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国を追われた元最強聖騎士、世界の果てで天使と出会う ~辺境に舞い降りた天使や女神たちと営む農村暮らし  作者: 鳴神衣織
【第二話】聖教国から来た女騎士

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34.こんな村もう嫌だ

(はぁ……これもすべてあの女とグレアムのせいだ……。六年振りにやっと会えたと思ったのに、あいつは帰らないの一点張りだし、おまけに押しかけ女房みたいな女が見張っているときた。私がいったい何をしたというのだ)


 とぼとぼ歩きながら広場北側まで来たとき、宿屋のおばちゃんが言っていたレンジャーギルドらしき店舗を発見する。


「はぁ……」


 軽く溜息を吐いてから店舗の扉を潜り、中に入る。


「きゃ~~!」

「こぉんの、クソガキがっ」

「ていうか、レーネはまだ来ないの!?」


 入るなり、喧噪に包まれていた店内にぎょっとした。

 年端もいかない少年が、ギルド嬢と思われる女性たちのスカートをめくっては、激怒した彼女たちに追いかけ回されていたからだ。


「いいぞ、リクっ。もっとやれ!」


 待合所と思われる酒場では、飲んだくれていた男たちから歓声が上がっていた。


「な、なんなんだ、この下劣な店は……!」


 聖都のような大都市であっても、辺境の村落であったとしても、貴族が顔を出すような品のあるレストランでもない限り、大抵はこのように下品で混沌とした大衆酒場は普通にある。


 しかし、いやしくもここはレンジャーギルドである。節度を持って運営されるべき、村の中枢機関の一つだ。ここまで下衆なギルドなど見たことも聞いたこともない。

 貴族出身のクリスティアーナからしたら、あまりにも非常識過ぎた。


「へへ~~んだっ。絶対に捕まらないよっ。おいらは兄貴に弟子入りするんだからっ」


 少年はバカにしたようにあっかんべすると、呆然とするクリスティアーナの脇をすり抜けて店から出ていった。


「こらぁ~! 待ちなさい!」


 続いて金髪のギルド嬢も慌てて出ていこうとするが、クリスティアーナの存在に気が付いて思い直したらしい。

 彼女の隣で急停止すると、咳払いした。


「えっと……何か御用でしょうか、騎士様」


 どうやら外套の隙間から鎧が見えていたようで、ばつが悪そうにそう声をかけてきた。

 クリスティアーナは戸惑いつつも、頷いた。


「あぁ。えっと、ここはレンジャーギルドで間違いないのだな?」

「はい。そうですが、もしかして公都からの査察でしょうか?」

「査察? いや、よくわからないが、路銀稼ぎがしたくて立ち寄ったのだが」

「路銀……ですか? 騎士様はギルド登録はお済みでしょうか?」

「いや、まだだ。冒険者の友人は多くいたが、自分でやるのは初めてだ」

「そうですか。でしたらこちらへどうぞ。今から登録作業に入りますので」

「すまない。恩に着る」


 クリスティアーナは軽く腰を折って敬礼すると、案内されるままに奥のカウンターまで移動する。


「本当はギルド業務はいつも、支部長のマルレーネが行っているんですけどね」


 書類を作成しながら独り言のように言うギルド嬢に、クリスティアーナは目を剥いた。


「マルレーネだと? そういえばあの女、お前たちと同じような格好をしていたな。まさか、あいつはここの支部長ということなのか!?」

「え?」


 グレアムの家で見たあのにっこり笑顔を思い出して、クリスティアーナは腹立たしくなった。


(あの女さえいなければ、こんなところに来る必要などなかったというのにっ)


 急に怒気を露わにする彼女に、相手をしていたギルド嬢が戸惑ったような言動を見せるものの、滞りなく登録は完了した。


「クリスティアーナ様ですね。では、こちらがギルド証になります。ギルドについては、ある程度ご存じですか?」

「あぁ。すぐ側に、根っからの冒険者気質の男がいたからな。あの()()()()()のせいでどれだけ苦労させられたことか」


 今もまだ現在進行形だがなと、口の中でもごもご呟くも、声にはならなかった。


「それで、仕事を請けたいということでしたが、今すぐですか?」

「あぁ、今すぐだ。とにかく路銀を稼がなければ何もできないからな」

「そうですか。でしたら、この辺なんかはいかがでしょうか? 登録したばかりの下級冒険者ですし、これぐらいが手頃でしょうか」


 そう言ってみせてくれた仕事の一覧表は、どれも最低ランクのものばかりだった。


 冒険者には一応、等級というものが設けられている。

 下から順に青銅級、黒鉄級、青銀級、白銀級、黄金級、白金級、聖金級といった感じだ。


 その上にも更に、エフェラム、セレスティ、アルテアといった等級も存在するが、普通の冒険者は大抵聖金級止まりだ。


 そして、青銅から白銀までが下級冒険者、黄金から聖金までが上級と呼ばれている。


 エフェラム以上にもなるとレジェンダリーと呼ばれ、ほとんど神様扱いである。


 そして、グレアムはその最上位ランクであるアルテア級冒険者として名を馳せていた。


「ダメだ……この程度の報酬ばかりでは、宿代すら稼げない」


 片っ端から物色してみたが、どれも銅貨や十枚銅貨数枚といった仕事ばかりだった。とてもではないが、宿代一泊分など夢のまた夢。


 おそらく一日に五件ほど依頼をこなせば、一日分ぐらいはなんとかなるのだろうが、どう考えてもすべての仕事を完遂するのに一日二日はかかってしまう。これでは本末転倒だった。宿代どころの騒ぎではない。


「くそっ。食事代ぐらいはなんとかなりそうだが、このままでは毎日野宿となってしまうっ……」


 焦りばかりがどんどん募っていく。

 グレアムは口説き落とせないわ、宿代は払えないわ、起死回生とばかりにギルドの仕事をこなそうとしたのに、ろくな仕事がない。

 これでは聖都に帰ることすらできなかった。


「何か実りのいい仕事はないのか!? 凶悪な魔獣討伐でもいいんだ! 今は等級低くても、私にはそれなりの実力があるっ。危険な魔獣や魔物だって普通に狩れるんだ! だから報酬のいい仕事を見繕ってくれっ」


 カウンターに両手をつき、血相変えてギルド嬢に詰め寄るが、相手をしていた吊り目の娘は、


「そ、そんなことを言われましても」


 と、戸惑うばかりだった。

 しかも、クリスティアーナの存在は相当目立っていたようで、ギルドで飲んだくれていた酔っ払いどもが、二人の会話を耳にし大笑いし始めた。


「おいおい。こんなど田舎に、そんな割のいい仕事なんざ転がってるわけねぇじゃねぇか」

「まったくだ。ここいらじゃ、凶悪な魔獣なんざ出やしねぇし、ましてや魔物なんかいるわけがねぇ。ホント、平和もいいところだぜ」

「だなぁ。んでもって、だからこそ、そんな場所にあるギルドの仕事なんざ、もっぱら雑用ぐらいなもんだ」


 男たちはさんざかバカにしたように大笑いし続けた。

 彼らが言うとおり、この村があるグラーツ公国では魔獣はそれなりに出没するが、魔物はあまり見かけないとされている。


 一般的に、野生動物が凶悪な生物へと進化した種族が魔獣と呼ばれているが、魔物は文字通り、魔法から生まれた()(かい)な生物のことを指す。


 彼ら魔物は人間が使った魔法や、魔導具から生じた魔力の残滓(ざんし)が寄せ集まって生まれてくる魔法生物と考えられている。


 そのため、魔導テクノロジーによって一大文明を築いた魔導帝国や、錬金術と魔法を組み合わせて強大な魔法を作り出すことに成功した錬金魔法テクノロジーが発達した聖教国では、数多くの魔物が出ることで有名だった。


 強さもピンキリで、一軍隊総がかりでなければ倒せないような凶悪な魔物もいるぐらいだ。


 しかし、魔導も魔法も発達していないグラーツ公国では、魔力がばら撒かれることが少ないからか、目撃情報もほとんどない。


「くそっ……」


 儚い現実を突きつけられ、クリスティアーナはかつてないほどの悔しさに奥歯を噛みしめた。


(私はただ、愛する男と一緒にいたかっただけなのに……!)


 思わず涙ぐみそうになってしまうが、ぐっと堪え、ギルドを飛び出していった。

 そしてその足で、村中を駆けずり回った。

 行く先々の店で、何か仕事がないかと頼み込んだが、すべて門前払い。

 じゃぁと思い、彼女は素材工房へと駆け込んだ。


「おい、親父! 何か欲しい素材はないか!? 肉や皮、牙、なんでもいいんだっ。欲しい素材があれば私が片っ端から魔獣を狩り尽くしてきてやる! だから仕事の依頼をしてくれ!」


 目を血走らせながら、魔獣の解体中だった職人の胸ぐらを掴んで、激しく揺さぶった。

 それに面食らった親父が悲鳴を上げる。


「素材は今のところ間に合ってるし、そもそも、欲しいもんがあったらギルドに依頼して取ってきてもらっている! だからお前さんに頼むものなんか何もありはしないっ」

「嘘をつけ! 何かあるはずだ! ほら、鳥の肉とか欲しいだろ!? 今そこで解体しているぐらいだし!」


「バカ野郎! それは依頼していた品が届いただけだっ。これ以上欲しいものなんかねぇよっ。それに嬢ちゃん、この村のもんじゃねぇだろうから教えといてやるが、一応、狩っていい量っていうのはギルドで決められてるんだよっ」

「なんだと!? どういうことだ!」

「襲ってきた魔獣は別だが、その辺の野生動物を無闇やたらと乱獲してみろっ。たちまちのうちに絶滅しちまって、俺たちゃ肉が食えなくなるだろうがよっ」


 苛立たしげに吐き捨てる親父の言葉の意味を理解したクリスティアーナは呆然とし、掴んでいた胸ぐらを離した。

 ゲホゲホとむせかえるおっさんを前に、先程までの激情が嘘のように消え去り、彼女の顔が青ざめていく。


「終わった……万策尽きた……もう私は生きていけない……」


 赤い瞳から徐々に輝きが失われていくクリスティアーナだったが、


「そうだ……もう、あいつに頼み込むしかない……」


 ブツブツ言いながら幽鬼のように店から出ていった。

 そんな彼女の後ろ姿を見つめていた店の親父は、


「いったい、なんだったんだ、あの嬢ちゃんは……」


 ただひたすら、顔をしかめるだけだった。

再度、いたずら小僧の登場です。

この子が暴れるたびに、グレアムさんに危険がせま……もごもご


【次回予告】

 35.スキルマテリアルとアルタークォーツ


★本日より新連載開始しました。

★もしよろしければそちらもよろしくお願いいたします。

★リンク先はページ下部にあります。

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