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国を追われた元最強聖騎士、世界の果てで天使と出会う ~辺境に舞い降りた天使や女神たちと営む農村暮らし  作者: 鳴神衣織
【第一話】森での出会い

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20.三度森へ

 すぐさま家財道具回収の編隊が組まれ、役場からも馬車を一台借りて、グレアムたちはラフィの生家を訪れていた。


「まさか、こんなところに家があっただなんて」

「……あぁ、驚きだな。グレアムから報告は受けていたが、まさか幻獣が住むこんな森の奥深くにな」


 案件が案件だから気になるということで、今回の引っ越し作業に同行したマルレーネとその父親である村長ダクダ・スファイルが呆気に取られていた。


「しかも、この場所。確か本来、この辺は()()()()()()()()じゃなかったか? それなのになぜ奴らの結界が解除されているんだ?」


 五十を過ぎたベテラン狩人までそんなことを言って、眉間に皺を寄せている。

 他の森内侵入許可証(ライセンス)持ちである同行者三人の男たちも、周囲を警戒しながら訝しんでいた。


 いわゆる、聖域内はカラール村、引いては人族すべてにおいて絶対不可侵領域である。ラフィやその家族は盟約というものがあったからか、普通に中に入れたようだが、村人にとっては結界に等しい存在だった。


 ゆえに、内部に侵入することは不可能であるというのが周知の事実であり、暗黙の了解だった。

 グレアムは終始驚きを隠せない村長たちを見て軽く肩をすくめた。


「いずれにしろ、今回の一件には不可解なことが多い。折を見ていろいろ調査した方がいいのかもしれないが、とりあえず今は家財道具を運んでしまおう」


 そう声をかけ、家の中に入っていった。

 当然、馬車は森の中に入れないので、御者を務めている冒険者二名とともに、森の外で待機してもらっている。代わりに、手押し車のようなものを運び入れていて、それで馬車まで運ぶ予定だった。


「ラフィ、大丈夫か?」

「うん~?」


 事件のあった現場だから、いろいろなことを思い出して悲しくなってしまうのではないかと懸念したのだが、どうやらその心配はなさそうだ。

 グレアムに抱っこされていた彼女はきょとんとしたあと、


「ぐ~たん! ラフィのおようふく、あそこにあるのです!」


 そう目を輝かせながら、壁際に置かれていた小さなタンスを指さしていた。


 元々家財道具がほとんどない質素な家だ。ラフィが指を差さなくても、そこにほとんどが集約されているだろうことは察しがついた。衣装ダンスは他に、一つしかなかったからだ。


 おそらく、両親の服などもそれらの中にあるのだろう。

 床に下ろされたラフィがてくてく歩いていき、一生懸命漁り始める。


 そんな様子を微笑ましく眺めながらも、中に収められていた服を見た瞬間、グレアムは声を失っていた。

 とても丁寧に編み込まれた、愛らしくも美しい衣服だったからだ。


 ラフィが取り出すワンピース仕立ての服は、どれもこれも彼女が好きそうな可愛らしい動物の刺繍が施されている。


 これらすべては母親が編んだと言っていたから、そこにどれだけ我が子を思う愛情が注ぎ込まれていたのかと考えるだけで、胸が痛んだ。


 誰がどう見たって、彼女たち親子を繋ぐ大切な品。


 グレアムはラフィの服と、それから両親のものと思われる衣服もすべて、大きめの布で大切にくるむと、荷車に乗せた。


 他にも、ラフィが布団も持っていくだとか、タンスも持っていくだとか言い出したので、同行してくれた男たちに頼んでそれらすべても積んだ。愛用のコップや小物なども当然のように、持っていくと言って聞かない。


「あとは……もうないか?」


 家の中にはもうほとんど何も残っていなかった。親子三人で寝ていたであろう大きなベッドと、料理に使っていたであろう薄汚れた鍋類ぐらいしか残っていない。結果的にほとんど全部持ち出すことになってしまったわけだ。


 グレアムは苦笑しながら改めて家中を観察し――そこで、「ん?」と思った。


 ベッドが置かれている床に、微かな切れ目を発見したからだ。密偵などの特殊訓練を受けたような人間でもなければまず気付かないような細い線だったが。


(まさかな……)


 そう思いつつも、重いベッドを僅かにずらした。

 腕力のある彼ですら動かすのが至難なぐらい、なぜかほとんど動かなかった。


 それでもなんとか切れ目のある床が視認できるまでには移動させられたので、その状態で調べてみた。


 それほど大きくはない四角い切れ目。人の頭二つ分ほどの大きさだったが、グレアムはナイフを使って慎重に探っていき、そして、とある一点に触れたときにカチャッと音がした。


 目視では視認できなかったが、切れ目の一部が陥没するような仕組みになっていたらしく、そこがロックを解除するスイッチになっていたようだ。

 微かに浮上した床の一部を掴んで、それを上方へと開く。


「これは……」


 どうやら小さな隠し収納場所となっていたらしいその中には、七色に輝く凸凹した四角い道具箱のようなものが収められていた。更には、この世界では高価な部類に当たる革表紙で装丁された一冊の古びた本まで。

 それらを取り出し呆然としていると、


「あ、おとうたまの!」


 すぐ近くで不思議そうに様子を窺っていたラフィが嬉しそうに大きな声を出した。


「これ、ラフィの父親のものか?」

「うん~~! そのキラキラで、おとうたまいつもなにかつくってたのです!」

「作っていた?」


 一見すると道具箱のような感じだし、何かの工具類でも収められているのか?

 そう思って、箱を開けようとしたのだが、


「あれ? 蓋がない?」


 道具箱だと思っていたそれには、蓋どころかいっさいの切れ目がなかった。


(まさか、道具箱じゃないのか?)


 だったらこれはいったいなんなのか。これを使って何をどうやって作っていたというのか。


「なぁ、ラフィ、君の父親はこれをどうやって使っていたんだ?」

「ん~?」


 ちびっ子は言葉の意味がわからないのか、それとも必死に思い出そうとしてくれているのか。ともかく、


「よくわからないのです!」


 そう答えるだけだった。

 仕方なく、グレアムは古びた本も慎重に開いてみたが、案の定と言うべきか。古代の文字なのかそれとも未知の何かなのか。そこに何が書かれているのかまったくわからなかった。


(参ったな。かえって謎が深まってしまったぞ)


 ラフィの両親が何者なのか、本当に死んでいるのか生きているのか。

 この世から消滅してしまったのは事実のようだが、いまいち釈然としない。

 グレアムは家の中をキョロキョロしている幼子を見ながら、「まぁいいか」と、考えるのを止めにした。


(とりあえず今はな)


 そう微笑みながら。

お母様が作ってくれたラフィのお洋服ですが、おそらく、一着時価、大金貨一枚とかそのぐらいの価値がある芸術品です。

お貴族様たちが見たら、きっと大騒ぎすることでしょう。


【次回予告】

 21.さようなら(ラフィ視点)


※次話エピソードのタイトルには、敢えて誰の視点かわかるように明記してあります。

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