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夏の出来事  作者: モノクロ◎ココナッツ
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裏三話


 それからは会っていなかった年月を埋めるかの様に、それこそ根掘り葉掘りと言っても過言ではない程に、古今問わず起きた出来事に花を咲かせていた。


 小学校から中学校へと進んだ時の別れと出会い、そして高校へと進んだ事で増えたり減ったり、はたまたそれこそ幼少からの、半ば腐れ縁となる友達が居たりと、それこそ壮絶とは言わないものの、それなりに山あり谷ありな人生を彼は歩んできている様であった。


 ……だからこそ久々に彼を見かけた時に少しばかり違和感があったのかもしれない。

 香水に例えると最初の印象が少し違っていて、けれども根っこの部分が変わらない……とでも言うのかな? パッと見た雰囲気は変わっている様に見えるのだけど、根幹となる所は全く変わっていないのが懐かしさと安心を与えさせてくれる。


 そんな事を楽しく話していると、日が傾き始めて鳥居から境内へと差し込む光に朱色が混じり始める。ふとそれを確認した彼はもう帰り時だと判断したのか、(おもむろ)に立ち上がりつつ「じゃあそろそろ帰りますね」と言葉を零した。


 彼を笑顔で送り出そうとしたのだが、彼は何やら恥ずかしいのか少し固まりながらも、「うん、また今度」と言い残して朱に染まりつつある外へと歩みを進め始めた。

 そんな彼を見送りながら溜息を一つ。


 このままこの関係がいつまでも続けば良いな……なんて淡い期待を抱いてみたのだが、そんなのはいつまでも続く訳がないと言うのはよくわかっている。

 そう考えた所で如何に自身が世俗に染まり切っているのかを実感し、勝手に自嘲が零れ落ちた。


 ……元々は狐で、死して神となり、そして人外となり……。本当に我ながら数奇な人生を辿っているものだなと感じる。

 そして今は、一人の少年に対して、恋心かどうかも定かではない"モノ"を抱いてしまっている。



 その次の日の事。最早何年目となったのか神社の段差に腰掛けてはまた暇な時間を無意味に食い潰している。

 今日は夏祭りがあるのでなんとなしに浴衣に衣替えしてみたものの、誘ってくれる相手なんて居る訳ないと思い、神社がまだあった頃に境内の中に落ちていた小説を手に取り、少しでも甘い気分に浸ろうとページを(めく)った。


 神社があった頃はどうも何やら(まじな)いの一種として語り継がれていたらしく、不定期に小説の類が本殿の裏側に置かれていた。

 幸いにもその頃は常盤家ではないものの神主が居たので、それらをお供物だろうと思ったのだろう。本殿の中へと収納していたので、暇な時には人間の姿へと変化(へんげ)してよく時間を潰していた。


 中には異世界ファンタジーなるものが置かれていたり、はたまた駄々甘な恋愛小説や、何処でこんなものを買ってくるのかと思う程の官能小説が置かれていたりなど、ジャンルだけであれば大体のものは揃っているのではないかと思う程に揃っている。


 そのまま掌の中に広がる文章に目を滑らせていると、ふと境内の入り口に人の気配を感じて目線を上げた。

 するとそこに立っているのは、暑い中を()かれながら来たであろう薫君の姿。余程外の世界は暑いのか、心做(こころな)しか陽炎が立ち上っている様にも見え、髪は少しばかり()れを帯び、頬には所々に雫が滴り、表情もまた鬱屈なものになっていた。


「あ、薫君。今日も部活?」


 未だ午前中だと言うのに汗まみれの彼にそう尋ねたのだが、その格好を見る所どうやら今日は学校では無い様で、部活で使う道具などの入ったスクールバックを持っていない。


 ……今日の彼は少し様子がおかしく、普段の性格からすると出会った途端に一言二言何かしら口にする所だが、今日の彼は唖然としつつ私を見つめるのみ。


「……そんな所で固まってどうしたの?」


 その場でポツンと佇む彼にそう尋ねたのだが、彼は私の声でハッと気付いて一瞬体を跳ね上げた。だがすぐさま恥ずかしそうに視線をフイっと逸らしてしまう。

 その様子が何だかとても可笑しく思えると共に、とても可愛く思えてしまう。

 そんな彼を少し(からか)ってやろうと思い、少しばかりポーズを作って「……もしかして見惚れてたり?」と言ってみるも、彼は少しばかり緊張を含んだ表情を浮かべて「そ、それよりも!」と少しばかり恥ずかしそうに顔を赤らめながら急に話を逸らした。


 突如恥ずかしそうしつつ話を変えた彼をニヤニヤと抑えきれない笑いを浮かべていると、「今日、花火大会あるんだけど、い、一緒に行かない!?」と、予想外の言葉を受けてしまう。


 まさか彼から逢引(あいびき)のお誘いがあるとは思ってなかったので、思わず思考が止まって呆けた表情を浮かべてしまう。次いで一刹那の間を置いて嬉しい感情が湧き上がり、無意識のうちに威勢の良い返事が口から飛び出る。


 自分でもその無意識の内に出た返事に内心驚いてしまったのだが、内心の驚きが表に出る前に誤魔化す様に彼へと向けて腕を突き出すのだが、向けられた彼はと言うとポカンと(ほう)けたまま。……多分、意を決して誘えた事に達成感を感じているのだろう。だがこちらとしては年甲斐(としがい)もなく(はしゃ)いでいるのを悟られたくない所。

 そして咄嗟(とっさ)に出たのが「……起こしてよ~!」と言う言葉。思わず出た言葉に彼はやれやれといった感じに笑みを浮かべつつ私の手を取り、力強く引っ張り上げてくれる。……のは良いのだが、勢いが良すぎて彼の懐に飛び込んでしまう。

 すると途端に彼の懐かしい優しい香りが私の鼻を(くすぐ)り、成長して(たくま)しくなった体が私を包み込んだ。

 大きくなったな~、と一人感慨(かんがい)深くなっていると、彼は少し慌てた様に目線を逸らして「……ご、ごめんなさい。引っ張り過ぎました……」と恥ずかしそうに謝る。


 思わず笑いがこみ上げ、もっと恥ずかしそうな姿が見たいと思ってその耳元でその笑いを零した所、少し焦った様に私の肩を掴んで距離を取った。


 彼がどんな表情をしているのかが気になって目を向けると、そこにあった顔が(ほの)かに赤く染まり、少しでも彼に効いている事が何だか嬉しくなる。

 「……ドキドキしちゃった?」だなんて冗談交じりに彼に言ってみたら、その仄かに染まっていた顔が更に赤みを帯びて林檎の様に赤く染まり始める。


 だがそんな事よりも何十年……いや、百年単位で参加すらもしていなかった祭りに、幼い頃遊んでいた彼と共に参加出来る事の方が嬉しくなってしまい、ついつい彼の手を取って走り出してしまう。

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