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3.アヴァローナの森へ

 ライラの占い小屋をあとにしたグレアムは、準備のためにいったん村の外にある自宅へと戻っていった。


 なぜ自宅がこんな辺鄙(へんぴ)な場所にあるのかというと、そのすべては故郷である聖教国にいられなくなったことに起因する。


 ――かれこれもう、七年以上も前のことになるだろうか。


 当時、北方大陸を支配下に収めるラーズ=ヘル魔導帝国と、西中央大陸を支配するハイネアン聖教国の二カ国は、長年の因縁に決着をつけるべく幾度も戦争を繰り返していた。


 いつ終わるともしれない長きに渡る両国家間の争いに、人心も大地も疲弊し、このままでは共倒れの危険性すらあるのではないかと噂され始めていた。


 そのため、両陣営は雌雄を決すべく、最終戦争――聖魔大戦(ラステッド・ウォー)へと踏みきったのである。


 戦いは熾烈を極めた。帝国の魔導テクノロジーと聖教国の錬金魔法テクノロジーが激しくぶつかり合い、両国家間だけでなく世界中が壊滅的打撃を被りそうになった。


 このままでは世界が滅びる。誰もがそう思った。しかし、実際にはそうはならなかった。グレアム率いる聖騎士部隊がいたからだ。


 彼が指揮していた精鋭部隊は寡兵(かへい)でありながらもよく戦った。獅子奮迅の活躍を見せ、迫り来る敵を蹴散らし、けれど、相手の面子(メンツ)を潰さないようにひたすら尽力し続けた。


 その甲斐あってか、既に多大なる被害を出して継戦能力を失いかけていた両陣営は、グレアムが切り開いた停戦への落としどころを懸命に模索し合い、国家のプライドを保ったまま、停戦に踏みきることができたのである。


 まさに『勝者なき終幕』であった。


 こうして、未曾有の危機を回避するに至った一番の立役者であるグレアムは、元々持っていた冒険者時代の勇名も手伝い、その名声と人気は神すら超えるのではないかと囁かれるようになった。


 しかし、それが国を治める権力者たちには面白くなかったのだろう。


 聖教国は貴族社会であると同時に宗教国家でもある。政治経済の中枢にいるのはすべて貴族といっても過言ではない貴族至上主義国家であり、平民上がりのグレアムの台頭をこれ以上容認するわけにはいかなかったのだ。何より、自国が信奉する神を超える存在など、断じてあってはならない。


 だからこそ、そう判断されたグレアムは無実の罪を着せられ、暗殺されそうになったのである。


 幸い、事前に不穏な動きを察知していたから事なきを得たが、一歩間違えたらどうなっていたかわからない。


 数十人程度であればあっさりと一網打尽にできるが、化け物レベルの猛者たちが数百人規模で襲ってきたらひとたまりもないだろう。しかも、未遂に終わったからといって、それで万事解決というわけにもいかない。だから面倒くさくなって、国を捨てたのだ。


 明日の未来を切り開くために。


 ともあれ、そういった経緯が手伝い、どこの馬の骨ともしれないさすらい人の自分を温かく迎え入れてくれたカラール村の人々には迷惑をかけたくないという思いから、こうして村の外に自宅を設けたのである。


 万が一、しつこく差し向けられてきた刺客に見つかったとしても、ここなら被害も最小限に抑えられるだろうと。


「さて、準備はこんなところか」


 村の東門から外に出て、緩やかな坂道を上った先にある自宅に戻ったグレアムは、家宝の()()や薬草採取の道具類などが入った革袋を背負うと、さくっと出かけていった。


 現在の服装は先程までと同じで、厚手の白いシャツと紺色のズボン、茶色のレザーブーツといった感じだ。袖は肘近くまでまくられ、日焼けした筋肉質な肌が露出している。


 鎧の類いは身につけていないが、この村の冒険者にはありがちな格好なので、特に珍しい装いではない。


(しかし、アヴァローナの森(あそこ)には危険な連中が生息しているからな。注意しておかないと)


 今から向かう大森林には獰猛な魔獣は元より、他の地域ではあまり見かけないような独自進化を遂げた生物まで生息している。


 ――幻獣。


 それが、森の奥深くに生息する生物の正体だった。


 彼らの見た目はその辺にいる温厚な野生動物を神秘的な姿にしたような感じだが、その持てる力は魔獣の比ではない。


 彼らは自ら率先して人に害をなすことこそないものの、怒らせると何をしでかすかわからないと言われている。


 上級冒険者が束になってかからなければ倒せないような者たちも数多く存在するとか。


 それゆえ、村では一つのルールが設けられていた。

 村長やギルドが許可した者しか中に入ってはいけないと。


 つまり、その認可された者の一人が、かつてレジェンダリー級冒険者の最上位ランクであるアルテア級にまで上り詰めたグレアムということだ。


「さてっと、早速入るか」


 通常であれば徒歩で半日かかる距離を、グレアムは僅か一時間ほどで村から続く南の平原を走破し、森の入口付近まで辿り着いた。

冒険者には上からレジェンダリー、上級、下級という三つの区分けがあります。

その上で、更に細々とランクがあります。

つまり、その最上級ランクを、聖騎士になるときに手放したということですね。

無欲ですね。


【次回予告】

 4.マロとチョコ

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