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気候は相変わらずとんでもない。
けれど、段々と見覚えのある景色になる。
「あれっ、オレの家がある住宅街だ、ここ!」
本来学校から家に行くには電車を利用しないとかなり遠い距離なのだが、色々と過程をすっ飛ばしてすぐにここまで来れてしまった。
これも夢だからなのかな?時間と一緒で地理もめちゃくちゃなのかも。
普段と違う所と言えば、人通りが全く無く異様なほど静かという点だろうか。
風と雨の強い音と、オレと毒舌くんが喋る声。それ以外何も無い。
どの家も電気はついていない。
...なんか怖い。毒舌くんと一緒で良かった。1人じゃなくて良かった。
散歩している人や遊んでいる子供くらい見かけてもいい気はするけど...誰もいないのかな。
「君の家はどこ?」
「案内するね。そこ曲がったとこの青い屋根の家。」
角を曲がり少し顔を上げる。
家に着いた。
形も色も確かにオレの家で、表札にもしっかりと「鏑木」と彫られていた。
「いやぁ、こんな状況じゃなきゃお茶ぐらい出せたんだけどな〜。毒舌くん普段ゲームとかする?うち桃鉄とかスマブラならあるよ」
「なんで個人的に君の家に遊びに行かないといけない訳?ここに来るのは今日限りだよ。」
「え?オレの家がイヤなら毒舌くんの家でもいいけど」
「それはもっと嫌。うちに君より厄介なのがいるからもっと厄介になる。」
さりげなくオレ厄介認定されてるのウケる。
扉に手をかけ、いつもの要領で引いて開こうとする。
が、鍵がかかっているようで扉はびくともしない。
「夢だからって開いてる訳じゃないんだね。でもオレ、今鍵持ってないけど…」
「大丈夫。少し下がって。」
言われるがままオレは少し後ろへ下がる。
毒舌くんはオレが下がったのを確認してから刀を取り出した。
本当に一瞬だった。
きゅ、と柄を握りかまえをとると勢いよく扉に振り被る。
何をしているんだ?と認識する間もなく、次に扉へと目をやった時には扉は真っ二つに割れ、ガラガラガラ!とその場に崩れ落ちた。
煙が辺りを舞う。
「え、えええええ!?!?そんな簡単にいくもんなの?!!!?」
「入るよ。」
毒舌くんは崩れた扉の破片を掻き分け、家へと入る。
困惑しつつも彼の背を追いかける。
「お邪魔します」
そうして一礼。
毒舌くんは扉は壊したくせにそこだけは律儀だった。
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びしゃびしゃになってしまったシャツを少し絞る、そしてそのまま玄関を土足で上がる。
普段なら母さんに怒られちゃうけど、夢だから別にいいよね。
中も確かにオレの家だけれど、普段と違った重々しい異様な空気を感じる。
バットを強く握りしめる。
電気は何故かつかないようで暗いままの廊下を進んでいく。
「暗いね...誰もいないのかな。」
「いや、何か物音がする。」
毒舌くんの言葉で少し警戒心を強めつつ、おそるおそるリビングの扉を開いた。
開くとすぐ。リビングからどろどろぐちゃっとしたどす黒い液体が廊下へと流れ出て、足元を埋める。
「うわっ」
すぐに足を上げるが液体は足裏に張り付き糸を引く。
何故こんなものが?どこから?
すぐに目線を前へ向ける。
液体のその先を辿る。
......思わず息を飲む。
その先には、明らかに現実ではありえないおかしな生物が巣食っていた。
『う゛、ぁあ゛、が、ぇ......』
黒とも灰とも虹色とも形容し難い濁った色に、ドロドロに溶けた皮膚。
足も手も何もかもひとつに溶けてくっついてしまったみたいな。
明らかに人間の形はしていなかった。例えるならそう、泥?
蜘蛛の巣を張る様に体の端々を壁に這わせ、大きく収縮する。
そして明らかにサイズがおかしい。
横幅も縦幅もおかしい、サイズがでかいなうわこっち見た気持ちわる!!!!!!!
「うわ゛ああああああああああでたな化け物っ!!!!怖っ!!!!!」
届かない距離で意味も無くバットを振り被る。
情けなく叫ぶオレの横で毒舌くんは冷静に諭す。
「うるさい。化け物より君の声の方が怖いから。」
怯えるオレには目もくれず化け物に向かってゆっくり歩き出す。
彼はゆっくりと刀を抜き、構えを取る。
そうだ、ビビってんじゃない。オレより年下の子が命張って頑張ってるんだ。ちょっとはやれるとこ見せてやんなきゃ。
バットを握り直す。
こちらの敵意に気づいたのか、化け物はゆっくりとぬちゃ...とそれはそれは大きな口を開いた。
大きく鋭い牙があらわになる。
そうしてうわ言のように何かを紡ぐ。
『...う......い......よ゛...』
「...は、なんて?聞こえな......」
何か言っている。
そんな場合では無いと分かっているが、耳を傾けてしまった。
もう一度言ってやろうか、と化け物は『はひひひひひひひひぃ!!!!』と大きな音を立てて笑う。口角を引き上げ笑みを浮かべる。
そうしてまた言葉を発した。
『キョウは絶対、かっこいいサッカー選手になれるよ!!』
「..................なんで母さんの声」
化け物の口から聞こえた声。
紛れもなくそれは母さんの声だった。
暖かくて、大好きだった母の手のひらを思い出す。
そしてその幻想は優しく頬に手を添える。そのまま流れるように髪を少し撫でる。
暖かく。そのままに。
視線を少し落とす。真っ直ぐ前が見れない。
うちは片親で、ただでさえ子供1人育てんのだって金かかって大変だろうに、母さんはオレがサッカーを始めたいと言った時嫌な顔一つもしなかった。
毎月のようにある練習試合にも忙しいのに毎回時間作って、毎回応援に来てくれて
オレが負けて悔しがれば一緒に泣きながら悲しんで
オレが勝てて喜べば、自分ごとのように一緒に飛び跳ねて
でも、勝っても負けてもオレの頭を撫でて、母さんはこう言ってくれた。
「『キョウは絶対、かっこいいサッカー選手になれるよ!!』」
化け物の声と記憶が重なる。
「何故?」オレの問いに化け物は答えない。
そのまま畳み掛けるようにぐちゃぐちゃ訳の分からない言葉を並べ出す。
「『鏑木くんって本当にサッカーが好きなんだね!』『 キョウっ!次の休み時間もちろんサッカーするよなっ、な?』『あはっ、やっぱお前もサッカー部?』『綉花帝高校って知ってるかな?君なら絶対そこで才能を輝かせられると思うんだ。どうだい?興味ないかい?』『うおおおおおおやったなキョウ!!!!お前があそこで決めたのでかかったよな!!』『次の試合も頑張ろうな』『お前毎回ボールピッカピカに磨いてるよね』『関東大会進出!!!!!!』」
女の子、男の子、男性、女性、色々な声が、音が、言葉が化け物の口から流れ出る。
まるで録音を聞かされているみたいに。
でも全部、確かに聞いた事がある声だ。
......いや、全部聞いた事がある「言葉」だ。
この言葉は全部記憶にある
たしかに全部がオレに向けられたことがある言葉だった
冷や汗を流すばかりで体は動かない。
今となってはどれも答えられない言葉で、胸の奥が急に冷たくなる。
吸う空気も、感触も、匂いも全てが冷たくて体の芯から寒気がする。
『キョ』
次の言葉。
そう思った瞬間、大きな音をたてて化け物は真っ二つに割れる。
化け物は悲鳴すらあげず割れた先からドロドロと溶けだす。さっきの笠原の時と同じ液体。
化け物から次の言葉は発せられなかった。
視線の先には刀を持った毒舌くんがいて、呆然と見つめる。
あ、すごく焦った顔をしてる。
「ほら、早く行くよ!!時間が無い、急いで!!」
ハッと我に返った。
そう叫ぶなり毒舌くんは勢いよくオレの手を握り、そのまま走り出した。
転ばないように体制を整え直す。
角を曲がり、階段を二段、三段飛ばしでダダダ、と駆け上がる。
2階。
「っオレの部屋、こっち!!」
指さした先の扉を勢いよく開けた。
少しよろけるがすぐに立て直す。
扉の先もやはり見覚えのある自室が広がっている。
勢いよく滑り込み、辺りをキョロキョロと見渡す。
「"大切なもの"って、あるとしたらここだよね!?!?えっと、サッカー関連のもの...!?」
なんだ、なんだ!?ボール?!メダル!?表彰状?!?手当り次第に全部壊す!?!?
慌てながら周辺の物をこれか?これか?と手に取る。
が、確信の持てる物が無い。
ふと、何かが目に入る。
「........!写真!!!!」
小さい時、子供サッカーのチーム大会で優勝した時の写真!!!
それはそれは幸せそうな笑顔でオレとチームメイトが肩を組んでいる。
絶対これだろ!!!!!!
一つ息を飲んで、そのまま素早く写真立てへと手を伸ばした。
このままこのバットで叩き割ってしまおう。すぐに。
これで夢から覚める。
覚めて、オレも、毒舌くんも現実へと帰るのだ。
そう思った。
『う、あ゛、ぁ、、あ゛あ゛……イダィィ...イダ..................ィ............』
瞬間、伸ばした腕を黒い何かが巻き取る。
腕は拘束され途端に動かせなくなる。
「っ!」
嫌な予感がした。
後ろを振り返ると毒舌くんは黒い何かに足が巻き取られその場から動けなくなっていた。
上を見上げ、オレはそれを睨みつけた。
そこにはさっきの化け物が大きな口を横に長く伸ばし、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
『アハ、アハアハアハアハアハタHAHAHAああはははハ!!!!!!!!!!!!!!』
大きな笑い声のような歓声が耳元で響く。
痛い、鼓膜が破れそうだ。
こいつ、さっき毒舌くんが切ってくれたはずなのになんでここにいるんだ?!
でも写真立ては寸で手の届くところにあるんだ!あと一歩。
黒い何かに引っ張られながらも無理矢理手を伸ばした。
「っ、おい!!離せ化け物!!!」
精一杯体を動かし振りほどこうと反抗するが力に余りにも差がありビクともしない。
それどころかさっきより拘束は強くなる。腕が軋む音がする。
このまんまじゃ毒舌くんもオレも共倒れじゃないか
毒舌くんだけでも家には返さないといけない。
何か術は無いのか?どうすればいい?
必死に思考を巡らせる。が、遮るように耳元で化け物が囁く。
さっきとは打って変わって、甘い甘い優しい声で。
『つらいねぇ、つらいねぇ。』
『幼い頃からのずっと願っていた夢がこぉんなに中途半端に破れて、つらいねぇ。現実を生きたくなんて、ないよねぇ。』
『夢でなら君の足も健在だよぉ。サッカーだって出来るぅ。君が望めばサッカー選手にだってなれちゃうよぉ。』
「うるさい!!でも毒舌くんはオレを助けようとしてくれ」
化け物は聞く耳を持たない。そもそも耳がないのかもしれない。
オレの言葉に被さるようにそのまま続ける。
『足の痛みに耐える必要もぉ、悲しくて泣いてばかりの毎日もぉ、ぜぇんぶキミの思い通りになるんだよォおぉおォオおお!!!!!!!!!!!!幸せな夢に、浸りたくないかい゛いいぃいぃ?????!!!!!!』
『あはあはあはあはあはあはあはあはあはあははは!!!!!!!』
馬鹿だろ。夢に篭って死んじゃうとアホらしいじゃん。
現実には学校があって、友達がいて、家に帰れば今日だって母さんが待ってるのに。
でも少し考えてしまった。
現実。
幸せな夢。
現実に耐えかねて夢を選ぶことは悪なのだろうか。
「...あ」
バットが手から離れ、届かない所へコロコロ...と転がる。
でも拾いに行く気もなれず、そのまま化け物の声に聞き入ってしまう。
息が苦しい。
『夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!夢の底へようこそ!』
ただただ同じ言葉を呪いのように繰り返す。
「は、は...」
耳の奥がキィンと音を立てて鋭い痛みが走る。
痛さに歯を食い縛る。
手に力も入らず震える、じきに呼吸もままならなくなる。
だってどうしたらいい?
ずっと泣きたいし、でも泣いていたって何かがどうにかなる訳でも無いし、目の前の夢に縋りたくてたまらない。
悔しさも悲しさも苦しさも現実の前では無力なんだよ。
努力や気持ちの問題で全てが解決する訳じゃ無いから。
思わずその化け物に手を伸ばす。
しかしそれを制するように後ろから大きな声が響いた。
「ねぇ!キョウ!」
「!」
カシャン、と下から音が聞こえる。
気がつけば足元には彼が持っていたはずの刀が転がっていた。
「この刀でその写真を壊せ!!」
「惑わされんな!!!!鏑木京!!!!」
「……毒舌くん」
黒い何かに毒舌くんは口を塞がれる。
それでもオレに何かを伝えようと必死にもがいている。
さっきまでの冷静な様子とは打って変わって彼は今、かなり必死だった。
「……っ!!」
掴まれている腕をできる限り刀の方へと伸ばす。指が柄に触れる。そのまま引き寄せ力を込め握る。
そうして振り返り化け物めがけ動かせる限り大きく振り被る!
切った感覚と音がする。確かに化け物には傷がついていた。傷口から液体が流れ出る。
『う、あ、あああ!!!!!』
刀なんて握り方は分からない。毒舌くんみたいに真っ二つには出来ない。でも確かに今の一撃でこいつは怯んでいる!!!
化け物が隙を見せた瞬間、オレは腕を勢いよく振りほどく。
もしかしたら毒舌くんもオレの夢が創り出した幻想なのかもしれない、なんて思った。
でも、彼は不器用なりにオレの手を引いてくれていた。
(鏑木京。君は怖いんでしょ?夢から覚めるのが。)
そうだよ、すげえ怖い。
...でもそうかもしんないけど、わかんないけどさ!
『や゛めろ゛!ィだぃ、ィダイィイイイイ!!!!!!』
化け物は叫び続ける。
腕を振り上げる。震える片手をもう一方の手で支え、刀を強く握る。
そうして勢いよく写真に向かい、力を込めて刀を突き刺す!!!
「う゛ああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガシャン!!!
突き刺した瞬間、写真立てが割れ、音をたてる。
そのまま刃は深く食い込み体重をさらに押しかける。
それと同時に辺りから『パリ、パリ、パリンッ!』と連鎖するように音が響く。
辺りの壁や風景に、化け物に、毒舌くんにまでヒビが入る。まるでガラスのように。
結局はオレも、現実を生きていくしか無いのかもしれない、と思った。
あー、終わっちゃったな。
『ガシャンッッ!!』
その大きな音を聞いたが最後、意識は途絶えた。
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重い瞼をゆっくり開く。
白い天井。空調の音。
ゆっくりと思考が巡り始める。
…どこだろう、ここは。オレは何をしてたんだっけ?
「あ、鏑木くんやっと起きた。」
声がして、体を起こす。
見覚えのある顔。保健室の先生だ。
部活でしょっちゅう怪我してたものだから、結構顔なじみというか……お世話になっている先生だ。
いや、そもそもなんでオレは保健室にいるんだ?
視線を下に向ける。
「え、あれ?!なんでオレ保健室で寝てんの!?」
気がつけばオレはベッドの中に居た。
「あなた、廊下で眠ってたのよ。中等部の子がここまで運んでくれたからよかったけど……」
「廊下で!?」
「ええ、廊下で。授業中も眠そうだった、って武田先生も言ってたし、寝不足だったんじゃない?きちんと夜は眠りなさいよ〜」
……寝不足だったかな?
昨日もそれなりに寝た気はするけど……でも言われてみればここ最近は普段より眠気を感じることが多かったような。
廊下で寝ちゃうほどだもんね、しらずしらずのうちに疲れをためてたのかな。
あはー、すんません。気をつけまーすと軽くおじぎをする。
「その運んでくれた子の名前とかって分かります?」
「さぁ?あなたをここに運んですぐにそそくさとどこかに行っちゃったから分からないわ。」
「ベッドもまだ空きはあるし、もう少しゆっくりしててもいいわよ。じゃ。」
先生はシャッとカーテンを閉めた。
すぐに足を確認する。
触ってみる。動かしてみる。伸ばしてみる。
……右足の違和感はやはり健在で、ここは現実で、さっきのは夢だったのだと実感する。
なんだか気が抜けてしまってそのまますぐにベッドにバタリと倒れ込んだ。
「はー.....はちゃめちゃな夢だったなぁ.....」
豪雨に見舞われ化け物に襲われ謎の少年に助けられ.....
とんでもなく長かったような、短かったような。
ゆっくり寝返りをうつ。
「......また、あの男の子に会えたりしないかな...」
夢の中の存在にまた会いたい、なんて随分と馬鹿らしい考えかもしれない。
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「もふぁもふぁもふぁも」
「いや何言ってるか全然わかんねぇから、飲み込んでから喋れ鏑木」
そりゃそうか、と思い口に含んでいたパンを飲み込む。
クラスメイトと話しながら廊下を歩く。
昼休み。辺りはザワザワと騒がしく、談笑する声で満たされていた。
「んーとねさっきの続きなんだけど、オレ探している人いて」
「こんくらいの背格好で、青髪で赤い紐ここら辺につけてて……あと結構毒舌な、中学生ぐらいの子!!知り合いにいない?!?」
「いや知らん。何?その子に一目惚れ?」
「あ〜……まぁそんなとこ!」
一目惚れでも、恋でもなんでもないけれど。どうせ経緯を説明した所でくだらないって信じてもらえないだろうし。
こうして色々な友人に聞いて回っているが、皆口を揃えて彼の事は知らないと言う。
そりゃそうだ、夢の中の人なんだから。
ただどうしても諦めきれない。
確かにあれは夢の中の出来事だったけれど、彼の存在だけは現実であってほしかった。
もう一度会って、改めてお礼を伝えられないだろうか。
「気になるなら名前ぐらい聞いとけよ」
それはそうかもしれないと苦笑する。
「で?胸はでかい?」
「いや無い」
「無い?」
「え〜……いたかなぁ……。なんだっけ?青髪で、赤い髪紐に中学生くらいの子…………」
そりゃ知る訳ないか、と肩を落とす。
もうひとつ買っていた焼きそばパンの袋を開けた。
うちの購買の焼きそばパン、ソースが濃くて美味しいんだよね。具ないけど。
そうして手に取り1口、口に含む。
「…………あの子じゃない?」
「え?」
クラスメイトの言葉に
後ろを振り返る。
まさかそんな訳が。張本人であるオレだって半信半疑で探してんのに。
立ち止まり、今すれ違った男の子を見つめる。
見覚えのある青い髪。オレの鼻ぐらいの高さの背。髪に結んだ赤い紐。
いや、でも着ているのは袴じゃなくてうちの中等部の制服だ。
その人は振り返った。
オレは目を見開き、息を飲む。
確かに夢で見た、彼だった。
「…………あーーーーーーー!!!毒舌くんだーーーーーーー!!」
「うわぁ………………」
急いで駆け寄る。
彼はあの時と同じように、眉間に皺を寄せひとつため息をついた。
1章 「夢の終わり」