表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国を追われた元最強聖騎士、世界の果てで天使と出会う ~辺境に舞い降りた天使や女神たちと営む農村暮らし  作者: 鳴神衣織
【第一話】森での出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/112

14.手がかりを探して

 内部は入ってすぐのところが調理場で、右手側が一つの部屋となっているだけの狭い建物だった。


 部屋の中央に大きなベッドが一台ある他は、壁にタンスがいくつかあるだけ。

 そして肝心の遺体はどこにも見受けられなかった。


 誰かが争ったような跡こそあったものの、飛び散った鮮血の跡も見られない。


「いったいどういうことだ……?」


 狐につままれた気分のまま、室内を観察していると、


()()()()、めをあけてもいいですか?」


 我慢できなくなったのか、ラフィがもぞもぞし始めた。

 仕方なく、グレアムは「あぁ」と一瞬反応しそうになりかけるも、


「ぐ~たん?」


 幼子が発した「ぐ~たん」なる言葉が気になり、思わず問い返していた。


「うん~。おなまえがグレアムだから、ぐ~たんなのです」

「そ、そうか」


 たった一日しか経っていないというのに、知らない間に可愛らしい愛称をつけられてしまったものだ。一瞬たじろぐグレアムだったが、


「よ、よし。もう目を開けてもいいよ」


 そう返事をし、彼女を床の上に下ろしてあげた。


「わ~……ラフィのおうちなのです! ひさしぶりなのです!」

「久しぶり?」


 床の上をぴょんぴょん飛び跳ね、タンスやベッドを物色し始める幼子。


「はいなのです~。わるいひとたちがきて、おとうたまとおかあたまににげなさいいわれて、ずっと、ピカピカしているところで、かくれていたのです!」

「なるほど……そういうことか。それで、久しぶりって言ったのか」

「うん~~」


 楽しそうにはしゃぐラフィ。その姿を見る限り、彼女の家はここで間違いなさそうだ。


(妙に生活感があることから考えてみても、おそらく長い歳月、親子三人仲良くここで暮らしてきたんだろうな。それこそ、ラフィが生まれたとき、あるいはそのずっと前から)


 しかしそれなのに、そんなささやかで平穏な毎日だったのに、いきなり賊が現れすべてが壊されてしまった。


 両親に逃げろと言われ、一人聖域まで逃げるしかなかった幼子の姿が思い描かれ、グレアムは胸が痛くなってしまった。しかし、同時に、妙な引っかかりも覚えていた。


(ピカピカしているところで隠れていた、か。聖域の外ならまだいいが、内部となると話は別だ。どうあがいても、あの中には入れないはずだからな)


 聖域内には何人たりとも入れない。そう言い伝えられている。にもかかわらず、万が一、隠れていた場所が聖域内だったら?


(それから、ラフィの両親についてもわかってないことが多すぎる)


 逃げろと言ったあと、二人はどうなってしまったのか。

 グレアムはどうしようかと思ったが、このまま家の中を調べていてもらちがあかないと判断し、苦悩の末、両親のことを尋ねてみることにした。


「なぁ、ラフィ。その、なんだ。辛いかもしれないけど、ラフィのお父さんとお母さんが今どこにいるかわかるか?」


 沈鬱(ちんうつ)な表情を浮かべながら問いかけるグレアムに、最初ラフィはきょとんとしていたが、すぐに首を傾げて口を開いた。


「おとうたまとおかあたまは、ラフィのおむねのなかにいるのです。わるいひとたちにいじめられて、ピカってひかって、ラフィのめのまえできえちゃったのです。でもでも、おかあたまがいってたのです。おとうたまとおかあたまは、ずっとラフィのここにいるって」


 幼子はそう言って、自身の胸をポンポン叩いた。

 幼い子供に死の概念はわからないだろう。

 だから心の中で生き続けるという意味で、彼女の両親が教え諭したのかもしれない。


 しかし――


 もしもラフィが教えてくれたことが、本当に言葉そのままの意味だとしたら、『光って遺体も残らず消滅してしまった』ということになる。

 これは、別の意味で大問題だった。


(今までいろんなもん見てきたが、さすがにそんなおかしな術使える人間がいるだなんて話、見たことも聞いたこともないぞ? まさかとは思うが、ラフィの両親は人間じゃないのか?)


 しかし、今の段階では情報が少な過ぎて、それ以上何もわからなかった。

 仕方なく、グレアムは胡乱(うろん)げに幼子へと視線を向けた――のだが、


「あ……おにんぎょう! おにんぎょうさんがあったのです!」


 知らない間にベッドの上に乗っていたラフィが、彼女と同じぐらいの大きさの、クッションのようなものを手に持ってキャッキャしていた。

 よく見ると、それは不格好なウサギのような姿をしていて、背中に翼まで生えていた。

 グレアムにはそれがなんの生き物なのかよくわからない。


(空想上の生き物か?)


 軽く思考を巡らせてみたが、すぐに打ち消した。


「ラフィ」

「うん~?」

「ここが君の家で間違いないんだよな?」

「はいなのです」

「君のお父さんとお母さんは本当に消えてしまったけど、今もまだ、胸の中で生きている。そういうことでいいんだよね?」

「うん~」

「そっか……」


 幼さゆえか、ラフィの説明は要領を得ず釈然としないものがあったが、納得するしかなかった。


 彼女の両親が本当に死んでしまったのかどうかはわからない。しかし、急に目の前からいなくなってしまったのに、彼女はこうして明るく振る舞ってくれている。


 本来ならずっとしょげかえっていてもおかしくないはずなのに。


 幼心ながらにも無理しているだけなのか、それとも親の言葉を信じて、いつも両親と一緒にいると感じ取れているからなのか。どちらなのかはまったくわからない。


 もしかしたら、本当に胸の中に両親がいて、彼らの温かさを常に感じ取れて、更にはグレアムという甘えられる親代わりが身近にできたことで、平然としていられるだけなのかもしれないが。


 いずれにしろ、これ以上ここを調べていても答えは出なさそうだった。


「あとはピカピカ光っているっていう場所か」


 一応念のため、ラフィが隠れていたという場所も確認しておく必要があるかもしれない。そこに、彼女の身元や両親に関する何かの手がかりが残されているかもしれないから。


 グレアムはぬいぐるみを抱きしめたままのラフィを伴い、小屋の外に出た。

 家の出入口前で瞑目し、彼女の両親へ祈りを捧げる。


 依然、彼らの安否は不明だ。それでも、状況から察するに、おそらくもうこの世には存在しないのだろう。

 だからあとのことは任せろという意味で、祈りを捧げた。


 その後、グレアムはラフィやマロの指示に従って、更に森の奥へと分け入っていった。

 そして、それを視界に捉える。


 霧の立ち込める鬱蒼(うつそう)と生い茂った森。


 木漏れ日とは明らかに違う、青や白といった淡い光が周囲に満ちあふれている面妖な場所が目の前に広がっていた。

うさぎのぬいぐるみはラフィのお気に入りの一つです。

背中の羽は天使の羽みたいにちっこいのがついてます。


【次回予告】

 15.聖域


※6/1~2 は二話ずつ更新となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★ 以下作品も好評連載中です。ご愛読くださると幸いです ★

【 転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います】

30年前の世界にタイムリープしてしまった主人公が、お嬢様を死守していく主従愛強なお話です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ