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39 結論 1


「痛っ……、何? ……何よこれ?! 手を離しなさい。あたくしにこんなことをするなんて不敬罪よ」


 突然声が聞こえたと思ったら、警備兵に拘束されていたセイリャン様が拘束から逃れようと身を捩っていた。

 なぜ今頃?と思ったけれど、そういえばカレルタ豪主に拘束されたときにクッタリとしていたのを思い出した。拘束された時に軽く意識を飛ばしたのだろう。そして今意識を取り戻して、自分の腕を拘束している警備兵に向かって叫んだということか。通りでセイリャン様にしては珍しく文句が遅いと思った。

 それにしても、セイリャン様の言葉や行動の方が不敬罪だと思うのだけれど。

 そう思っていると父親であるカレルタ豪主に制止された。


「セイリャン、黙りなさい」


 これ以上不敬を重ねないように注意してくれているのだろうに、そんな事もわかっていないセイリャン様はカレルタ豪主に向かって不満を訴えた。


「は? お父様何を言っているのよ。──った…痛いわ! 手を離しなさい。あたくしはダウール様に愛されているのよ。こんなことをしてただで済むと思っているの?!」


 セイリャン様の口を閉じることが出来なかったため、未だに状況をわかっていないセイリャン様は自己主張を繰り返した。

 あっ、警備兵に物理的に口を塞がれた。

 どうやらセイリャン様の発言があると進まないと判断されたようだ。

 それを横目で見たカレルタ豪主は苦々しく顔を歪ませて、深く頭を下げた。


「陛下、申し訳ございません。私の監督不行き届きでございます。どのような処罰も受け入れる所存でございます」


 厳しい顔つきのダウール様は初めて見る国王陛下としての顔でカレルタ豪主を見据えていた。


 これまでの流れで、なんとなくセイリャン様が後宮に来た件は、カレルタ豪主の意図したものではなく、セイリャン様が勝手に後宮に来てしまったのだろうと予想がついていた。


 今回のカレルタ豪主の問題点は、国の中枢に本来来るべきではない偽者を招き入れてしまったことだ。そう、この責任は重い。

 例えるならば、セイリャン様が暗殺者であったとしたら、陛下の命を狙いたい放題だったのだから。

 ……けれど、顔色の悪いカレルタ豪主とムーリャン様はセイリャン様の被害者でもあった。


 先ほどダウール様に提出されたという調査書をアルタイ様経由で、なぜかこっそり見せてもらえた。

 そこにはムーリャン様とセイリャン様は双子だと書かれていた。……だからこんなにもそっくりなんだとすぐに納得できた。

 そして、その調査書には今回の事件の詳細が書かれていた。

 ムーリャン様に心酔している盲信者がカレルタ豪主に下剤を盛り、偽の診断書をでっち上げ隔離という名の監禁をしていたらしい。そして後宮に来る予定だったムーリャン様本人は睡眠薬を嗅がされて寝ているうちに領内の端にある人里離れた屋敷で監禁されていたとのことだ。

 カレルタ豪主は謎の病に(かか)ったということで、カレルタ豪主と部下達の直接の連絡を絶たれ、謎の病と伝えられた部下の人達は病の原因が分かるまでは外部に漏らせないとのことで沈黙を決め込んだらしい。その情報は本来ならムーリャン様に伝えられるべきであったが、途中で漏れる危険も鑑み伝えなかったと書かれていた。セイリャン様はいつもどこにいるか分からなかったから居なくても問題にならなかったらしい。

 そんな状況で、後宮にいるムーリャン様がセイリャン様だとは誰も気づけなかったと書かれていた。


「そうだな。カレルタ豪主の処罰は強制労働だ。国のために死ぬ気で働いてもらうぞ?」


 ダウール様の言葉に、覚悟していたかのように深く頭を下げる。

 平民の仕事の中でも過酷といわれる肉体労働を想像しているのだろう。それでも本来の罰に比べればは生易しい罰と言えるだろう。それが分かっているのか、静かにカレルタ豪主は聞いていた。


「カレルタ豪主が長い間休んでいたために仕事が山のように溜まってしまって、愛しの我が妃に会いに行くこともままならならなかったんだぞ?」

「……それは、申し訳ございません」


 突然軽い調子に変わったダウール様に、答えを返すカレルタ豪主は戸惑っているようだ。


「だから申し訳なく思うなら、俺のために時間を作ってくれることが一番の償いになるんだ。当分の間は休みがないと思ってくれよ?」

「…………」


 ダウール様の言っている意味を図りかねて、カレルタ豪主は困惑していた。


「今まで通り、国のために働いてもらうぞ? 俺の側でな。俺の側には怖い監視者がたくさんいるからな。逃げられると思わないことだな?」

「…………かしこまりました。誠心誠意務めさせていただきます」


 軽い口調で語られる言葉に、ダウール様というかお(にい)らしさが滲み出ていた。

 ダウール様が言った処罰は国の中枢での強制労働。それはつまり、今までと変わりなく働くということだ。処罰としては甘いのかもしれないけれど、能力のある人を逃す気もないのだろう。城内は少数精鋭のようで、どこも人手不足だった。勉強で訪ねたどこの部署も上司は能力主義者らしく、サボるなんてことは許されそうにない。それについていけない者は切り捨てられそうだった。いや、そもそもそういう人はすぐに逃げ出すだろうくらいに厳しいところだった。現在働いている人達はそれに食らいつき自分の仕事に誇りを持っている人達だった。けれど、そうは言ってもどこも人手不足だった。

 だから、中枢で働くことも過酷な労働で、元々誠実に働いていた実績もあることから、このような処罰になったのだと思う。


「そして、セイリャン嬢についてだが。……セイリャン嬢には別の罪状が加算される」


 続けられたその言葉に、カレルタ豪主とムーリャン様がビクリと肩を震わせた。


「セイリャン嬢は私の妃候補として後宮に入ったにも関わらず、不貞行為を働いた。こちらに提出された書類に詳細が書かれている。証人もいる。罪状は明らかである」


 示された書類に目を通したカレルタ豪主とムーリャン様は顔色を無くした。

 どうやら、後宮に滞在していた時のセイリャン様の行動についてはまだ知らなかったらしい。


 カレルタ豪主に渡された書類を見て、ニルン様とクトラに目を向けるとウインクを返された。

 どうやら今まで調べていたものがいつの間にかダウール様に手渡されていたらしい。手際が良すぎて感心するしかなかった。

 そこに全否定する声が上がった。


「あたくしは不貞なんてしてないわ」




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