表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国を追われた元最強聖騎士、世界の果てで天使と出会う ~辺境に舞い降りた天使や女神たちと営む農村暮らし  作者: 鳴神衣織
【第四話】深まる謎

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/112

64.暗躍する者たち

 そこは、ろうそくの明かりだけが照らす薄暗い一室だった。


 汚れた長方形の作業テーブルが中央に置かれ、窓のない壁の三方に背の高い棚が設けられている。

 よくわからない瓶や箱、草などが入った入れ物が雑多に収納されていた。


 そんな陰鬱な一室に、二人の男が互いに向かい合うように佇んでいる。


 一人は細長い瓶を手にした初老の男。もう一人は、鉄仮面をつけた黒いローブの男。

 二人は互いに対峙し合い、うち、初老の男が声を荒らげた。


「どういうことですか! 話が違いますっ。あなた方が用意したあれを使えば、上等な品ができるとそうおっしゃったではないですかっ。なのに、蓋を開けてみればとんでもない欠陥品だっ。あんなもの、どうしろとおっしゃるんですか! しかも既に、捜査の手がすぐそこまで迫っているんですよ!?」


 初老の男は額に青筋立てながら、今しも手にした瓶を黒ローブの男へと叩き付けそうな勢いだった。

 それに、どうやら黒ローブの男は笑ったようだ。


「何を今更。お前が望んだことだろう? 俺は言ったはずだ。諸刃の剣だと。それでも構わないと言ったのはお前だ」


 残忍とも言える声音を絞り出す黒ローブの言動を前に、男は立っていられなくなってしまったかのように、頭を抱えて床に膝をついた。


「おしまいだ……このままだと破滅するっ。どうしてうちの商品が他のと使われると毒になるんだっ。こんなのおかしいだろう……!」

「……本当に今更だな。お前も薄々気付いていたのではないか? アレが混ざっていたことに。錬金術師の端くれならな。だが、それなのに製造をやめられなかった。その時点でお前は詰んでいたんだよ」


 黒ローブは「とにかくご苦労だった。データは取れたからな。お前の役目はこれでもう終わった」と呟き、上階へと繋がる階段へと歩いていった。

 一人取り残された男の瞳がどんどん虚ろなものへと変わっていく。


「終わった……もうダメだ。こんなの絶対に間違っている――あぁ、そうだ……逃げよう……誰にも捕まらないところへ……」


 男はぼそぼそ呟きながら、部屋を出ていった――と、その瞬間、


「ギャァァァァ~~~……!」


 上階から、誰のものかわからぬ断末魔にも似た叫び声が聞こえてきた。

 どかっと、派手な音を立てて、何かが床に転げ落ちる音が複数鳴り響く。


「あは。ダメだよ、逃げたりなんかしたら」


 地下室の外から陽気な声が聞こえてきた。そのあとに続くように、舌打ち音が鳴ったあと、さびを含んだ男の声が響く。


「……余計な真似を」

「だってさぁ。勝手なことされたら予定が狂っちゃうじゃん?」

「狂ったところで計画に支障はない。所詮は最初から切り捨てるつもりで用意した、ただの草木に過ぎぬのだからな。我らが張り巡らせた根は、やがていつか必ず、そこら中の大地から若葉を芽吹かせることになる。ただそれだけのことだ」

「ま、あんたがそう言うなら別に構わないけどね。だけど本来、計画が完了したら関係者すべて抹殺する。それが、僕たちに課された掟でしょ?」


 あっけらかんとした口調でそう答える少年のような声の持ち主は、どうやら鼻で笑ったようだ。

 そんな彼に、もう一人の男は寡黙に、されど――


「一つお前に忠告しておく。これ以上余計な真似はするな。特に、間違っても()()()にだけはちょっかいかけてくれるなよ? 死にたくなければな」


 酷薄さすら感じさせる冷たい響きに、少年は「おお、こわ」と、どこかおどけたような声を出した。


「ボクだってまだ死にたくないからね。あんな化け物みたいな奴に絡むほどバカじゃないさ。あんたならいざ知らず、ボクじゃ絶対に勝てないからね」


 そう答えて、彼は「あはは」と笑った。その上で、


「だけど、逃げたドブネズミに差し向けた連中はどうやら怖い怖~いあの人に取っ捕まっちゃったみたいだし、まぁ仕方ないよね。足つくと面倒だし、あんたがなんと言おうと、あいつらは消すからね?」


 しばらくの沈黙ののち、


「……勝手にしろ」


 もう一人の男はそう、感情のない声で呟いた。

 二人の男の気配が地下室の外から徐々に消えていく。室内には、薬品の臭いと血臭だけがいつまでも漂っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★ 以下作品も好評連載中です。ご愛読くださると幸いです ★

【 転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います】

30年前の世界にタイムリープしてしまった主人公が、お嬢様を死守していく主従愛強なお話です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ