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国を追われた元最強聖騎士、世界の果てで天使と出会う ~辺境に舞い降りた天使や女神たちと営む農村暮らし  作者: 鳴神衣織
【第一話】森での出会い

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12.妖精のように可愛らしい女の子

 翌朝。


 昨日のうちにマルレーネに手伝ってもらって、グレアムはラフィの身体についた汚れを落とし、ついでに服も新調してあげた。


 普通の子供のようなキレイな姿になったラフィは、まるで別人のようだった。


 というより、伝承のみで語り継がれている妖精と瓜二つといっても過言ではないほど、その姿は見目麗しく愛らしい女の子へと変貌を遂げていた。


(やはり、風呂様々だな。普通のやり方だと、こうもキレイにはならなかっただろうしな)


 グレアムはこの村に定着している入浴文化に思いを馳せ、改めて感心してしまった。


 というのも、本来、この世界には入浴の習慣なんてものは存在していなかったからだ。


 定期的に身体に付着した汚れを新鮮な水と布で洗い落とすだけ。それが本来のあり方だ。


 魔法が使える者たちはそのまま飲むことすら可能な清水(きよみず)を生み出してそれで洗うが、魔法が使えなくても富裕層や貴族たちは高価で知られる魔導具や魔法スクロールを頻繁に購入できるため、それらを使って桶に水を張り、身体を洗える。


 しかし、平民や貧困層はそんな真似はできないので、井戸から汲んできた水を煮沸して、それを冷ましてから布に浸して身体を拭いたり髪を洗ったりするだけ。


 この村も昔はそういった手法が取られていたが、いつからか、()()()()()()()言い出したマルレーネの発案で入浴という概念が導入されたため、湯に浸かる文化が根付いたのだ。


 具体的にどうやるのかは不明だが、水を浄化する作用のある薬草などを一緒に風呂に入れ、一度に大量の水を煮沸して湯に浸かるらしい。


 無論、際限なく井戸水を使えばすぐに()れ井戸になってしまうので、宿に併設されている共同浴場や孤児院などの一部施設、村長宅、そしてグレアムの家に専用の風呂場が設けられているのみ。


 湯に浸かりたい場合には共同浴場に行き、そうでない者は通常通り、汚れを落とすに留める。


 そんなわけで、昨夜は自宅の風呂でマルレーネがラフィをキレイに洗ってくれたお陰で、他の村の子供たちとは似ても似つかないぐらい、愛らしくなっていた。


「なんというか、本当に見違えたな。さすがマルレーネだ。子供の扱いに長けている」


 グレアムは自宅の寝室からリビングに現れた幼子とマルレーネを見て、ぼそっと呟いた。


 既に朝食も済ませており、昨日の今日ではあるが、早速今からラフィを連れて森へ調査に出かけることにしたのだ。


 とはいえ、子供の世話などしたこともないグレアムだったので、昨日は結構大変だった。


 一応、マルレーネが食事やら身なりやらの面倒を見てくれたので、結果的に自宅で寝かしつけるだけでよかったものの、精神力はごっそり削られた。


 今朝に関しても似たようなものなので、朝早くから彼女が手伝いに来てくれたというわけだ。

 そんなわけで、幼子はかなりおめかしされていた。


 ボサボサだった白銀の髪はツヤッツヤに光り輝き、サイドツインテになっている。


 昨日着ていた衣服はもしかしたら大切なものかもしれないということで、捨てずにマルレーネが洗濯してくれるとのこと。


 その代わりに、今は新調した衣服を身につけている。

 薄いレモン色の、フリルのついたワンピースと、白いレース地の靴下。


 この国はおろか、聖教国や共和国でもあまり見かけないデザインの服装だったが、この村ではある意味、民族衣装みたいな当たり前の服として認知されている。


 これも、風呂と同じでマルレーネにすべての原因がある。


 普通に辺境の村で流通している服のデザインや生地が気に入らないとかで、幼い頃からマルレーネが服飾職人にわがまま言って、いろいろ作らせたのだとか。


 始めの頃は村人全員戸惑っていたらしいが、今ではすっかりお馴染みの格好となっている。


 服を作るために必要な糸の一部も、このためだけに村の周辺で栽培されているぐらいだ。


「あとは髪飾りがあれば完璧だな」


 靴を履いて家の外に出るなり、グレアムは知らず知らずのうちに、ぼそりと呟いていた。


 ちびっ子の愛らしい姿を見ていると、妙に胸が温かくなってきて、優しい気持ちになってくる。


 なんだか随分と以前にも、こうやって娘みたいな可愛い女の子の相手をしていたような気がして仕方がない。本来、グレアムももう結婚して十歳ぐらいの子供がいてもおかしくない年だから、もしかしたらそれが原因でそう感じているだけなのかもしれないが。


「なんだかもう、すっかりお父さんみたいですね」

「へ?」


 あまりにも愛らしい姿を前にして終始ニコニコしていたら、マルレーネが意味深に笑った。


「昨日だって、最初は孤児院に一時的に引き取らせようとしていたというのに、結局家まで連れ帰ってしまいましたし」


 目を細めて笑う彼女に、グレアムは焦る。


「いや、それは俺のせいじゃないと思うのだが? ラフィが離れたくないって言ったからであって」

「はいはい。そうですね。ですが、もし今日ラフィちゃんの身元が判明して、正式に身寄りがないとわかったら、グレアムさんはどうされるおつもりですか?」

「ん~……それはやっぱりあれだよな。そういうときのための孤児院――」

「だぁめぇです」

「え……?」


「あそこはもう、これ以上子供たちを増やせないんですよ。お金も足りませんし、何より、寝泊まりするスペースもありませんから」

「そうなのか……」

「えぇ。ですので、もし最悪の事態になったら、ご自身でなんとかしてくださいね。何しろ、自分で連れてきたのですから」

「そう言われると、返す言葉もない……」


 子供の世話なんかしたことがないので一人困惑するグレアムだったが、そんな彼に、マルレーネは絶やすことなく愛らしい笑顔を浮かべていた。


「それでは、私はこれで。ギルドの仕事や子供たちの世話がありますので」

「あぁ。とにかく助かった」

「はい」


 三人は連れたって敷地の外に出た。

 グレアムの家は、村から少し離れた丘の上に立っている。

 マルレーネは軽くお辞儀してから、周囲に広がる田園畑の間を走る農道のような砂利道を通りながら、村へと帰っていった。


「じゃぁ、俺たちも行くか」


 気を取り直して、グレアムは足下で白猫マロと戯れていた幼子に声をかけた。

 ラフィはしゃがんだまま顔を上げ、


「うん~」


 きょとんとしながら元気よく返事した。

この村の人たちは、基本的に飲料水は井戸水を煮沸し、不純物を除去して飲み水にしています。

ただ、ミネラル成分など、水の硬度の問題もあるので、身体に合わない人は合わないみたいです。

以上のことから、そのままの水を身体にぶっかけると、皮膚からいろんなものが吸収され身体を壊すことがあるので、禁忌として入浴の文化が根付かなかったようです。

蛇足でした(ぺこり


【次回予告】

 13.再び森へ

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