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14 セチュンとカブル


 フィーリアの生活習慣の中に、勉強時間が足された。

 勉強の内容は、実家でしていたものとそれ程違いはなかった。だから、強制的に始まった勉強だったけれど、それ程苦ではなく、暇を持て余していたフィーリアはすんなりと受け入れていた。

 一つだけ実家でなかった勉強が、城に務める者の把握だった。

 これは宰相様からの課題なのだろうと思う。いや、罰なのかもしれないけれど。何しろ宰相様も知らない愚か者だものねー。あはは、……はあー。


 そんなわけで、実際に会って役職と個人名と顔を覚える時間を、セチュンの案内のもと、護衛としても対応出来るというカブルとともにお城の中を歩き回っていた。

 侍女長のセチュンとカブルがフィーリアの専属のような感じになっている事について、疑問に思わなくもないのだけれど、クトラに尋ねたら、勉強しているのはフィーリアだけだと言われ、励ますように頑張れと言われた。そこから推測するに、セチュンとカブルが付くほど、フィーリアが危なっかしく見られているのか、それか、宰相様の監視なのかもしれない。


 とはいえ、セチュンとカブルとはとても仲良くなった。

 なんと、セチュンはダウール様の乳母で、カブルはセチュンの息子でダウール様とは乳兄弟だと教えてもらったのだ。

 それを知ったときは、礼儀も忘れてはしゃいでしまった。

 本来ならはしたないと注意されるところが、それを見たセチュンもカブルも、やはりというように笑っていた。理由を尋ねれば、ダウール様からよく聞かされていたというのだ。それがどのようなものなのか想像がついて、恥ずかしくなって顔が真っ赤になってしまった。ダウール様は絶対、面白おかしく話しているに違いない。実際に、淑女としてはありえないはしゃぎ方をしてみせてしまったのだから、肯定しているようなものだった。

 そんなわけで、フィーリアは自室での勉強時間を和気あいあいと過ごせていて、思っていたよりも楽しんでいた。

 もちろん部屋の外では気軽な言葉遣いで話せないのはわかっているのだけれど。


  □□□


「フィーリア様、それでは参りましょう」

「はい。──お仕事中に、お時間をいただきましてありがとうございました」

「いえいえ! こちらこそ、この様なむさ苦しい所まで足を運んでいただき、ありがとうございました」


 凄く恐縮する男性に、フィーリアは苦笑するしかなかった。

 どこに行ってもこんな感じなのだ。セチュンとカブルがいるからだろうと思うのだけれど。二人の後ろに宰相様の顔でも見えているかのような腰の低さだった。


「それでは失礼いたします」


 男性に声をかけると、直角に腰を折って見送られる。

 その姿勢のままな男性に申し訳ないので、早々にその場を離れた。

 少し離れると、後ろから押し殺したような笑い声が聞こえる。

 ちらりと振り返ると、カブルが口に手を当てて肩を震わせ笑っていた。

 フィーリアが困っている姿を面白がっているのがわかった。こういう姿がダウール様とそっくりだった。さすが乳兄弟だと、似なくてもいいところが似ていて納得する。

 じろりと視線を送ると、すまんと言うように手を振って笑いを抑えようとしていた。しかし、なかなか治まらないらしい。

 諦めて前を向くと、案内していたセチュンが物凄い眼力でカブルを睨んでいた。気付いた瞬間、後ろからの笑い声がぴたりと止まった。カブルもセチュンの目と合った、というか見てしまったのだろう。直接向けられていなくても、震え上がってしまう程の眼力だ。まさに蛇に睨まれたカエル状態。このままでは骨も残らずパクリと食べられてしまう。そんな圧力に晒され、けれど今ここで動けるのは自分しかいないと、そう思って、勇気を振り絞りセチュンに声をかける。


「セチュン、今日はこれでもう終わりかしら」

「さようでございます。もうお部屋へ戻られますか?」

「ええ」


 窺うように問いかければ、セチュンはすぐに柔らかい表情に戻る。


「かしこまりました」


 そう言うと、セチュンはフィーリアの部屋へと足を向けた。

 セチュンの視線が外れると、眼力で固まっていた身体から力が抜けた。

 ……恐ろしかった。セチュンを怒らせてはいけないのだと心に誓ってしまうほど恐かった。

 ちらりとカブルを見ると、拝むように手を合わせて謝ってきた。こうなることくらいわかりそうなものなのに、本当に世話が焼ける人だった。


 前に向き直り、通路の角を曲がったところで、突然聞こえてきた甘えたような声にフィーリアは足を止めた。


「あなた、あたくしの侍従にしてあげてもいいわよ?」






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