6.暗闘
「どわぁっ。なんだ!? なんかいやがるぞっ」
「くそっ。なんだこいつはっ。魔獣か何かか!?」
「バカ、違う! ……ネコだっ」
「はぁ? ネコだとっ? なんでそんなもんが――いてぇっ。バカなっ。なんでただのネコに切られんだよっ」
縦横無尽に草むらの中を駆け抜けては飛び出し様に、空から一気に男たちの頭の上に乗って、そのまま顔中を引っかき回す一匹の白猫。
爪で引き裂かれた男たちは、鋭利な短剣で切り刻まれたかのように、無数の傷を作っては鮮血撒き散らして地面にのたうち回った。
突然、隊の後方がパニック状態になってしまったため、幼女を小脇に抱えていたリーダー格の男は苛立たしげに背後を振り返った。
「お前ら何してやがる! 何が起こった!」
「ネコです!」
「は?」
「だから……突然、ネコが襲いかかってきたんですよっ」
「はぁ? お前ら何ふざけたこと抜かしてやがるっ。ネコに襲われるとか、バカ言ってんじゃねぇよっ」
「嘘じゃありませんっ。ホントなんですよっ。ホントにネコが――て、いてぇっ。ふざけんな、この化けネコがっ」
もはや統制も何もあったものではなかった。
男たちはいきなり降って湧いた、たった一匹の白猫を前に理性をかき乱され、あっという間に壊滅状態に追い込まれてしまった。
自身が流す鮮血が目に入り、視界を奪われメチャクチャに剣を振り回す者もいれば、完全に戦意喪失して地面にしゃがみ込んでいる者もいる。
爪で引っかかれるだけでなく、鋭い牙で腕や足、股間を噛まれて悶絶している者もいた。
そんな情けない部下たちの姿を見て、ようやく事態の異常さに気が付いたらしいリーダー格の男が顔を真っ赤にして絶叫した。
「くそがぁぁっ。いったい、なんだってンだっ。一週間かけてようやく取っ捕まえたっつうのによっ」
男は幼女を小脇に抱えたまま、腰の長剣に手を伸ばして引き抜こうと身構えたが、それより早く、背後に強烈な殺気を感じ、焦って振り返った。
「なっ……てめぇはどっから湧きやがったっ」
音もなくすっと現れた暗蒼色の髪と瞳をした筋肉質な男を前に、リーダー格の男は思い出したように剣を引き抜こうとするも、すべては遅かった。
「あ~まぁ……うん。気持ちはわかるよ。そうだよな。いきなり目の前に誰かいたら、びっくりするよな」
そう呟くや否や、男が唐突に目の前から消えた。
一人呆然とする頭目。しかし、次の刹那に巻き起こった激しい衝撃によって、すべての意識が持っていかれそうになった。
彼が見下ろす視線の先。頭目の腹に、男の右拳が深々とめり込んでいたからだ。
そして、そう認識した瞬間、彼は自身の身に何が起こったのかまったく理解できないまま、「げはっ」と、くぐもった声を発してもんどり打っていた。
「て……めぇ……」
全身がバラバラに砕け散ってしまいそうなほどの重い一撃を喰らって宙を舞った頭目。彼はあっさりと気絶して、抱えていた幼女を落とし、大地へと叩き付けられていった。
賊を一撃で吹っ飛ばした男は、幼い少女が地面に落ちる前に優しく支えてから、彼女を立たせた。
「さて、面倒だが残りもさくっと片付けるか。それまでちょっと待っててな?」
彼――グレアムは幼女に優しく微笑むと、暴れている他の男たち目がけて駆け入っては、同じように片っ端から拳を叩き込んでいった。
そうして、すべての男たちがぶっ飛ばされて気絶するまでには十秒とかからなかった。
ぬっこに股間アタックされた方、南無。
おそらくマロちゃんは意図的にやっています。
【次回予告】
7.ラフィ