヴィアーレ。


 彼女は旅の途中、非業の死を遂げる。


 いや、遂げた、と原作では書かれていた。

 

 それは後のイベントで語られるエピソード。

 いわゆるモブキャラではあるが、その美しさのあまりコミュニティサイトで人気だった。


 また、ほかの妃が軒並み性格が悪く、最低なことばかりすることも関係しているだろう。

 彼女が生きていさえいれば、と懇願する街民の声が多かったとも書かれていた。


 ……死んでしまう詳しい日付はわからないが、偶然にしては出来すぎている。


 冒険者の中には手練れも混じっていた。


 護衛を続けるか、兵士に助言をするか。


 ……いや、下手に俺みたいな新人が伝えても取り合ってもらえないだろう。

 下手すると俺が疑われて投獄される可能性もある。


 そうなると、護衛任務すらできなくなる。


「私は、サンドさんの選択にお任せしますよ」


 そのとき、ユフィアがそう言ってくれた。

 原作なら彼女はまだガルダンと同じパーティにいて辛い目にあっていたはずだ。


 けれども今は毎日が楽しいと言ってくれている。


 なら、選択肢は一つだ。


 敵が魔物でも人でも、俺が砂で守ってやる。


「ならこのまま護衛を続ける。ユフィア、俺から離れるなよ」

「はい。わかりました!」


 それにここでもし恩を売れば俺の株もあがる。

 それも、将来の為だな。


 投資だと思えばいい。


「出発だ。行くぞ!」


 兵士の掛け声と共に、大群が動き始める。

 できるだけ馬車から離れずいくか。


 するとユフィアがいなかった。

 いや、なぜか壁の向こう側から走ってきている。


「何してたんだ?」

「長くなりそうなので、水の補給を!」


 さすがユフィア、出来る女だ。


 でもなんか、スカートめくれてないか?


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