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19 ムーリャン様vs○○


 フィーリアが文官との話し合いを終えて、自室へ戻っている途中、不遜な命令口調の言葉が聞こえてきた。


「そこの侍女、喉が渇いたわ。飲み物待ってきて」

「あと、ここで休みたいわ」

「なにぐずぐずしているの? 使えないわね。まったく、他にいないの?」

「いいから、早くしなさいよ」


 姿が見えなくても誰なのかわかってしまった。聞き間違えようのないムーリャン様の傍若無人な言葉が響く。

 その声が聞こえてきた場所は王宮内の一角、職場と職場を繋げる通路にそこで働く人達の目を休ませるために作られた花壇が並んでいる場所だった。

 確かに座れるスペースはあるけれど、本来は休むところではない。


 ムーリャン様の声だけが聞こえてくる中、侍女の声は聞こえてこなかった。

 だからこそなのか、ムーリャン様の声がどんどんとヒステリックになっていった。


 これは止めに入らなければならないかと思って、ムーリャン様の声が聞こえる場所へと進むと、思いがけない人がいた。


「あの、わたくし、……侍女ではございません」


 か細い声で告げる声には怯えが滲んでいた。


「はあ? どう見ても侍女でしょうが」


 ムーリャン様と対峙していたのは、なぜかウルミス様だった。

 咄嗟にウルミス様をムーリャン様の目線から庇うように立ち塞がる。


「ムーリャン様、この方は侍女ではございません。妃候補者の一人、ウルミス・タタル様です」


 フィーリアの顔を見れば、嫌そうに顔をしかめた。


「また、あなたなの? ほんと、どこにでも出てくるわね。ゴキブリみたい」


 散々な物言いだったけれど、特に気にはならなかった。ムーリャン様のような人が言いそうな言葉は大体予想がついていたから。物語に出てくる意地悪な女性がよく言う言葉のままで、どちらかというとそのままの言葉を聞くことが出来て感心してしまうほどだった。


「それから、なぁに? 今、この侍女が妃候補者って聞こえたのだけれど」

「そう申し上げました」

「こんな普通の娘まで来ているの? 呆れるわ。あなた、本当に選ばれると思っているの?」


 ムーリャン様は見下したようにウルミス様を睨めつけると、またしてもウルミス様に暴言を吐いた。

 フィーリアの事は地味娘、ゴキブリでも構わない。いや、ゴキブリだとは思っていないけれど、地味だとは自分でも思っているから。

 でも、ウルミス様は可愛らしい。控えめな淑女であるウルミス様に対して、侍女だとか、普通の娘とか侮辱するような言葉を言うのはいけないと思うのだ。


「ムーリャン様。その言葉は失礼だと思います」

「は? 事実でしょう」

「ウルミス様はとても可愛らしい方です」

「どこがよ。あなた、目も悪いのね。かわいそうねぇ」


 憐れむように見られ、さすがにイラッとくる。

 いや、ダメダメ。ここで自分まで感情的になったら、話し合いにならなくなる。


 ──ふぅッ

 ムーリャン様と向き合っていたフィーリアは、後ろから聞こえてきた押し殺す声に視線を向けた。

 その視線の先では、口元をハンカチで押さえ、目を真っ赤にして涙を流すウルミス様がいた。


「ウルミス様?!」


 なんで泣いているの?

 ……もしかして泣くほど怖かったの?

 確かにムーリャン様の顔は般若のように見えるときもあるけれど。

 ……あっ……もしかして、免疫がないから?

 フィーリアは物語で挿絵として描かれていた登場人物を見慣れていたから驚かなかったけれど、普通の人は見たことない怖い顔だものね。


「大丈夫ですか?」

「……はい。申し訳ございません」

「あの、ウルミス様が謝ることではないんだけど……」


 フィーリアがウルミス様を心配して話しかけていると、苛ついたムーリャン様の声が聞こえた。


「ほんと、気分悪いわ」


 イライラのまま睨みつけられ、ウルミス様がビクリと怯えたように震える。

 ムーリャン様からの視線を遮るようにずらすと、ムーリャン様はもう一度フィーリア達を睨みつけたあと、フンと鼻を鳴らして去っていった。


 身勝手なその姿を見送った後、泣いているウルミス様に視線を合わせる。


「大丈夫ですか?」

「……はい。大丈夫でございます」


 とても大丈夫そうには見えなかった。

 けれど、フィーリアが次の言葉を言う前に、ウルミス様は一歩引いて深くお辞儀した。


「失礼いたします」

「あっ、はい」


 静かに去っていくウルミス様を見送り、フィーリアはなんとも言えない気持ちで自室へと戻るしかなかった。





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