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多目的運動広場の誓い

 ジパングの政治経済の中心地、カスンダセキで、大規模なデモ抗議が行われた。


「玉ねぎの値段を下げよ!」

「玉ねぎの天ぷらはうまい!」

「炒めた玉ねぎ、最高!」

「新玉の季節である。水でさらしてサラダにしたい!」


「1個136円では買えません!」

「政府横暴! わずか数ヶ月で4倍の値上げ!」


 郊外から、怒涛のように人々が押し寄せた。

 彼らは、国会議事堂を取り囲み、抗議のシュピレッヒ・コールを挙げた。


「そんなに大勢じゃ、議事堂の中に入れないでしょ。代表者を寄こしなさい」

高い塔のてっぺんから、拡声器で宰相が命じた。


 人々は顔を見合わせた。


 ジパングは、おとなしく、内気な国民性である。その上、政府に逆らってデモ抗議に参加したなどということが職場にバレたら(中には仮病を使って会社を休んできた者もいた)、クビになってしまうかもしれない。


「よし、俺が行こう」

「私も!」


 有志が数人、立ち上がった。人々の熱い期待を背に受け、彼らは議事堂の中へ消えて行った。





 「玉ねぎの価格高騰は一時的なものです」

執務室に入ってきた代表団に、宰相は言った。

「今年は例年になく寒い春が続きましたから、玉ねぎの一大産地であるホッカイドーの玉ねぎが打撃を受けたのです。もう少し待てば、西からの玉ねぎが流通し、価格は安定するはずです」


「騙そうとしてもダメです!」

女性の代表者が抗議した。

「今はもう、初夏です。西からの玉ねぎは新たまではなくなり、茶色い皮を被っています。それなのに玉ねぎの値段は一向に下がっていない」


 宰相は首を傾げた。

「そんなはずはないけどなあ……。あ、アレじゃないですかね。外国の戦争で燃料費が上がり、海外からの輸入品が入って来なくなっちゃったせいじゃないですかね」


代表団は顔を見合わせた。


「いやいや、そこを何とかするのが、あんたらの仕事でしょ」

柔らかそうな猫っ毛の青年が詰め寄った。

「戦争とか、価格高騰とか、我々も理解しているつもりです。しかし、たとえば、防衛費、これ、こんなに必要なんですか?」


「必要です」

きっぱりと宰相は言った。軍事シロートの代表団には、取りつく島もない。


「せめて秋からの肥料の値上げを何とかしてください。このままでは、日本の農業自体がたちゆかなくなってしまう」

黒縁のメガネをかけた男が抗議した。


「何? 肥料の値上げ? そんな話があるのか?」

「おおありですよ」

「知らなかった」


代表団は顔を見合わせた。


「そもそも、一度値上がりしたものが値下がりしたなんての、私は見たことがないわ!」

女性代表が叫ぶ。


「じゃ、玉ねぎはずっと1個136円なのか?」

「なんて恐ろしい。飴色玉ねぎの入らないカレーを喰えというのか!」

「味噌汁もだ! 俺は玉ねぎの味噌汁を毎朝飲んでいたのだ。このままでは血液がどろどろになりそうだ!」

「ああ、恐ろしい恐ろしい」


宰相室は、阿鼻叫喚の地獄図絵となった。あまりの凄まじさに、宰相は衛兵を呼んだ。

「おい、こいつらを外へ放り出せ!」


 大切な国民、国家の主と(形式上は)奉られている国民を放り出すなんて、とんでもないことである。その上外には、たくさんの仲間が集まっている。

 兵士はためらった。


「良く見ろ! こいつら、まともじゃない」


 確かに、玉ねぎが生活から消えるという恐怖で錯乱している人々の様子は普通じゃなかった。兵士は、人々を追い立てにかかった。





 宰相室から叩き出された代表団は、近くの多目的運動広場に集まった。


 「ここに、国民自治政府の発足を宣言する」

比較的年配の代表者が宣言した。


「玉ねぎの値段が下がるまで、我々は解散しない」

猫っ毛の青年が頭の上で両手を振り回し、叫ぶ。


 議事堂からぞろぞろとついてきた人たちは喚声をあげた。



 この誓いは、「多目的運動広場の近い」として、長く人口に膾炙することとなる。









フランス革命のテニスコート(球戯場)の誓い(1789.6.20)をイメージしてます。憲法制定まで解散しないことを誓ったあれです。



以下の各話でも、後書きにフランス革命の元ネタを上げておきます。うるさい方は無視してお進み下さい。


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