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国を追われた元最強聖騎士、世界の果てで天使と出会う ~辺境に舞い降りた天使や女神たちと営む農村暮らし  作者: 鳴神衣織
【第一話】森での出会い

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9.村に帰還したらいろいろ絡まれた

 夕刻、自警団員たちと一緒に村に戻ったグレアムは、賊どもの処理はすべて彼らに任せ、自身はラフィを伴い中央広場へと向かうことにした。


 賊どもはこのあと自警団に連れられ、いったん、村役場の地下牢へと押し込まれることになる。そこで厳しい尋問を受けたのち、この村の管轄都市である商業都市シュラルミンツから派遣されてくるはずの役人に引き渡され、連行されていくことになるだろう。


 その上で、もし彼らが本当に奴隷売買に関わっていたのであれば、その背後関係を徹底的に洗いざらいしゃべらされる。


 そして、すべてが終わったとき、おそらく彼らに待っているのは極刑――即ち、処刑だろう。


 グレアムは一度、自宅に戻ろうかとも思ったが、立ち寄らずに東門まで同行したので、その足でレンジャーギルドに顔を出すことにした。


 本来の目的は薬草採取だったが、それどころではなかったので、まだ任務が完了していないことを伝えておく必要があったからだ。何より――


 グレアムは東門から中央広場へと続く道を歩きながら、村に帰る途中で目を覚ましたラフィに視線を送った。


 彼女はグレアムの左腕に腰を下ろすようにしながら、首にしがみついている。


 村に入ってからというもの、物珍しそうに、忙しなく周囲の町並みを観察していた。


(この子の扱いをどうするか、一度相談しないといけないからな)


 先に戻っていった村長とも話したが、ラフィはまだ事件直後で精神状態が安定していないだろうからと、直接事情を聞くのは避けて、まずはギルドで身元を問い合わせてみろと言われた。捜索願が出ているかもしれないから。


(村長の言うとおり、ずっとひとりぼっちで不安だったろうし、怖い思いもしただろうからな。とりあえず、情報が集まりやすいギルドで調べてもらうのが一番だろう)


 レンジャーギルドは世界中に支部があり、毎日のように伝書鳩や人力などで情報のやりとりがなされている。そのため、ある程度、行方不明者の情報も出回っている。


 聖教国や魔導帝国などでは、グラーツ公国と違って原始的なやり方ではなく、それぞれの国が開発した魔法技術によって、遠隔地にありながらもかなり速い速度で情報のやりとりがなされているので、この国とは雲泥の差がある。しかし、


(あっちに比べたら確かに遅いが、この大陸屈指の情報伝達網であることに変わりはないからな。利用しない手はない)


 グレアムはそう思いつつも、一方では、


(しっかし、聖教国か……。あっちの情報網にはホント、うんざりさせられたよな……)


 逃亡生活中だった数年前のことを思い出し、げっそりした。


 伝達速度が速いということは、即ちお尋ね者情報までかなりの速さで出回ってしまうということでもあるからだ。そう、故郷を追われたグレアムの情報まで。


 ゆえに、聖教国に滞在していたときは本当に面倒くさかった。驚くべき速度で指名手配の情報が流布されてしまったから。


 グラーツ公国に来る前に逃亡の地として選んだ、聖教国より東に位置するヴァルカー共和国にまで、名前と人相書きが知れ渡っていたくらいだし。


 幸い、共和国ではお尋ね者というよりも、冒険者時代の二つ名である『剣聖』としての知名度の方が高かったから、「どうせ陰謀にでも巻き込まれたんだろう」と、みんな同情的で指名手配リストを信じる者はほとんどいなかったが。


(とはいえ、どこにでも腹黒い人間はいるからな)


 そのまま居座ると必ず面倒事に巻き込まれるのは目に見えていたので、長居することなくグラーツ公国まで逃げてきたが。


 この小国家では聖教国などで使われている情報伝達方法が確立されていないのと、レンジャーギルド自体が他の国とはほとんど交流を持っていないので、比較的安全だったからというのも逃亡先に選んだ理由の一つだった。


 情報網も独自ネットワークを確立しているし、グレアムが指名手配犯だということはおろか、剣聖だったということもほとんど伝わっていない。


 だからこそ、この地に来てからの五年間は、故郷にいた頃とはまるで別人と思えるぐらい、脳天気な日々を過ごせるようになっていたのだが。

 ともあれ、レンジャーギルドとはそういう施設だった。


(親兄弟が見つかればいいんだけどな)


 グレアムは物思いに(ふけ)りながら、東門通りを抜け、村の中で一番大きい中央広場へと出た。

 そしてそのまま、淀みない足取りでギルドの扉を潜り、周囲をキョロキョロする。

 彼の姿を認めた客や接客中のギルド嬢たちが一斉に変な顔をした。


「おいおい。今度はいったい何やらかしたんだ?」


 入ってすぐの待合酒場右側テーブル席にいた冒険者が早速食いついてくる。

 グレアムはこの村ではすっかり有名人になっている上、村の冒険者はほとんどが村人である。そのため、互いに仲がよく、しょっちゅうからかい合うような間柄だった。


「お前らな……やらかすとか人聞き悪いこと言わないでくれるか?」

「だってよぉ、おめぇは実力だけは飛び抜けて高いのに、何かというとヘマばっかやらかすからなぁ」

「だな。ったく、天然って言やいいのか、それともにぶちんの勘違い野郎とでも言えばいいのかねぇ。こないだも、ただ木を一本切り倒してくれりゃそれだけでよかったのに、間違って近くにあったおんぼろ小屋まで魔法でぶっ飛ばしちまったからなぁ」

「あぁ……そんなこともあったっけなぁ……くく」

「ホント、おめぇさんには呆れを通り越して、ある意味、尊敬しかないぜ」

「まったくだ」


 おっさん冒険者三人組は言いたい放題言って、ひとしきりゲラゲラ笑ったあと、エールの入った木製ジョッキをあおった。そして、


「……で? そのちっこいのは誰の子供なんだ?」


 おっさんの一人がニヤニヤしながら意味深に聞いてくる。

 グレアムは相手が何を言いたいのか察し、うんざりして溜息を吐いた。


「あのな……言っとくが、この子は俺の子供じゃないからな?」


 しかめっ面で文句を言ってやったのだが、相変わらず面白そうにしているおっさんたちはまるで意に介さない。


 キヒヒと仲間内でニヤニヤしながら、更に何かを言おうと口を開きかけたが、その前に、先程からもの言いたげにこちらをじっと見つめていたギルド嬢トリオが、なぜかしかめっ面のまま近寄ってきた。


「まったく……いつかやるんじゃないかと思ってたのよね」

「ね~。ホント、やらしいったら」


 腕組みしながらやたらと冷ややかな視線を向けてくる娘たち。


(おいおい、こいつらもかよ……)


 よく見知った娘たちの反応に、グレアムは余計にげっそりするのだった。

グレアムさんは、故郷である聖教国ではそこら中で追いかけ回されていました。

面倒になって共和国に逃げたあとは、比較的安全でしたが、それでも気が休まることはありませんでした。

そこで、次の候補地としてグラーツに向かったわけですね。

その結果、今ではすっかり、『グレアムと愉快なおっさんたち』のできあがりというわけです。


※本日(5/27)もう1エピ更新予定です。


【次回予告】

 10.勘違い娘たち

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