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変わろうとしてる

「リモネ。ごめん」

「……無理」

 あたしなんかを追いかけて来た男は、これ以上何をすることも出来ないみたいだった。

「ごめん」

 謝ることしかしてこないじゃん。

「無理だって」

「ごめん。……リモネ」

 可哀想なあたし。あんなに頑張ったのに。嫌なこともやって、頑張ってお金を集めたのに。それなのにリヴァイがあっちを選んじゃうなんて、もうあたしにはどうしようも出来ないじゃない。

 悔しい思いと、無力な自分に虚しくなる。

 ううん。欲しいものが手に入らないのは嫌だ。

「リヴァイが居ないと無理なんだって……!!」

 あたしはわんわんと泣いた。演技なんかしなくったって、この人のことを好きだと思い込ませなくたって、勝手に涙が止まらない。ちゃんとあたしだってリヴァイのことが好きに決まってた。

 トントンと肩を叩いて行くれる手が大好きで、頬ずりしてくれるこの人のことを愛してるのはあたしだけなのに。あとはどうしたらあたしの側にいてくれるんだろう。

 分からないまま泣きじゃくって本当嫌な女みたい。あたしが何をリヴァイに強く言いつけたのか自分でも聞こえない。溢れるみたいに口に出したら、その瞬間からどんどん消えて忘れていく。

 そうしたらリヴァイは、腕に力を込めながら「僕が間違ってた」って言った。

「愛をお金で買うのは正しいよ。お金を愛で手に入れるのだって正しくないはずがない。君は最初、僕のことをお金だと思って愛を向けてくれてくれたんだ。でも今度は、僕から君への愛をお金で買ってくれた。リモネはいつも自分の信念で僕と向き合ってくれてたのに、僕がひねくれてたね」

 軽く頬にキスをしてくれる。

「君にとっての『お金』は君自身で。『愛』でもあったんだよね」

 あたしとリヴァイは目を合わせる。泣き過ぎて重たいまぶたは、たぶんおかしいことになってるだろう。だけどリヴァイはどうしてスカッと晴れたような目をしてるの?

 たまらずにあたしは苦笑した。

「頭、変だよ。ずっと何言ってんのか分かんない」

 リヴァイも苦笑した。

「わ、分からなかった? えっと、だからさ……」

 一生懸命に説明されるほど、あたしの頭はこんがらがっていくだけだった。

 あたしはただリヴァイが側に居てほしかったってだけなのに。お金とか愛とか言われて、何故かパフェも例え話に入れて話されたって、全然分かんない。

「作家って嫌い。難しいこと考えすぎ」

「え? 何も難しくないんだけどなぁ」

 そのあとも色んなことを言ってたけど全然分かんない。例え話とか昔の恋愛物語だって、あたし詳しくないし。


「ねえ、そんなことよりさ。あのミュンヘンって人は、リヴァイの何なの?」

「えっ。それは昔に約束があって」

「そうじゃなくって。元カノ? 愛人? まさか今も片想い中なんてことないよね?」

 あたしの生き方ことなんかより、よっぽどこっちの方が重要なんだけど。

 リヴァイは「えーっと」なんて言いながら背筋を正そうとした。そうはさせないと思って、離れていきそうなリヴァイの腕をあたしから繋ぎ止めて引き寄せる。

 逃げずに答えてよ。って、ちょっとした願掛け。今はまだ抱き締めていてくれないと怖い。

「……早く答えて。言いにくいわけ?」

「違うよ。自分でもよく分からないんだ」

 出た出た。鈍感な男あるあるじゃん。それって自分自身では恋だってはっきり分かってないけど、気にはなってた時点で若干その気があったってことじゃん。

「うーん、尊敬してた。かな? 僕の人生を変えてくれた人だから?」

「……」

 あー。イライラする。聞かなきゃ良かった。

「リモネ?」

「なに」

「怒ってる」

「当たり前でしょ!」

 あたしが怒るといつもリヴァイの機嫌が良くなる。今だって嬉しそうに鼻唄を歌いだした。髪の匂いを嗅がれて、またリヴァイの幸せそうな微笑が聞こえる。

「僕はリモネが好きってことしか分かりたくないよ」

「……無理。答えになってない」

「じゃあ初恋だったってことにしておいたら良いかな?」

「それはやだ」

 わがままだってリヴァイがあたしの頬をつねる。普通に痛いからあたしだってやり返す。……でも。

「もう! 良いところなんだから! 邪魔しないでしょ!」

 邪魔者がいた。さっきからあたしの服をペンギンがくちばしで引っ張っていた。

「ねえ、このペンギンなんなの?」

「ヴィレインワーゲンだよ」

「は? 種類?」

「ううん。彼の名前。高貴な身分だからちゃんとフルネームで呼んであげないと怒るんだ」

 怒る?

 このペンギンは、別にあたしが「クー」って呼んでも怒らなかった。むしろ頭を撫でてあげたら目をつぶって気持ちよさそうにしてたけど。


 帰り道は、同じ歩幅の二人の靴音と……ペタペタ。

「ペタペタ?」

 そう。ペンギンがついて来る。なんとかワーゲン。

 困ってるあたしをよそに、リヴァイは微笑んでこのペンギンに好感的だった。

「今度はリモネに付いて行くことにしたの?」

「だから何なのこのペンギン」

 名前を知りたいんじゃなくて。街中でペンギンを連れてるなんて異常なんだけど。通りでも駅でも色んな人がびっくりして見てるじゃない。

 リヴァイはこのペンギンと知り合いらしいけど、詳しいことについては何も知らない。

「愛の象徴だったりしないかな?」

「そういうのやめて」

 リヴァイは、はははと笑う。作家のクセだって言うけど、ほんとそういうのは全然ロマンを感じないあたしだ。

「エサ代かかるじゃん」

「ヴィレインワーゲンは魚の缶詰が好きだったはずだよ?」

「えー。違うよ。フライドチキンだよね。クー?」

「クー?」

 なんとかワーゲン……いや、ダサっ。

 クーは、やっぱりフライドチキンが好きだから、あたしの言葉に対してだけ「クエー」と、可愛い声で返事をしてくれる。

 電車がやってきて、あたしとリヴァイと当然みたいにクーも乗り合わせた。もともと居た乗客は珍しがって近付くどころか、逆に気味悪がって別の車両に逃げて行く人の方が多い。おかげで席にも楽々座れちゃって便利。

「お前は良い子だなー。今日はクーと一緒に寝ちゃおうかー」

「ええっ!? ダメだよ!! 絶対にダメだ!!」

 この過度なリヴァイの反応が笑える。

 そして同時にあたしはちょっと安心したかな。

 いつもわがまま言って、無理とか嫌とかばっかりでごめんねって気持ちも起こった。

「着いたら起こして」

 リヴァイの肩に耳を乗せて目を閉じる。

 呼吸の音が聞こえて、大好きな匂いがして、手を繋いでいるから暖かくて。

「リヴァイ、大好き」

「……」

 どう? 完璧?

 反応を見てやるつもりだったのに。あたしは瞬間で眠りに落ちちゃった。

 電車がガタンと揺れてリヴァイの声がした。「僕を変えてくれたのは君だよ」って。そんなの、あたしだってそうだよ。

 あなたを選んだから、あたしもきっと変わろうとしてる。


 見覚えのある駅に到着した時、嬉しそうにくっついてくるこの人が居るなら。もう何も望まないし、いらない。

 あたしらしさなんて知らないけど、今はこんなのが幸せって思えるあたしで。好きなんだ。

(((これにて完結です!!

(((最後まで読んでくださり、

(((ありがとうございます!!


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