玉ねぎがないなら、
「自治政府を? 玉ねぎの為に? わが国民は、そんなに玉ねぎが好きだったか?」
報告を受けたジパングの国王ヤマト16世は首を傾げた。
「コメではなく?」
「玉ねぎは子どもの好きな料理に入っておりますので。カレーとか、ハンバーグとか」
畏まって宰相が答える。
「朕は嫌いじゃぞ」
幼少のみぎり、ヤマト16世は、教育の一環として、家庭教師から玉ねぎを無理矢理食べさせられた過去があった。
「あんなに辛い野菜を、のう」
「それは、宮廷のコックの下処理が下手くそだったせいでしょう」
さらりと宰相が躱す。
「第一、品種改良で、最近の玉ねぎはとても甘くなっているのです」
「知らんかった」
ソースに混ぜ込まれている細切れの玉ねぎでさえ、スプーンの先で避けて食している王である。知らなくても無理はなかった。
「陛下」
宰相が威儀を正した。
「ことは、不作だけの問題ではありませぬ。政治、経済、外交、ジパングの全てが、国民から問われているのでございます」
「なんとかせねばならぬな。早急に義援玉ねぎを用意せよ」
「私の話を聞いておられなかったんですか? 玉ねぎはとても高価なんですよ? 巷では匂う宝石ともいわれています。全国民に行き渡るほど用意できるわけがございません」
「王家の私財をつぎ込めばよいではないか」
「陛下」
宰相はため息をついた。
「外国での戦争へ軍を派遣したおかげで防衛費が膨らみ、ただでさえ財政は火の車です。その上、出る杭は打ちまくるという国民性のせいで人材が育たず、成長産業分野の人手が全く足りていません。優秀な人材は海外に流れ、外貨の稼ぎ手は皆無の状態です。王室財政は火の車なんですよ?」
「では、各企業のCEOに金を出させればよい」
「出すものですか! あいつら、労働者の賃上げをカットし、内部留保を貯めこんでやりたい放題です」
「国家の非常時だぞ?」
「一応、話してはみます」
暗い顔で宰相は引き受けた。
「しかし、わが国CEOは、出すものは舌でも嫌がる猛者ばかり。嫌な予感がします。きっと、搦め手裏口邪道を使って、ことはますます悪い方へ転がるような気がしてなりません」
「めんどくさいことね」
王の隣で居眠りをしていた王妃が、扇の陰であくびをした。
「玉ねぎがないなら、エシャロットを食べればいいのに」
宰相は目を剥いた。
「エシャロット? 輸入品ではありませんか。このインフレの最中、そんな贅沢品の輸入なぞ、できるわけがありません」
憮然として彼は言った。
※
「パンがないならお菓子を……」ですよね、もちろん。あと、米騒動が発端でないのが、私的に残念なところです。米・小麦を巡る陰謀については、また後日。(それはいつ?)