0.プロローグ
本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます。
以前公開していたものを読みやすく再編集しました。
楽しんでいただけたら何よりです。
(俺の人生もこれまでか……)
そのおじさんは混濁する意識の中、心の中で苦笑した。
死の病魔に冒されながらも、ここまでよくもった方だと思う。
どれぐらいの入院生活だったのかすら今となっては思い出せないが、それでも、不自由を強いられたことは一度もなかった。
それもこれもすべてはあの娘のお陰。
あの娘がいろいろ気を回してくれたからだ。
(あぁ……)
願わくば、もっと彼女と話をしてみたかった。
だけれど、これ以上は欲張りというものだ。もう十分だろう。
最後に残っていた心残りも既に他の娘に託してあるし。だから、
(もし叶うなら……今度こそは……)
おじさんの呼吸が徐々に弱くなっていく。
集中治療室に運ばれた彼の周りを大勢の人間が忙しなく動いていた。
そんな中、彼は最後の気力を振り絞って微かに瞼を見開いた。
視界の片隅で、一人の娘が涙を浮かべながら祈るように口を動かしている。
『来世こそはきっと、素敵な人生が歩めますように』と。
それが、おじさんが今生で見た最後の風景だった――
◇
「世界は巡る」
誰かが茫漠とした世界で呟いた。
その瞬き程度の一言が一瞬なのか、それとも永劫なのかはわからない。
「けれど、私は知っている」
先頃、本来あるべき場所へと還ってきた一つの魂。
それが次にどこへ飛んでいったのかは誰にもわからない。
「だけれど、私だけは知っている」
一面真っ白な雲海を漂う無数のそれら。
うねるような長い列がやがて終わり、ようやく自分の番が来た彼女は、一足先に飛んでいったアレを追いかけるように、取得したばかりの『因果律の螺旋くびき』を駆使して、その場から消えていった。
嬉しそうに揺らめく残像を、その場にきらめかせながら。
ここまでお読みくださり誠にありがとうございます。
がんばって執筆して参りますので、今後とも応援、ご愛読のほど、よろしくお願いいたします。
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