61.更に騒動は広がる
錬金屋から外に飛び出したグレアムたちは、中央広場で遠回りに人だかりができているのを発見した。
位置的には丁度、ギルドの近くといったところか。
急いでそこへと向かったグレアムとラフィ、マルレーネにクリス、それから村長と村医者デューイは、人混みをかき分けるようにその中心へと入り込み、思わず息を飲んだ。
「こいつは……」
グレアムは呻き、いつものように左腕に抱っこしていたラフィを慌てて胸に抱えるように抱き直し、それが視界に入らないようにした。
「酷い有様だな。食中毒か何かか?」
「わからんが、尋常でないことだけは確かだろう」
顔をしかめながら眼下に倒れていた男二人を見下ろしていたグレアムに同調するように、村長とデューイがそんなことを話しながらしゃがみ込んだ。
「おい、お前らっ。わしの声は聞こえるかっ?」
デューイはそう声をかけ、倒れていた細身の男の肩を軽く揺さぶった。
男たちはこの村では見かけたことのない顔をしており、身なりも農民というよりも、それなりに羽振りのいい商人のように見えた。
そして、村人からの報告に上がっていたように、二人して口から泡を吹き、身体中を痙攣させている。
かなり危険な状態かもしれない。
「昨日の今日だからな……。まさかまた毒とかじゃないだろうな?」
グレアムがぼそっと呟くと、
「わからんが、とにかく応急手当てが先だ! 急げ!」
そう叫び、デューイがテキパキと周囲に指示を出し始める。
手に持っていた鞄から針を取り出し、血液採取すると、すぐさま毒物を計測するための魔導具へとそれを落として成分分析し始めた。
しかし、その間にも自体はどんどん悪化していく。
男たちは苦しみもがくように呻き声を漏らし、痙攣に加えて暴れ始めたのである。
「グレアム! 頼む……!」
このままではやばいと判断したのだろう。村長が切羽詰まったような顔をして、グレアムを見上げた。
「俺の魔法がどこまで通用するかわからんけどな」
そう前置きしつつも、すぐ側にいたマルレーネにラフィを預けると、急ぎ魔力錬成に入って、二人同時に治癒魔法を行使した。
始めに使ったのは初級でも覚えられる毒素軽減魔法――つまり解毒魔法。基本的にどんな毒にも効果があるとされるが、軽減とつくように、完全回復させることはできない。せいぜいが、毒の回りを遅くするだけだ。
毒素も消えないし、破壊された組織も回復はしない。しかし、それ以上の進行だけは遅らせられる。上級にもなれば、完全解毒魔法が存在するが、残念ながらグレアムにそれは使えないので今回はこれで諦めるしかない。
それから、次に使用したのは文字通り回復治癒魔法だ。これにより、毒素によって破壊された部位が再生されていく。
こちらも初級程度のものだから、一気に全回復するといった形にはならないが、それでも気休め程度にはなるだろう。
「どうやら落ち着いたようだな」
「すまん。助かった」
魔法は魔力を消費する。多少の疲れを感じるため、呼吸を整えるように呟くと、村長が頭を下げた。
地面に横たわったままだった商人風の男たちは、先程とは打って変わって呼吸が穏やかになっていた。
いつの間に現れたのか、村役場に詰める救護班も駆け付け、介抱し始めた。
その甲斐あってか、男たちの意識が戻る。しかし、
「おい、グレアム」
どこか緊張したような声音を吐き出して、デューイがグレアムを見た。
「こいつはまずいぞ……」
「え?」
「こいつらの体内から、ジグールテリスが検出された! しかも、キャシーよりも遙かに濃度が高いぞ! このままでは――」
脂汗流しながら彼がそこまで言ったときだった。
落ち着きを取り戻し始めていた商人の一人が突然、今までとは比べものにならないほど苦しみ始め、そのまま吐血してしまったのである。
そして、激しく痙攣し、まったく動かなくなってしまった。
「まさか……」
「あぁ……死におった」
おそらく検出されたのは致死量。初級程度の治癒魔法では抑えられなかったらしい。
呆然と呟くデューイの言葉に恐怖を感じたのだろう。もう一人の男が震え始めた。
「ひぃ~~っ。し、死にたくねぇ……! 俺はまだ死にたくねぇ……!」
ただでさえ青白い顔が、更に蒼白となり、死相すら出始めているようだった。
「おいっ、そっちの若いの! お前は平気なのか!?」
デューイは叫び、反対側に回って恐慌状態に陥ってしまった男を揺さぶった。
「お、お、お、俺はだ、だだだ、大丈夫じゃねぇ……! きっと死ぬ。俺も死ぬんだ……! ハロルドみてぇに、俺も殺される……!」
「殺されるだと? いったいどういうことだ!?」
険しい顔をして問い質そうとするデューイだったが、それ以上、その男から情報を引き出すことはできなかった。なぜなら、先程絶命した男と同じように苦悶し始めたからだ。
「ちぃっ。まったくなんなんだっ」
そんな一連の出来事を見守っていたグレアムは、舌打ちしてからすぐさま治癒魔法を行使した。その上で、
「おい、デューイ! とにかく俺が時間を稼ぐ! その間に、そいつにも毒素中和剤と回復薬ありったけ喰らわせてやれ!」
「あ、あぁ、そうだったな……」
若干正気を失いかけていた村医者はグレアムの言葉で冷静さを取り戻し、鞄から取り出した小瓶を無理やり男へ飲ませた。
しかし、即効性があるわけではないし、効能や適正量というものも存在する。やたらめったら大量に飲ませたところで効果があるわけではないが、それでも、今は用法やら用量やらそんなことを言っている場合ではなかった。とにかくなんとかして助けなければならない。
がぶ飲みに近い状態で何本も無理やり飲ませ続けた。
そのせいか、毒による苦痛と薬の大量服用という二重苦に苛まれた男が、口の中のものを吐き出した。
心なしか鮮血まで混ざっているようにも見えた。
それが毒によりものなのか薬によるものなのかはわからない。
それでも、グレアムたちの懸命の介抱が功を奏したのか、暴れていた男の動きが弱まっていった。
そして、呼吸も少しずつ穏やかとなり、このままうまくいけば、本来であれば上級魔法でなければ回復させられない致死量の毒すら抑えられるのではないかと、そう安堵しかけたときだった。
(――殺気!)
グレアムは肌にピリつく独特の感覚を敏感に感じ取り、魔法を継続発動しながらそちらを見やった。
「ちぃっ。そういうことかよっ」
彼の視界の先に捉えられていたそれ――東門通りから飛び出し、一気にこちら側へと駆け抜けてくる黒ローブ姿の男たちだった。




