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夏の出来事  作者: モノクロ◎ココナッツ
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三話


 ……ふとそこで目が覚め、少し(あか)く色づいた風景が目に入った。どうやら夢を見ていた様で、硬い所で寝ていた所為(せい)もあって凝り固まった体が悲鳴を上げ始めている。体を起こしつつも背伸びし、バキバキと骨を鳴らしつつ鳥居にふと目を向けた。

 その廃れた鳥居越しに見る外の景色は夕日によって朱色に染まり、一見すると秋の様な(よそお)いを見せていた。


 まるで帰れと言っているかの様に烏達が鳴き(わめ)いて(とばり)が降りるのを急かしており、その乱雑に放り投げられた鞄とタオルを手に取り立ち上がって鳥居を(くぐ)り抜けると、昼間よりかは幾分涼しくなったいつもの光景に舞い戻ってくる。


 涼しい所で休んで体は軽やかになったというのに、どうも頭の中が雲一つないこの茜空の様に晴れ渡ってくれない。何度も繰り返される先程の夢と、あの見知らぬ、人成らざる程の美しさを持つ女性の顔。

 そんな事をもやもやと考えている自分にふと恥ずかしさがこみ上げた。……これではまるで中学生か小学生の様だと自責するも、その表情が忘れられない。



 次の日の事。昨日と同じく美術部に顔を出して作品を描きあげようと筆をとった……のは良いのだが、どうも描きたいものが思いつかない。

 ……いや、思いつかないと言うのは語弊があり、どうも僕の頭の中は昨日の彼女で一杯になっている様で、そればかりが頭を駆け巡っていた。

 もうこうなったらいっその事満足するまで描き上げてしまおうと思って意気込むと、驚く事にいつもよりスラリと線を描き上げてしまう。


 いつもであれば何度も線を付け足し引き直しを往復するのだが、今日はまるで自分自身ではない誰かに体を乗っ取られているのかと思う程に流暢(りゅうちょう)に筆が喋り出す。


 まるで溶け始めた氷の上をなぞる様に、まるで何かに誘導されているかの様に、半分夢見心地(ゆめみごこち)で描いていたのかも知れないけれども、それでも描き上げる線に迷いはなく。

 いつの間にやら下書きが終わってしまって自分でも驚愕している中、時々「この女の人って誰なの?」と美術部の友達から尋ねられる事が幾度かあったのだが、"いや分からない"としか言い様がない。


 そう言い返す度にどうも微妙な表情を返事として突っ返されるのが結構辛い。

 ……いや知らないんだからどうしようもないだろ……って思った所で、"この人、夢で見たんだ"……何て頭のおかしい電波系な少年認定されそうな事を言える訳でもない。


 結局いつもよりもガッチガチに書き込んだ下書きを済ませた所で部活動はお開きとなってしまい、また炎天下の元へと放り出される事となった。

 もう毎日の様に発表される今夏(こんか)最高の気温という発表に、"ある一定以上熱くなったらどんなに変化しようが暑いことには変わんねぇんだよ。"という呪詛(じゅそ)めいた言葉が頭にポッと浮かんで消えた。


 校門を出てすぐの所にある自販機で炭酸飲料をポチり。中途半端な地獄の様な炎天下にジリジリと焼かれながら帰路へつく。我らが天照大御神(あまてらすおおみかみ)が元気でいらっしゃるのは大変喜ばしいのだが、どうも最近、俺を含めて人類に対して元気を通り越して殺意を抱いている様に思えてしまうのは気の所為(せい)なのでしょうか……?


 とまぁそんなくだらない事を考えながら昼下がりの太陽にこんがりとローストされつつ歩いていると、ふと昨日(さくじつ)の事を思い出して途中に神社があった事を思い出し、昨日立ち寄った所に目を向ける。

 そこには昨日と同じく朽ち果てそうな雰囲気を漂わせている神社が、緑の揺り籠に守られながら鎮座していた。


 その昨日味わった清涼感を体が覚えているのか、それとも暑さで頭が機能停止したのか、勝手にと言うべきか、ふらりふらりと夢見心地(ゆめみごこち)のまま、その寂れに寂れた鳥居を潜り抜けた。そのまま境内の中を歩んでお賽銭箱があったであろう場所へと目を向けると、そこには昨日会った、濡羽色(ぬればいろ)の長髪をさらりと流した、珍しい金色の瞳の美人が本殿の階段にて腰を下ろして佇んでいた。


 そんな彼女が纏っているのはこの猛暑に不釣り合いな黒のシャツワンピースで、見るからに暑そうではあるのだが、どうもその浮かべている涼し気な表情と実際に涼しい温度が相俟(あいま)って優雅な印象を感じてしまう。


 彼女は何やらハードカバーの本に目線を滑らせており、その表紙には傷や汚れを防ぐ為のカバーが掛けられていて、何を読んでいるのかは伺い知れない。

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