46 ダウールの対応 3
…………何か話題、話題はないかな……。
この空気を変える話題。
フィーリアは重くなった空気を変えたくて、何かないかと視線を巡らせた。
気難しく顔を顰めているダウール様を見て、こんな時クトラだったらすぐに空気を変えられるのにと思ったら、口に出ていた。
「クトラ、可愛くなったよね」
「……は?」
突然のフィーリアの発言に、ダウール様は怪訝そうに顔を上げた。
「だから、クトラ可愛くなったよね?」
「そうか?」
「そうだよ」
一度言葉にしたら止まらなくなった。
「四年前はまだ幼かったけれど、もう十八歳になって女性らしくなったでしょう?」
フィーリアと同じ歳でクトラも十八歳になった。
四年前まではフィーリアと同じでダウール様に幼い妹のように構われていたけれど、今のクトラはトンシャン家の一人娘として魅力的な女性として縁談がひっきりなしで届くほどだった。
フィーリアの前では砕けた口調と淑女らしからぬ行動をとるけれど、対外的には大富豪のトンシャン家の娘に恥じぬ立ち居振る舞いとそれにみあう上質な物を身に着け、それを身に纏っても引けを取らない、いや自分の魅力を引き立てるだけの要素であると見ている者に知らしめていた。
「……そうか?」
いまだもって懐疑的なダウール様の返答に、ダウール様の中のクトラの印象が四年前で止まっていることを確信した。
「クトラはもう結婚出来る歳になったから、縁談も山のように届いているって聞くし」
「はあ?」
今度は何言ってるんだ?という目で見られた。
あ……。これは余分なことを言ったかもしれない。
今ダウール様の妃候補として後宮に来ているのに、他の男性からの求婚話なんて聞きたくないよね。ただクトラが魅力があることを言いたかっただけだったんだけど。
「いや、だから、結婚相手としてすごく魅力的な女性になったんだよって言いたかっただけなんだけど」
そう口にすると、ダウール様がショックを受けたように固まった。
あれ? もしかしてダウール様の中でやっとクトラが十八歳と認識されたのだろうか。
それならば、クトラが女性として魅力的になったことを伝えなければと勢い込んで話そうとしたら、視線を逸らされた。
「……クトラのことはもういい」
気落ちしたようにため息交じりに話を切り上げたい雰囲気を出されて、口をつぐむ。
視線を逸らしたダウール様は何かを考えるように僅かに視線を彷徨わせ、その目の動きが動揺を表していた。
そしてまたしても沈黙の時間が訪れた。
……空気を変えることに……失敗してしまった。
振る話題を間違えたことは確かだった。
クトラに聞いてからと思っていたはずなのに、何か話題がないかと思った時に先ほどまで考えていたクトラのことしか思い浮かばなかった。
でも、ダウール様にはクトラのことを意識してもらえたと思う。あとはやはりクトラに確認してからダウール様に伝えるしかない。
続く沈黙の中、フィーリアは食べることに集中することにした。
今何か言っても、また失敗するような気がした。
「フィーリア……」
名前を呼ばれて食事の手を止める。
ダウール様を見れば、その顔には先ほどまでの動揺もなく、フィーリアに真剣な眼差しを向けていた。
「フィーリアにお願いしたいことがあるんだ」
「なんですか?」
「……ウルミス嬢のことなんだが、セイリャン嬢のせいでだいぶ精神的にまいっているみたいで」
「…………」
「それでフィーリアに話し相手になってもらえないかと思って」
そこで困ったように笑う。
「俺には大丈夫としか言ってくれなくてな。全く大丈夫そうな顔色ではない青白い顔をして、それでも微笑む姿に申し訳なくて」
ダウール様の瞳には無力を嘆くやりきれなさが滲んでいた。
「男の俺よりは同性のフィーリアの方が悩みを打ち明けやすいのではないかと思うんだ」
ウルミス様のことを語るダウール様からは心配でならないという気持ちとセイリャン様を招き入れてしまったことによるウルミス様が被害にあってしまった罪悪感が伝わってくる。
ウルミス様のことをすごく気にかけているのが言葉の端々に感じられた。とても大切に思っているのだとわかる。
ダウール様の中でのウルミス様の存在の大きさを目の当たりにして衝撃を受ける。
「だからフィーリアには話し相手になってもらいたい」
真っ直ぐに見つめられ、言葉に詰まる。
ダウール様からの要望にフィーリアはすぐに返事が出来なかった。
ウルミス様には嫌いと直接言われていた。その事をダウール様は知らないだろうし、かといってダウール様には言えない。
言えないならば、返事を待つダウール様に言えることは了承の返事しかなかった。
「わかった。様子を見て訪ねてみるね」
「ああ、頼む」
フィーリアの言葉にホッとしたような笑みを浮かべた。
その笑みになぜかチクリと胸が痛んだ。なぜ胸が痛くなったのかよくわからない。
そうこうしているうちに食事も終わって、ダウール様は早々に帰っていった。
前のように夕食後お茶をすることもなく帰ってしまったことに淋しさを感じる。
気まずい雰囲気のまま、ダウール様との久しぶりの夕食が終わってしまった。
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