一話 夏が来る。匂いはない。
どうも、現在完結していない作品が複数存在している状態でまた新作を上げてしまいました。
ですがこの作品は八話ほどで完結をめどに作成していた物ですので、直ぐに完結します。
そして、この作品はかなり前に書いていた作品ですので、読みにくいかもしれませんが、お許しください。
これはきっと普通の事だと思う。
好きな人に告白をしてもフラれる何て当たり前、OKが出ることの方が少ない、桃色の桃や、白色の白熊も、同じだ。それと並んでも差し支えない、俺のモノクロで、1日が1年に感じるほど長く感じる人生今日この頃。
まだ少し、肌に涼しさが抜けていく。
現在5月中旬。
俺はやっと、中学の3年間を抜け出し、高校一年生へと進学した。
人によっては、「もう卒業」なんて思うのかもしれないが、俺の場合は、やっとだ。
長かった。
小学生の時から思っていた。
俺は何故こんな事をしているのか、何かいいことがあるのか。
ただ仕事をするだけなら親にでも教わればいいし、何だったら、独学で自分の会社を建てることだってできる。
しかも、友達だって。
別に家族さえいれば十分だし、一人の時間が減って疲れるだけだ。
要するにボッチだった訳だ。
勿論、回りの人間は話しかけてもきたし、俺も応じていた。
ただ、人と接するのが苦手だった俺は余り話しもせず、大雑把に言えば、俺は周りの人間を拒絶していた。
次第に俺に声をかける者は居なくなった。
小5からは生半可な知識を持った連中に、ありもしない架空の噂を流されて、更に俺の周りから人が居なくなっていった。
一人、思い出にふける。
そんな朝も悪い物ではない。
俺は、そんなことを思う方ではないが、それでも、過去のことを思い返すことはある。
ただ、その度に過去の記憶から色が抜けていく。
いや、元々無かったのかもしれない。
風が吹く。
少し力強い大吹の風。
髪が靡いて、頬を抜けていく風に付いてきた落ち葉が、軽く顔に当たる。
別に痛くはない。
ただ、その落ち葉に虫がついていた時に俺の心が数十倍くらい沈むだけだ。
俺は、落ち葉の当たった部分を少し搔いてまた歩き出す。
俺は、今現在、北海道のとある田舎の高校に通っている。
俺が思うに、本当に田舎の方だ。
余り都会の方で学校に通いたくはない。
五月蠅いし、なにより人が多い。
確かに、田舎でも人は十二分にいる。
ただ、そんなことを忘れるほどの自然がある。
その自然を眺めながら俺は、一人の時間を楽しむ。
――「じゃあ……此処の問題、田村、答えてみろ。」
「えっ俺!?」
「何だ? わかんないのか?」
現在、少し時は進み、国語の授業中。
黒板に書かれているのは、「中学の復習とその応用」という今日の学習の内容。
そして問題文。
「えっと……」
「じゃあヒントだ……○○詞で思いつくもん全部言ってみろ、」
この答えは簡単で、助動詞だ。
この一つを答えるだけで終わる。
が、この教師も意地悪だ。
○○詞思い付くものといえばかなりあるだろう。
そんな数を言っていたら体力を持っていかれるだけだ。
まあ、俺には関係ないが……。
――昼休憩。
俺はあの後、一回も当てられることなくただつまらない話を延々と聞かされただけだった。
俺は今は食堂にいる。
“友人”と。
俺にも一人くらいは友達はいる。
ただ、こいつも、俺が好きなタイプのキャラじゃない。
だが、その人間性は、俺も好むものがあるようで、何となくだが良く一緒にいる。
後、中学から一緒で、たまに出かけたりもする。
「なあ~、聞いてくれよ~」
「何だ? またフラれたのか? これで何回目だ? 2、4、6、8、、、17回目か?」
「ちがーう! フラれた話じゃねえし! ……てか数えるな! 心が抉れるだろ!」
「悪い悪い、で、何だ?」
「いやぁ、今日登校中にさ、絶世の――」
「待て。」
「何でだよー。お前も気になるだろ? リン?」
「気になんねえよ、」
この女大好き野郎の名前は、村田 康介。
さっき言った通り、中学からの付き合いで、俺も気軽に話す事が出来る。
そう言えば、俺の自己紹介が遅れたが、俺の名前は斎藤 凛という。
こいつはカタカナだと勘違いして、俺の名前を書く時言うときは、必ず、『リン』と現すのだ。
「リンって、いっつも話の腰を折るよなー」
「いや、まずお前が女の話ばっかりを話題に出すからだろ? 最初の方は、はいはいと聞いていられたものの、最近はもう飽きたんだよ。」
俺は紙パックジュースにストローを刺して中身を吸い上げる。
味はオレンジ。
「とにかく、昼めし食っちゃうぞ。」
「はあ。まあ、そうだな、時間もないし。」
俺と康介は、同時に手を合わせて、昼飯に手を付け始める。
今日の日替わりメニューはカレーである。
スプーンですくって一口。
また一口。
今日もうまい。
特殊なスパイスなどを使っているのだろうか?
まあ、そこのところは解らんが、此処の料理は結構うまい。
「お前さあ、」
「ん?」
「カレーにオレンジジュースってどーなの?」
「……? 質問の主旨が良く分からんぞ?」
「いや、合うのか?」
「合う。うまい。」
「……まあ、人の好みはそれぞれだしな……。」
俺の大好物だ。
文句を言う奴は許さない。
――なんてことはどうでもいい。
今日は教員の会議で、下校時間が早く、次の授業が終われば帰れる。
ただ、いつも思う。
俺の1日には花がない。
そう言う1日もいいだろう。
それでも、恋に恋をするような、そんな1日を過ごしてみたい。
後者はたまに思う程度だが、前者はいつも思う。
放課後になれば、また、少し離れた家まで帰るために電車で数十分揺らされ続けて、窓の外の大きな雲の浮かぶ、茜色に染まった大空を見ながら溜息を吐き出す。
ちょっとした、1日の振り返りをしながら。
もう、クラスには慣れてきた。
部活は入っていない。
康介と話した。
後は……。
……何もない。
俺はまた一度、深い溜息を吐く。
こんな1日を過ごして、またこの高校3年間を過ごしていくのか。
そんなことを考えてしまう。
電車の中には、うちの高校の連中が数人。
俺は、鞄を膝にのせて、その上に腕を載せる形で座っている。
「咳をしても一人」
誰だったか、ある詩人だったか俳人だった誰かが詠った言葉。
端的に言って、自分が孤独であることを表す言葉。
俺も、世に残るこんな一言をポロリと言ってみたいものだ。
「……一人より二人。」
声を出す。
見る人からすれば、俺は変人だろう。
ただ、そんなことを気にするほど俺は、羞恥心が残ってはいない。
ピロロロロロ、ピロロロロロ――
携帯電話の着信音が鳴り響く。
俺の手元にある鞄からだ。
多分母親だろう。
いつもこの時間にお使いを頼んでくるのだ。
俺は車両を移動してあまり人のいない車両で携帯電話を取り出して、画面部を開く。
まだ俺はスマホではない。
不便ではないからいいのだが。
電話番号が母のものであるのを確認し、俺は電話に出る。
「もしもし?」
『あ、もしも~し、もう学校終わった?』
「ああ、うん。終わっ――」
『そっかー! じゃあお使い頼める?』
「う、う――」
『じゃあ、大根と、白菜と5キロのお米と……後、御味噌も買ってきて! 後は……あっ、後、お酢とみりんもお願い』
「わかった、じゃあ――」
『ありがとー! じゃあまた後でねー!』
――プツッ――
これが母である。
もう少し遠慮というものを覚えてほしい。
でも、この前向きさが、俺をいつも立て直してくれるのかもしれないが……。
改札を抜けると、近くのスーパーまで出向く。
そこで、頼まれたものを一通りそろえて帰宅する。
「ただいま」
「「おかえりー」」
タッタッタッタ――
走ってくる足音が聞こえる。
この足音は俺の妹である。
俺が靴を脱いで家に上がると、ピンク色のキャミソールを上に短パンを下に、さらに、黒色のタイツを履いた少女が走ってくる。
俺の妹の部屋着である。
「お兄ちゃんおかえりー!」
「おう、ただいま。遊子」
俺の妹――斎藤 遊子は、今年やっと小学4年に進級したばかりだった。
「おかえりー」
「ただいま」
奥のリビングに行くと、母が出迎えてくれる。
そう、あの遠慮なんて言葉が存在していない世界線で生きているのではないかと疑う程の遠慮のなさを披露してくれた俺の母である。
「今日は何かあったー?」
「何にも、強いて言えば……康介と話したくらい?」
「それは昨日も聞いたわよー」
俺は答えながら自室に荷物を置き、部屋着に着替える。
部屋着は、基本的にジャージだ。
動きやすく、空気の出入りがしやすい造りになっていて、とても快適だからである。
そのあと、俺はエプロンを付けて台所に立つ。
「あら? もうお夕飯作るの?」
「ん? うん。」
「……たまにはお友達と遊んできたら?」
「……いいよ。俺友達いないし。」
「……リン、、、」
「後……。母さんが毎日のようにお使いを頼んでくるからいたとしてもいけないしね。」
「うっ……。」
一瞬、母さんがギクリと、図星をつかれたように顔を歪める。
まあ、実際問題、俺に友達と呼べる人間は康介位だからな。
特に傷つくことでもないし、少し寂しさを感じるくらいだ。
「とにかく、早くご飯作っちゃうから母さんはあっち行ってて。」
「はあーい」
そう言いながら母さんは身を翻して去っていく。
今日のご飯は……大根もあるし、たまに煮物もいいかもしれないな。
――チュンチュン
小鳥のさえずりが聞こえる。
それと、目覚まし時計の不愉快な音。
俺は目覚ましを止めて、起き上がり、部屋のカーテンを開ける。
そして一度、ベランダに出る。
大きく深呼吸。
それと、伸び。
毎朝の習慣だ。
風が通り過ぎる。
もう一度、大きく深呼吸をする。
肺に昨日とは違う、少し湿った、生暖かい空気が入ってくる。
そして、最後にもう一度、大きく深呼吸をして――
「……夏……か。」
――夏が来た。匂いはない。