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国を追われた元最強聖騎士、世界の果てで天使と出会う ~辺境に舞い降りた天使や女神たちと営む農村暮らし  作者: 汐柳伊織
【第四話】深まる謎

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65.平常運転に戻ったギルド嬢たち

 キャシーの一件が一段落ついてから約一週間が過ぎていた。

 レンジャーギルドの受付カウンター内では、いつものように、マルレーネが中年狩人相手に受付業務を行っていた。


「それじゃ、猪の捕獲、お願いしますね」

「あぁ。任せておけ」


 狩人の仕事はもっぱら野生動物の狩猟、もしくは低ランクの魔獣狩りだ。捕獲された動物たちは大半が食肉用となる。一部、毛皮や骨などが皮製品や骨細工品、錬金術の材料に使われることもあるが、主目的ではない。


 レンジャーギルドには冒険者も登録されているので、基本、狩人たちは危険度の高い魔獣などにはちょっかいを出さない。ギルドや協会の管理の下、依頼された危険度の低い生物だけを狩ってきて、それを素材工房へと卸し、証明書を発行してもらってギルドに渡せば依頼達成となる。


 冒険者と違って等級なんてものもない。正真正銘、ただ野生動物を捕まえてくるだけの者たちだ。


 マルレーネが相手をしていたベテラン狩人もそんな一人だった。


 彼女はギルドから出ていく男をしばらく見守ったのち、隣を見た。

 そこには椅子に座ったキャシーがいる。彼女は体調不良で寝込んでいた分を取り戻そうとでもするかのように、一生懸命書類仕事をしていた。


 そんな彼女を見つめるマルレーネの顔に、自然と安堵の色が浮かんでくる。


 キャシーは病の原因が判明した翌日には意識を取り戻したが、ベッドから起き上がることはできず、そのまま三日間ほど寝たきり状態が続いた。


 しかし、それでも時間の経過とともに症状自体は徐々に回復していったので、随分と顔色もよくなっていった。


 定期的に薬の継続投与も行われたし、様子を見に来たグレアムがその都度、治癒魔法を施してくれたので、それも功を奏したのだろう。


 お陰で四日目にはベッドから起きられるようになっていた。


 そうしてしばらく自宅療養し、外を出歩いてもいいと村医者のデューイから許可が出たので、こうしてギルドの仕事へと復帰したのである。


 ただし、依然、本調子とは程遠いので、マルレーネの仕事を補佐する形で当面は書類仕事をこなすことになったわけだが。


「ン~~~……やっと終わった」


 時刻は昼少し前。

 キャシーは疲れたように両手を上げ、伸びをした。


「あまり張り切り過ぎないでくださいね? 毒素は完全に抜けていますが、魔晶石の影響がまだ残っているんですから」

「わかってるわよ。さすがに私もそこまでバカじゃないわ。それに、これ以上みんなに迷惑かけられないしね」


 そう言って、すまなそうに舌を出すキャシーの元に、給仕の仕事をしていた他のギルド嬢エリサとリーザが近寄ってきた。


「ホントよ。一時はどうなることかと心配したんだから」

「そうですよ。みんな大騒ぎして、このままギルドも閉鎖されちゃうんじゃないかと思いましたし」


 ネコの目のように表情がころころ変わることで有名なエリサのあとに続き、育ちが好さそうな雰囲気の赤毛のリーザが口を尖らせた。


「それにしても、まさかあの化粧品や美容液があんなに酷い粗悪品だったとは思わなかったわ。本当に腹立つったらないわ。お金返して欲しいぐらいよ」

「ちょっと、文句言うとこそこ?」


 苦々しげに口を歪めるキャシーに、エリサがすかさず突っ込みを入れた。


「でも、本当に残念ですね。結構キレイになれるって噂だったし、私も今度買おうかと思っていたのに」


 リーザが小首を傾げながらつまらなさそうにする。


「ですが、思ったほど被害が広がらなくてよかったですね」


 マルレーネがほっとしたようににこりと笑った。

 結局、一週間ほどの調査の結果、この村で例の欠陥品を使用していたのはキャシーだけだったと判明した。


 他の村がどうなっているのかわからないが、シュラルミンツから来た役人たちによると、あちらでは既に被害が深刻だったらしい。


 当初は原因不明の病として扱われ、死者も何人か出ていたとか。それでも毒が絡んでいると判明してからは徹底的に調査に乗り出し、事態は急速に沈静化していったとのこと。


 一応、同一の症状を発症している者たちに共通していたのが、年頃の若い娘ということと、比較的貧民寄りの平民ということ。あとは化粧品と美容液の併用。


 キャシーの証言や、向こうでの被害者証言により、どこで販売されていたのかについても特定されていたので、軍を動かし包囲網を敷いたのだとか。しかし。


 衛兵らが化粧品を販売していた商会へと押し入ったときには、既に店の経営者含めた関係者一同、誰もおらず、もぬけの殻。


 おびただしい量の血痕は発見されたが、それ以外には特にめぼしいものは何も見つからなかったのだという。


 美容液に関しても同じで、販売していた商会もあっさり突き止められたものの、人っ子一人いなかったらしい。


 しかし後日、化粧品を販売していた店の経営者だけは発見されている。シュラルミンツ北に位置する山脈のふもとで。獣に食い散らかされた遺体として。


 その辺の情報はカラール村では極一部の人間にしか知らされていなかったので、村長やマルレーネ、グレアムなどは知っているが、キャシーたちはまったく知らない。


 店舗経営者がなぜそのような酷い状態で死んでいたのかについてはまったく判明しておらず、事件の真相は藪の中。


 一応、こちら側で確保した商会関係者と暗殺者二人の身柄も役人に引き渡したのだが、移送後、尋問する前に暗殺者二人は牢屋で謎の死を遂げてしまったらしい。ギルドの情報網を通じて確認した限りだとそうなっている。


 錬金術師に関しては無事だったが、恐怖に怯えるばかりでまるで役に立たなかったらしい。


 そんなわけで、どこかきな臭さも感じられる案件だったため、情報の開示は見送られることとなった。知らない方がいいこともある。そう判断されて。


「だけど、本当に残念だわ。化粧をしているときもそうだけど、落としたあとの肌までキレイになるって聞いたから無理して買ってきてもらったのに。身体おかしくなるわ、お金も返ってこないわでホント、ついてない……」


 そう言って溜息を吐くキャシーに同調するように、エリサとリーザの二人も落胆した。

 しばらくの間、三人娘はそうしてしょげていたが、ふと、気を取り直したようにキャシーが口を開いた。


「そういえばレーネ。レーネっていつ見ても肌艶よくてプルプルしてるけど、何かしてるの?」

「え?」


 唐突に話の矛先が自分に向けられたことに戸惑っていると、他の二人まで同調する。


「あ~、それ。私も以前から気になってたのよね。結構みんな肌乾燥してたり、艶が悪かったりするのにレーネだけはいつもキレイで、なんでだろうって思ってたのよね」

「ネ~。レーネが考案してくれた入浴方法のお陰で、村の人たちみんな、以前よりも肌艶よくなったって喜んでますけど、それでもレーネには勝てないですよね」


 三人娘に注目され、マルレーネは「そんなことないと思いますけど」と、困惑気味に首を傾げたが、そのあとすぐ、


「ですが、一点挙げるとすれば、自分で作った化粧水や乳液、美容液とか使ってるからかもしれませんね」


 思わず独り言のようにぼそっと呟いたその台詞を、美しくなることへの探究心に満ち溢れているキャシーたちが聞き逃すはずはなかった。

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