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20 物語のように


 翌日、ラマを連れて、歩いていた時。


「不細工ねぇ」


 嘲笑するような笑い声とともに、酷い言葉が聞こえてきた。


「いつまでここに居るつもりなの? まさか、自分が選ばれるかもなんて思っているわけじゃないでしょう? 王はあたくしを選ぶのよ。世界一美しいあたくしに王はぴったりでしょう? 国一番の高い地位で端整な顔立ちの王はあたくしを飾るのに相応しいのよ?」


 この声が誰かなんて分かりきっていた。聞き違える訳もないムーリャン様の、不敬とも言える言葉に耳を疑った。


「ふふ。何も言えないのね。そうよね。あたくしは美しいもの。そして、泣いている顔まで不細工なあなたは身の程をわかっているのよね?」


 あまりにも酷い言葉に、足を止めていたフィーリアは、誰に向かって言っているのか確認するために足を進めた。


「なんとか言ったらどう?」


 ちょうど姿が見えたと思ったら、高圧的な上からの物言いに、竦み上がって涙を流すウルミス様の姿が目に入った。


「早く目の前から消えなさいよ」


 泣いているウルミス様と目が合い、一瞬目を見開いたウルミス様は、ムーリャン様のキツい言葉に身体をビクリと震わせ、あっと思ったときには身を翻して走り出していた。


「ウルミス様!」


 呼びかけた声にも止まらずウルミス様は離れていく。

 急に現れたフィーリアにムーリャン様も驚いたのか、目を見開いたあと、鼻を鳴らして去っていった。


 ムーリャン様に言いたいことはいっぱいあったけれど、今はウルミス様が心配で後を追うことにした。




 いくつかの角を曲がり、意外と足が速いウルミス様を通路の先に見つけ、駆けよろうとしたとき、反対側から歩いてきていたダウール様がウルミス様を見つけて近寄っていくのが見えた。

 それを見て、フィーリアは足を止めた。


 連れていた側近を先に帰らせたダウール様は、俯いているウルミス様に声をかけた。

 声をかけられたウルミス様はダウール様がいたことに驚いたように身体をビクつかせていた。どうやら、前を見ずに歩いていたようで、突然現れたダウール様に驚いたようだ。


 顔を上げたウルミス様が泣いているのに気付いたダウール様は、僅かに驚いたあと、そっと指で涙を拭った。


 (ああ……、無骨なダウール様はハンカチを使うといった事を忘れがちな人なんだよね……)

 その様子を見たフィーリアはそっとため息をもらす。


 頬に触れたダウール様の指に驚いたウルミス様は、遠くから見ているフィーリアにもわかるほど固まっていた。


 (あー……、そりゃあ、突然触れられたら、驚くよね、普通は……)

 やらかしたダウール様を見てしまい、聞こえないとわかっているけれど、心の中でウルミス様に謝った。


 ウルミス様が固まったことにようやく気がついたダウール様は、胸もとからハンカチを取り出し、そっと涙を拭う。ウルミス様の頬にはもう涙は流れていなかった。どうやら驚いた拍子に引っ込んでしまったようだ。

 涙が止まったウルミス様の視線に合わせるように屈んだダウール様は、なにかを問いかけていた。

 いくつか会話をした後、ウルミス様は顔を真っ赤に染めて、また泣き出してしまった。

 また、泣き出したウルミス様に慌てたダウール様は、オロオロと手を彷徨わせたあと、そっと抱き寄せウルミス様の背中を優しくあやすように叩く。

 抱き締められたウルミス様の手がおずおずと遠慮がちに、ダウール様の服を掴んだのが見えた。



 その二人の姿が、まるでよく読んだ物語の中の一場面のようだった。

 さながらヒロインと国王の恋が始まる瞬間。もちろんヒロインはウルミス様で、国王はダウール様だ。


 そう思った時、ツキンと胸が痛くなった気がした。


 その後も寄り添い合う姿に、もうウルミス様は心配ないように思えて、そっと目をそらし自室へ戻ることにした。



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