11.あなたはどこから来たの?
レンジャーギルドは一般的に、待合酒場とギルド業務二つを兼務している支部が多い。
カラール村も例に漏れず、ギルド入ってすぐのところが酒場になっていて、丸テーブルと椅子がいくつか設置されている。
その酒場部分から更に奥へ行くと、空きスペースが設けられ、左右の壁際に緊急の仕事が張り出される掲示板が置かれている。そして、そこを更に過ぎた店内最奥すべてが受付カウンターとなっていた。
受付カウンターの右手側はカウンター内右手奥に作られている厨房から食事を運んでこられるようにと、カウンタードアだけとなっている。
対して受付カウンター左手奥には支部長室や応接室などがある。
グレアムたち三人はカウンター内に入ると、そのまま応接室へと移動し、ソファーの上にラフィを座らせた。
その上で、きょとんとする彼女の前に大人二人がしゃがみ込む形となる。
「ねぇ、ラフィちゃん」
子供の相手は慣れているマルレーネに任せておけば、すべて丸く収まる。
そう思って、グレアムはさじを投――彼女にすべてを委ねることにした。
「……うん~? なんですか?」
若干、舌っ足らずな愛らしい声が返ってくる。
「あなたがどこから来たのか、お姉さんに教えて欲しいな」
「ん~? んと、もりなのです」
「え?」
どうやらマルレーネはラフィの言っている意味が理解できなかったようで、一瞬固まってしまった。しかし、すぐさま気を取り直す。
「うん。そうだよね。さっきまで森にいたよね」
「うん~」
「じゃぁ、その前はどこにいたのかわかるかな? お父さんとお母さんは?」
にっこりと微笑みながら問いかける、聖女もかくやと思えるほどの優しげな声色だったが、何かを思い出したのか、ラフィは表情を曇らせ俯いてしまった。
「ラフィ……もりにいたのです。おとうたまとおかあたま、わるいひとたちにいじめられて、きえちゃったのです。ラフィのおむねのなかにいるのです……」
ぼそぼそと呟くように、俯きながら彼女はそうマルレーネに答えた。そしてそのまま押し黙ってしまい、何も話してくれなくなってしまった。
マルレーネはどうしていいかわからなくなってしまったようで、グレアムを見た。
「これって、どういうことでしょうか?」
「……わからない。だが、普通じゃないことは確かだろうな。身元もわからないし、ラフィが言う消えてしまったというのも意味不明だ。あの奴隷狩りどもも絡んでいるしな」
「そうですね……。もう少し時間をかければ、ラフィちゃんも気持ちが落ち着いて、わかるように説明してくれるのかもしれませんが……」
だが、落ち着いても一向に要領が得られないかもしれないし、もしかしたら、彼女の親が今もなお、血眼になって探しているかもしれない。もしそうなら、早く親子を再会させてあげたかった。
「とりあえず、ラフィが言ってる意味もよくわからんから、一度、彼女に案内してもらって、もう一度、森に入った方がいいのかもしれないな。森の中にいたって言ってるし、もしかしたら、あそこに何かあるのかもしれない」
アヴァローナの森には、幻獣が住む聖域があると言われている。何があっても不思議ではなかった。
「そう……ですね。ラフィちゃんが何を意図して、そう答えたのか私にはわからないですし、その辺もお願いしてよろしいでしょうか?」
「あぁ。薬草の件もあるしな。準備が出来次第、明日もう一度行ってみるよ」
グレアムが微笑むと、マルレーネは軽く会釈をした。
「お願いします。ですがその前に、この子をこのままの格好でいさせるのもなんですし」
そう言って、彼女は再びソファーに座るラフィを見た。
グレアムもつられて見つめる。
相変わらず、薄汚れた格好をしている幼子は、俯いたまま右手で左人差し指の爪をいじるようにしていた。
ギルドの基本的作りは大体どこも同じですが、カラール村は辺境にある田舎村なので、本当に規模が小さいギルドです。
普通の下町にある酒場に、ギルド業務が行えるカウンターがついている、といったイメージでしょうか。
【次回予告】
12.妖精のように可愛らしい女の子




