第3話 冒険者ギルド
「街だ、人だ、異種族だ、【フリファン】だ、すげえ……」
砂滑り台で山を下りてきた俺は、さっそく街中を歩いていた。
ここへ来るまでに、何度か砂女子と手合わせ訓練をしていたこともあり、貴族服がボロボロだったらしく、山賊に襲われたのかと心配されたが。
身分証は家の紋章を遣わせてもらったが、冒険者になればもう必要ない。
一応、金とか銀とか使っていたネックレスで、それなりに高価だと思うが、二度と見たくないな。
ん、あの子供たちは……そうか。
「え、これもらっていい……の?」
「換金すればそれなりの金になるはずだ。ぼったくられないようにしろよ」
「ありがとう、ボロボロのお兄ちゃん!」
ということで、一凛の花を買ってくださいと叫んでいた子供たちにあげることにした。
おそらくぼったくられるだろうが、それもまた勉強だろう。
しかしボロボロのお兄ちゃんとはちょっとひどい。危うく砂をかけそうになった。
しかし本当に清々しい気持ちだ。
俺は、【フリファン】の中にいるんだな。
今まで屋敷から出ることは許されなかった。
それもあって少しだけ半信半疑だったが段々と実感が湧いてきている。
俺なら、この世界で一番自由を謳歌できると。
「さて、まずは冒険者ギルドに行くか」
【フリファン】は、創作物の異世界を元に作られている。
能力さえあれば様々な職業に就くこともできるが、その中での定番はもちろん冒険者。
死んでも代わりが効くのと、万年人手不足なので、いつでも募集中なのだ。
馴染のある外観、ギルドの扉を開くと強そうな奴らが大勢いた。
中はかなり広く、ほとんどがパーティのようだ。
まあ、冒険者は危険な仕事だからな。
背中を守ってくれる相手は、誰だって嬉しいのだろう。
だけど俺には砂女子ちゃんがいる。
一人でも、問題はない。
いやむしろ俺は生粋のソロプレイヤー――。
「ねえ、ダンジョンでボロボロになったから替えの下着買いにいきたいー」
「なんだまたかよ? ああそうか、この前コカトリスに嘴でつっつかれて、たゆんたゆんをおっぴろげてたもんな!」
「確かにあれはエロかったな。意外とデカかったしって、痛!? 殴んなよ!」
◇
「初めまして、サンドさんですね。冒険者申請ありがとうございます。 え? さっそくパーティ募集ですか? 探してみますね」
「はい! よろしくお願いします! 仲間欲しいです!」
これからの時代はパーティだ。
ソロなんて流行らない。そうだろ?
なんだったらハーレムでもいい。いや、むしろハーレムがいい。
危険な場所へ行こう。深い意味はないが、コカトリスがいっぱいいるところがいいな。
決して寂しいわけでも、何かを求めているわけじゃない。
俺の【砂】は神託級だ。
大いなる力には大いなる責任が伴う、そうだろう?
仲間に砂を還元していく。それが大事なんだ。
「……残念ですが、今のところ募集はないみたいですね」
「そうですか。大丈夫です。何となく聞いただけで、別にめちゃくちゃ求めてるわけじゃないんで」
「あ、でも女の子四人のパーティが募集してるみたいです。大丈夫ですか?」
「行きます。今すぐ戦えます。サンド、行きます」
「あ……すいません。こちら女性だけの募集でした……」
「大丈夫です。スカートを履くのも抵抗がないんで」
「どういう意味ですか?」
受付のお姉さんが困っていたので、今の言葉は砂で流すことにした。
ごめんなさい。自由の意味をはき違えていました。
申請が無事に終わり、冒険者のタグを頂いた。
まずは見習い、アイアンの盾紋章が描かれている。
これが【フリファン】ではスタートになるのだ。
見習いのアイアン。
駆け出しのシルバー。
冒険者のゴールド。
達人のプラチナ。
ほとんどがゴールドで生涯を終えて、一部の才能がある人はプラチナに到達する。
だが実は、神の領域と呼ばれるダイヤモンドが存在するのだ。
このランクは、冒険者の0.00001%にしかなれないと言われている。
魔王を倒した勇者レベルだと考えれば分かりやすいだろう。
まあ、【フリファン】のゲーム内で、俺が名乗っていた称号でもあるがな。
かっこいいだろう? 砂、あげようか?
「あ、あの、サンドさん、私の説明聞いてますか……?」
「あ、ごめんなさい。大丈夫です。ちゃんと覚えてたみたいなので」
「覚えてた……?」
どうにも礼儀を欠かしている気がする。
流石にこれではよくないと思い、考え事をしていましたと頭を下げると、お姉さんがふふふと笑った。
「大丈夫ですよ。まずは頑張ってくださいね。ひとまず、アイアンのご依頼をいくつかご紹介しましょうか?」
「ええと、ダイヤモンドの依頼ってあります?」
あ……眉をひそめられた。
「ったく、元男爵家の令嬢だから使えるかと思ったら、全然使えねーじゃねえーかよ!」
「そうね。私よりも大したことないし」
「僕のほうが強いですよ。ほんと、役立たずです」
そのとき、後から声が聞こえた。
振り返ると、氷のように綺麗な青髪の女性が、仲間と思わしき奴らに詰め寄られている。
冒険者ギルド内で揉め事はめずらしくもないが、どこかで見た事があるような気がする。
「……私は魔法使いだから前衛じゃなくて――」
「うるせえ! 見習いが口答えすんじゃねえ! まずは俺様を守ることが大事だろうが!」
その怒鳴り声に、俺の心が揺れた。
生前での会社時代、もう古い記憶に感じるが、上司に理不尽に詰められている後輩を思い出す。
あの時は立場もあって言えなかった。
けど、今は違う。
今なら、止めることができる。
だが、目立つことは避けようと考えていた。
まずはお金を稼いで、ゆっくりと世界に馴染んでいく。
でも……誰かを助けるのも、俺の【自由】だよな?
幸い冒険者ギルドの地面には、それなりの【砂】が落ちている。
全部かき集めれば砂魔法ができるだろう。
ちなみに俺は、現実世界とゲームでは性格が違うタイプだった。
某漫画っぽくいうと、軽い興奮状態となり、ちょっと凶暴性が増す。
お前らみたいな奴は――容赦しねえぞ。