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26 クトラの気持ち


「やっほー、フィー! 体調崩したって聞いたけど、大丈夫?」


 ニルン様の部屋から戻ったフィーリアは、底抜けに明るい声でフィーリアの部屋へと訪ねてきたクトラに呆気にとられた。

 相変わらずクトラはフィーリアの部屋の中では、幼なじみのままのクトラだった。口調もよそ行きではなく、砕けた言葉で話す。フィーリアの部屋ではクトラはダウール様のことも、他の妃候補者の話も一切しなかった。今まで気が付かなかったけれど、話題を避けていたのかもしれないし、フィーリアもあえて話題を振ることはしていなかった。

 そして今日は、事前の連絡もなく突然訪ねてきた。クトラなら、連絡がなくても部屋へ通すように言ってはあるのだけれど。


 クトラのところへも行こうと思っていたフィーリアは、ちょうどいいと思って迎え入れた。


「うん。大丈夫。心配してくれてありがとう」


 クトラに椅子をすすめて、ラマにお茶を用意してもらって、二人きりにしてもらった。


 クトラに遠回しに聞いても仕方ないから、直球で聞くことにした。

 口にするまでに時間がかかってしまったけれど、覚悟を決めてクトラの目を見て問う。


「ねえ、クトラ、………………クトラはダウール様のことが好きなんでしょ? だからこそ、ニルン様……」

「好きじゃない!」

「…………えっ?」


 驚いたフィーリアに、ハッとしたように口を押さえるクトラ。


「っていうか、なんでそんなこと聞くの?」

「え? いや、言い争うのはよくないと思って、ダウール様が好きなら止めた方がいいよって伝えたくて」


 改めて、クトラにダウール様が好きなのかを言葉にすると、胸がキュッとした。

 胸が痛い。クトラがダウール様を好きなのはわかりきっているのに、それをクトラから聞くのがなぜかつらかった。けれど、確認しないと、話が進まないこともわかっている。

 みんなのために、頑張るって決めたんだから、頑張らないと。

 もう一度気合を入れ直して、顔をあげる。

 するとクトラは視線を彷徨わせて、狼狽えていた。やはり、クトラも言い争うのはよくないと思っていたようだ。


「あーあー、あー、そうだねー。確かによくないよね」

「うん。……だからね。ニルン様とムーリャン様と、言い争うのはやめよう?」


 ムーリャン様の名前を出したら、途端にクトラの顔がむくれた。


「ムーリャン様はキライ」

「それは……だと思ったけれど、それは外では言っちゃだめなんだよ?」

「わかってるって! わたしも大人なんだよ? 使い分けくらい出来るって」

「それはわかっているけど、クトラが心配なんだよ? 今のままだと印象も良くないし、ダウール様だって見てると思うんだよ」

「……ああ、今はそれはいい」

「どうして?」


 聞きたくないとでもいうように、クトラは耳を塞ぐ。

 もしかして事実を認めたくないのだろうか? 嫌われた可能性があるかもしれないから。


「クトラ、今からでも挽回──」

「フィーはどうなの?」


 クトラは突然遮るように話しかけてきた。


「なにが?」

「ダウール様の妃になること」


 思ってもいないことを言われて、驚いた。


「わたしは別の誰かのところに嫁ぐことになるから考えたことないよ」

「今、そんな話出てないでしょ?」

「昔からお父様にいつでも嫁げるように勉強しておきなさいって言われてきたんだよ? お父様の中では誰に嫁がせるかは決まっているの。クトラだって知っているでしょ?」

「知っているわよ。……だから聞いているんでしょ。今はダウール様の妃候補者なのよ。フィーはダウール様の妃になることも選べるの!」

「……え?」


 思ったこともないことを言われて、固まった。

 クトラは何を言っているのだろうか? そんなことありえないのに。

 戸惑うフィーリアを見つめるクトラは、何を考えているのか分からなかった。


「フィーも一度しっかりと考えた方がいいよ。ああ、ニルン様とは言い争いを止めるから心配しないで。じゃあね」


 スッと立ち上がったクトラはそれだけを言い残し、帰っていった。


 一人部屋に残されたフィーリアは、展開についていけなかった。


 あれ?

 何の話から、自分の話になったのだろうか?

 今はそれは関係ないよね?

 釈然としない終わり方で、とても消化不良だった。意気込んで話した割には、ニルン様にもクトラにも謎かけをされているようで、フィーリアの求める答えがもらえていないように感じた。

 けれど、言い争いは止めてくれると言っていた。それだけでも収穫だと思って、次に繋げるしかない。あとはムーリャン様とウルミス様だけど、先にウルミス様と話そうと思った。初めに挨拶した時にしか話せてなくて、ウルミス様が何を思っているのか全然分からなかったから。今度こそしっかりと話をしたいと思った。





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