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夏の出来事  作者: モノクロ◎ココナッツ
7/20

七話


 そのまるで風邪が治ったばかりの様な体の気怠さで目が覚める。力が入らない事に加えて、額や顔面を伝う寝汗の水滴が不快にさせるので、思わず枕を覆っているシーツで汗を拭ってしまう。

 暑さで力が抜けてしまった体に喝を入れて無理やり動かし、部屋を出てリビングの冷蔵庫を開けてキンキンに冷えたスポーツドリンクを取り出し、形振(なりふ)り構わずにラッパで一気飲み。


 すると温度のレッドアラートが鳴り響いていた体に一筋、氷の様に冷めきったスポーツドリンクが一筋の雷の如く急激に冷やしてゆく。


 そこでふとリビングの時計に目を向けると、時刻は七時を少し過ぎ去った所を指し示しており、こんな朝早い時間だというのにこの気温とは、我らが天照大御神(あまてらすおおみかみ)様は、我々人間達にとんでもない殺意を抱いていらっしゃる様だ。


「……あんた、一体どうしたってのよ」


 今しがた起きたばかりだと言うのに辟易(へきえき)しつつ、リビングのダイニングテーブルの椅子にスポドリと共に腰を落ち着けていると、家事を一通り終えたであろう母親にいきなり怪訝な表情を向けられる。


「……クソ暑くて寝てらんない」

「まぁ、でしょうね……。母さんも寝苦しくて起きたからね」


 どうやら母も僕と同じくいつもより早く起きた様で、いつもであればこの時間帯はリビングに掃除機を掛けている筈の時間帯で、それが終わったという事は、余程早く起きたのだろうとふと一人納得する。


 とにかくこのクソ暑い中で二度寝なんて地獄の所業を出来る訳がないので早速出かけようと思い、シャワーを浴びる為立ち上がって半分以上残っているスポーツドリンクをまた冷蔵庫に仕舞う。

 すると何かを察したのか、母さんはニヤニヤと笑みを浮かべながら「吉報(きっぽう)を期待してるよ」と、色々な意味で含みの入った言葉を投げかけてくる。

 一体何を期待しているのかを考えようとして即座に面倒臭くなり、「はいはい」と投げやりに反応を返す。


 そこで「所で朝食はどうすんの?」と尋ねられたのだが、体が夏バテモードに入り始めたのか、どうも食べたい気分にならない……どころか、食べたらどうも"戻して"しまいそうなので、迂闊(うかつ)に食べられない。


「いや、暑くて食欲沸かないからいいや」

「そう? わかった」


 母に返事を返しつつシャワールームへと入り、少し熱めに設定したシャワーで粘着(ねばつ)く汗を体から剥がし落としてゆく。


 今日の予定は夜七時から開催される花火大会に香菜さんを誘って行こうと考えているのだが、それも彼女の都合次第と言った感じで、言ってしまえば『あ、他の人と行く約束してるんだよ~』や、『ごめん、ちょっと今日は午後から用事があって出掛けられないの』等といった回答を貰った時点でゲームオーバーとなってしまう。

 そもそもな話、あの神社に彼女が現れるすらもわからない状況なので、賭けとしては分が悪い物となっている。


 だがそれはシュレディンガーの猫の様な状態で、正に"神社の鳥居を潜り抜けて拝殿の様子を確認するまでは、そこに彼女が存在しているパターンと居ないパターンの二種類が重なり合った状態で存在している"という、無駄に格好をつけてみたものの、どうも自分自身への言い訳にしかなっていない事を無駄に考えてしまう。


「じゃあ行ってくる」

「うん、すぐに帰ってきたら承知しないからね」


 シャワーでさっぱりした後に髪を乾かし、寝間着(ねまき)から私服に着替えて家を出ようとした所でそう、暗にとっとと遊びに行ってこいと言われている様な返事で見送られる。

 本日の服装と言えば滅茶苦茶ラフで、特に考えていない、太めの黒いジーンズと、白いワンポイントのポロシャツという、休日のお父さんと言われても仕方ない程のラフな格好。


 外へと出た途端、()せ返りそうなムワッとした空気が体全体を包み込んで汗をじわりと染み出させた。思わず小さく「うへぁ……」と呟いてしまうのだが、母に行ってくると言った手前、尻尾を巻いてそそくさと「やっぱ行くの止めたわ、ただいま!」と言う訳にもいかないし、逆戻りした所で出ていけと叱咤(しった)されて追い出されるのが目に見えている。

 諦めてジリジリと照りつける地獄の中をひたひたと、まるでそこら辺を自由気ままに闊歩(かっぽ)するゾンビの様にひた歩く。いつもとまでは言わないが、ほぼ毎日の様に歩いている筈の道がどうも天国(神社)への地獄の様な道程に思えて仕方がない。

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