27 クトラside
あはははは。フィー、混乱してたなー。
まあ、しょうがないか。
あの顔が見たくて、ダウールに協力した、というのもあったからねー。
フィーの困った顔が可愛くて、昔からちっちゃなイタズラをたくさんしてきた。大部分は気づかれることなくスルーされてきたけれど。フィーってば、純粋すぎて疑うっていうか、裏をよむとかしないんだよね。だから、イタズラをしたつもりでそのまま受け止められてしまって、わたしが慌てるっていうことになったりね。
もちろんフィーが好きだから、フィーには幸せになって欲しいから、こんな面倒くさいこと協力することに決めたんだけど。お互いに好き合っているのが側にいる者にはまる分かりなのに、平行線のままなのがもどかしくて、どうにかしたくて、ダウールから協力して欲しいと言われて、わたしはすぐ頷いていた。
始めは楽しかったんだ。
フィーが困惑してるのも分かったし、わたしが協力したことでフィーが自分の気持ちを自覚できるようになると思っていたから。
けれど、好きでもないダウールに言われたこともないような言葉を言わなきゃいけないのが、次第に苦痛になっていった。
様付けしたこともないダウールに様をつけて呼び、さも好きだと言うように言わなきゃいけない苦痛。ダウール様と口にすれば、脳裏にダウールが腹を抱えて笑っている姿が浮かんでイラッとして、けれど演技を続けなきゃいけない苦痛。
フィーのために頑張ろうと思ったけれど、苦行だった。
それを乗り越えられているのは、共に同じ苦痛を感じているニルン様がいたからだった。
いやー、それにしても、失敗、失敗。
危うくフィーに演技してるのがバレるところだった。
フィーにダウールが好きでしょと言われて、反射的に否定してしまった。
ダウールに向けた鬱憤が溜まってたのがいけなかったんだよね。気持ち的には全否定したかった。
それにしても、フィーに変化が現れ始めたようだ。
まあ、もとから後宮に来た目的が妃候補者同士のドロドロを見るためだと聞いたときはフィーらしいとは思ったけれど。そこから、ダウールを男として意識をさせるのは一苦労だった。
その原因に思いを馳せると、それも仕方ないかと思わなくもないんだけど。……まあーねー。環境が悪かったとも言えるんだけど……さ。
フィーの父親を思い出して、ため息が出た。
フィーの父親は本当にフィーを溺愛していて、男がちょっとでも近づいたら牽制するほどで。女のわたしには優しかったけれど、ダウールには厳しかった。他の男達はフィーの父親を見てすぐに逃げ出したけれど、ダウールだけは逃げ出すことはなかった。友人として兄として紳士的に振る舞っていたのが、ギリギリ及第点をもらえていた感じだった。そんな状況でフィーにダウールを男として意識しろというほうが難しいかもしれないけれど。
でもねー、だからといってフィーに告白しないダウールもどうかと思うけど、ダウールに国王くらいの男にならフィーを嫁にやってもいいという父親もどうかと思う。
その話をダウールから聞かされたときは、開いた口が塞がらなかった。
しかもその話を本気にして、ちょうど国王陛下の退位が話題になりはじめた時期と重なり、ダウールは国王になるべく少しの間フィーから離れると、わたしに言ってきた。そんな話をわざわざわたしにするのは、わたしにフィーを守って欲しいと頼むためだった。自分以外の男を近づけるなという自分勝手な願いのために。
そんなダウールに呆れたけれど、仕方なく願いを聞いてあげることにした。フィーの気持ちを確認したことはなかったけれど、なんとなくダウールが好きなことはわかっていたから。残念なことにダウールだけがフィーの気持ちをわかっていなかったんだけどねー。本当に残念なやつ。
フィーの父親だってフィーの気持ちに気づいていたけれど、認めたくないのだろう。
本当、どっちもどっちだけど、そんな話を本気にしたダウールは四年かけて、本当に国王になってしまった。
能力のある男だとは思っていたけれど、まさか本当に国王になるとは思わなかった。まあ、残念なことにフィーに対してだけはヘタレというか、空回りばかりしているのだけれど。
そんな国王になったダウールから連絡が来た。
会ってみれば、相変わらずフィーのことばかりで、本当に残念すぎると思った。
そしてダウールから衝撃の話を聞いたのだ。
フィーのために後宮という舞台を整えて、フィーを喜ばせたいと。そしてそれから恋人になりたいと。
本当にフィーのことになると思考が残念なほうに行くのはどうしてなのだろうか。
普通に求婚すればいいと思ったけれど、口にはしなかった。
ダウールの話を聞いて想像した後宮という舞台が面白そうだったから。ダウールとフィーの慌てふためく姿を近くで見れるなら協力してもいいかと思った。
どっちにしろ二人は両想いなのだから、その過程を楽しむことにした。
それなのに、実際始まると上手くいかないことばかり。
ダウールが好きだという演技は辛いし、フィーはまったく気にしないし、ダウールはアプローチするといっていたくせに全然しないし……。
おまけにムカつく女が来るし!
ほんと、なんなの? あの女。ムーリャンと口にするのさえイヤだ。
本当に演技しているのかと疑いたくなるほど、自然なイヤ~な女で、何度キレそうになったか。
ああいう女は本当にキライ。
演技でイヤ~な女が演じられるというのは尊敬できるかもしれないけれど、……わたしは演技であっても絶対できない。
け・れ・ど! やっぱりムカつくことには変わりない。
フィーにも酷い言葉を言っていたのも許せないし、弱い者を見つけて虐めるのも許せなかった。
一度本気で注意しないとと思った。
とりあえず、ムーリャンのことはこれから対処していくとして、まずはフィーの気持ちだよね。
まだまだ自分の気持ちを自覚するところまではいっていないようだ。けれど、わたしにダウールのことが好きでしょと言っていたときに、僅かに顔を曇らせていた。
自分の気持ちに気づくのはあと少しなのかもしれない。
そう思ってとにかく、フィーにはダウールの妃候補者であること。結婚できることを意識させることはできたはずだ。
改めて、フィーに自分で気づけというのは難しいことなのだと思い知った。そこが可愛くてフィーリアの魅力の一つだけど、今回ばかりはそれが少し徒となっていた。だからこれからは口に出していかなければならない。




