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13 アルタイ登場


 フィーリアの決意虚しく、翌日以降ダウール様は一度も部屋を訪ねて来なかった。

 代わりに来るようになったのが、ダウール様の伝言を伝えに来る役目になったのか、侍従のハウリャンが一日一回訪れていた。

 どうもフィーリアに直接伝えるように厳命されているのか、必ず部屋までやって来てその日の夜訪ねる妃候補の名前を告げていった。


 ハウリャンが帰って行ったあと、フィーリアが自室でお茶を楽しんでいると、来客を告げるノックの音がした後、ラマが慌てて戻ってきた。


「お嬢様。お嬢様にご用があると仰っている方が見えてます」

「そう。お通しして」

「失礼しますよ」


 フィーリアが返事を返したと同時に、ハウリャンとは違う声がして、驚いて視線を向ける。

 ラマの後ろに、一人の男性が立っていた。


 ……どちら様? 


 ハウリャンだと思って、誰が来たのかを確認せずに返事をしたフィーリアは、強引に入ってきた男性を驚きのまま凝視した。文官のような出で立ちで、お父様くらいの歳の頃に見える。不躾に入ってきたその男性は部屋の中をぐるりと見回したあと、フィーリアの目を真っ直ぐに捉えた。


「おや。王はこちらではなかったようですね」


 驚くフィーリアに構わず、確認するように問われ、戸惑う。

 王と敬称なく呼ぶことから、ダウール様の近しい人なのかもしれないと思った。

 それならば、答えないわけにはいかないと思って、とりあえず問いに対して返答する。


「はい。こちらには来ておりません」

「そうなのですか?」


 観察するような視線を感じ、なんだか居心地が悪かった。

 フィーリアが何かしてしまって、注意にでも来たのだろうか? 

 突然やって来た男性の意図が分からず、対応に困った。


 ……それにしても誰なんだろうか?


 ハウリャン以外の男性が訪ねてきたのは初めてだった。見るからに身分が高そうで、しかも風格のあるというか、油断できない雰囲気のある男性だった。


 緊張感漂う中、男性はスッと姿勢を正して、礼の体勢をとる。


「申し遅れました。私は宰相職を務めているアルタイ・ムングという者です」

「っ! 宰相様でいらっしゃいましたか。お初にお目にかかります。フィーリア・ハルハと申します」

「存じておりますよ」


 宰相様の言葉でフィーリアの失敗が露見してしまった。

 宰相職に就いていらっしゃる方を知らなかったことと、その事を宰相様に直接言ってしまったことだ。


 ああ、どうしよう。


 後悔しても口から出てしまった言葉は戻せない。今、言葉を重ねたら言い訳にしかならない気がして、宰相様の言葉を待つしかなかった。

 沈黙のなか、そんなに長い時間が経っていない筈なのに、何も言葉を発さない時間に耐えられず、思考が違う方へと逸れていく。


 ……なんで宰相様はここへ来たのだろうか。

 ……そういえば、王を探しに来たと言っていたような気がする。

 ……ということは、宰相様がわざわざダウール様を探しているの?

 なんで? 今の時間は執務中だよね?

 まさかダウール様が行方をくらませた?

 いや、意外と真面目なダウール様がそんなことするわけないよね?


 つらつらと理由を思い浮かべても、宰相様が直接訪ねてくるような、しっくりくる理由が思い当たらなかった。


「何をされていたのですか?」


 耐えがたい緊張感の中、現実逃避していたフィーリアは宰相様からの問いかけに現実に戻された。聞こえた声が思っていたよりも普通の声に聞こえ、お叱りはないのかと視線をあげたら、鋭い視線を受けて、冷や汗が流れる。


「はぃっ! えっ……と、お茶をいただいておりました」


 ちらりとフィーリアはテーブルの上に視線を向ける。

 テーブルの上にはお茶とお菓子が乗っているだけ。怠けているようにしか見えない部屋の状態だった。

 悪いことはしていない筈なのに、事実を述べることがつらく感じるのはなぜだろう。


「そうですか。なにやらお時間が余っていらっしゃるようですね? それでは時間を有効活用するために勉強は如何(いかが)でしょう」

「え?」

「すぐに手配いたします。それでは私も忙しいので、これで失礼しますよ」

「えっ、あの……」


 問いかけた声にも振り返らず、宰相様はさっさと帰ってしまった。

 口を挟む隙すらも与えてもらえなかった。

 意味が分からない。宰相様は本当に何しに来たのだろうか。


  □□□


 暫くすると、宰相様に言われて来たといって、侍女長のセチュンと側近のカブルという男性が大量の本を持って現れた。


「お初にお目にかかります。侍女長のセチュンと申します。こちらはダウール様の側近を務めているカブルでございます」

「フィーリア・ハルハです」


 展開についていけず、呆気にとられたままのフィーリアは、名前を告げるだけで精一杯だった。そんなフィーリアを置いてけぼりにして、どんどん話が進んでいく。

 フィーリアはテーブルの前に座らされ、目の前にいくつもの本が広げられる。


「それでは、本日はこちらの本から勉強を開始いたしましょう」


 セチュンとカブルの見守る中、無言の圧力に負けてペンを動かした。


 なんで? なんで突然勉強することになるのーー?!


 口には出せない言葉を心の中で絶叫した。





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