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9度目の転生

9度目の転生(村人A編)

作者: 丸井竹

俺は村人Aを8回やっている。


一度目の転生の時、俺は村人Aとして生まれ平凡な人生を送った。


唯一この世界で俺がなしたことといえば、村を通りすがった勇者の質問に答えたことだけだ。


「この村はなんという村ですか?」


その問いに俺は答えた。


「トイ村です。」


何かをなしたというほどのことではないかもしれないが、2度目の転生で俺は同じ状況に陥った。


「この村はなんという村ですか?」


「トイ村です。」


それ以外は重なるものもあれば重ならないものもあり、一言でいえば平凡な人生であった。


そしてどちらも俺の18歳になった年のある日なのであった。


そして3度目の転生、俺は勇者にやはり村の名を教え、その後、何がいけなかったのか村が滅んだ。

だがその他大勢の扱いであるから「村は滅びたのであった」の中に含まれるぐらい平凡な終わりであった。


4度目の転生、俺はなんとなく勇者にまた村の名前を聞かれる予感がした。

それで俺は出来る限り豚小屋にいた。


勇者は豚小屋には絶対来ない自信があった。


だが、突然豚小屋に勇者がやってきた。


「この村はなんという村ですか?」


いやいや、村に入ってこの豚舎まで誰にも会わなかったわけがないでしょう。


なぜ俺にきく。


しかし俺は仕方なく答えたのだ。


「トイ村です。」


5度目の転生であった。やはり村人Aであり、平凡な人生で18歳まで生きてきた。


今度はトイレに閉じこもった。

完全なプライベート空間である。

さすがにここまでは勇者は来ない。


しかし、突然トイレの扉が開かれた。


「あの、ここなんという村ですか?」


トイレに入っている人間にまで聞く必要あるのか?!

しかし俺は村人Aである。


「トイ村です。」


なぜか答えてしまっていた。

その時俺は気が付いた。

村人Aの役割とはただこの質問に答えるだけなのではないかと。

その後はその他大勢として平凡に終えた。


6度目の転生であった。

俺はやはりトイ村の村人Aであった。


俺は18歳まで必死に練習した。


「ここはコイ村です。」


そう、わざと違う名前を答えてみようと思ったのだ。


そして俺は18歳になった年、勇者に村の名を聞かれた。


「ここはコイ村です。」


ついに6度目にして村人Aの必須イベントと思われるシナリオを変えてやったと思った。


しかし、勇者の反応は同じだった。


「ありがとうございます。」


何が起こるでもなく平凡に終えた。


7度目であった。


やはりトイ村の村人Aである。


俺は18歳で勇者に会う。それはわかっていた。

そして村の名前を聞かれるのだ。


それ以外はどうなるかはわからないがただひたすらに平凡な人生が続く。

この世界のお約束にのっとり、村が滅びたり、逃げ出したり、その他大勢として終えるのだ。


7度目、俺は湖の真ん中にいた。小舟に乗って。


そう、俺がどうこたえるかではない。もしかしたら勇者が俺に質問をするというところが必須イベントなのではないかと思ったのだ。


もうトイ村でもコイ村でもきっとなんでもいいのだ。


果たして、勇者は現れた。

そして甲冑を脱ぐと泳いで俺の乗っている小舟の傍までやってきた。


「ここは何という村ですか?」


「ここは湖の上です。」


「ありがとうございます。」


勇者は戻っていった。


やっぱりだ。村人Aの役目は勇者に村の名前を聞かれる役割だったのだ。


8度目の転生でやはり村人Aになった時、俺はもう一つ試してみることにした。


それは俺が18歳の年のその日のためだけに生まれているのではないかということだ。

つまり18歳のその日まで俺はその役目を果たすまで無敵なのではないかと思ったのだ。


俺はハイハイが出来るようになってすぐに村を旅立った。

ひたすら進み、魔物の森を突っ切った。


俺は平凡な村人Aであるにも関わらず、全ての魔物が俺を素通りして行った。

ついに俺は魔王城にたどりついた。


飲まず食わずで、もう既に子供を脱しようとしている。急がなければ。

魔王の前に到着すると、俺は魔王の膝を殴った。


ミスを繰り返していたが、少しずつダメージが入るようになった。

それは当然1ポイントであったが、ひたすら叩き続けた。

そしてついに18歳になった年のある日、俺は魔王を倒した。


もうさすがに勇者は来ないと思われた。


しかし、魔王城の扉が開き、勇者が入ってきた。


「ここはなんという村ですか?」


「魔王城です。」


「ありがとうございます。」


勇者は去っていった。

いや、勇者、お前はどこに向かうのだ!


当然その瞬間、俺は周りの魔物にあっさり殺された。

しかしこれではっきりした。


村人Aというのは18歳のその日、勇者に質問されるためだけの役なのだ。

あとはどうでもいい一般人ということになる。


俺はあと何回村人Aをやらないといけないのか。

いや、平凡は悪くない。悪くないがもうだいたい平凡な出来事は網羅してしまっている。

人生がまるで作られたお芝居のように、そうロングラン公演のようにシナリオ通りに進んでいくのだ。


何としてもこの転生の連鎖を止めなければならない。

そう、もういっそ村人BでもいいからA以外、あるいは勇者に会わないシナリオにかえたい。



そして今回が9度目の転生である。


俺はようやくその答えに辿り着いた。


この村人Aの無限ループを止める方法だ。

そう俺は18歳のその日まで無敵なのだ。


俺は生まれてすぐに情報収集を始め、勇者の居場所を探し始めた。

彼らは英雄だ。

噂はすぐに耳に入る。


そして俺は村人Aでも装備出来る棍棒を手に入れた。


待っていろ勇者。

お前さえいなければ俺の村人Aのシナリオは完璧に変わるはずだ。




――



俺は転生9度目の勇者だ。


毎回勇者をやっているためだいたいそのシナリオは暗記している。

勇者ともなるとやらなければならない通過イベントが1548個もある。

産まれて何年後のいつなのかなど細かく決められており、そのすべてを通過して初めて道が開けるのだ。


最初はとまどったが、今ではもうリストを見なくてもすらすら進める。

まるで同じロールプレイングゲームを9回もやっている気分だ。


そろそろ飽きが来ているが仕方がない。


しかし最近、この121番目のイベントに少々不具合が生じている。


村人Aに村の名前を尋ねるという項目なのだが、とにかくいる場所が定まっていない。

まぁそれは仕方がない。


村人はふらふらと動き回っているものだ。

この村人Aに話を聞いた後に、鍛冶屋イベントがあるからどうしても聞かなければならないのだが、ここ最近の転生では距離が出来て大変である。


まぁだがまだ生まれたばかりだ。あと18年後のイベントである。

とりあえずいつも通りゆっくりしよう。



――


さて俺はついに勇者を見つけた。

さすが勇者だ。子供のころから迷いのない完璧な人生だ。


俺は棍棒を振り上げた。

が、しかしそれはかすった。

何度もかすった。


勇者はちょっと不思議そうに俺を見て、折りたたまれたリストを開いた。


そしてそれは膨大な勇者のやらないといけないイベントリストだったのだ。


勇者がその中の一つの項目を指さした。


121番目の項目に記載があった。


「村人Aに村の名前を聞く。」


そして1548番目に魔王を倒すとなっていた。

つまり、俺はその121番目まで無敵であるが、勇者はその1548番目のイベントまで無敵なのだ。


その過程で何度か死んだり、復活したりするイベントもあるが、それはすべてタイミングが決まっていた。


そうか、そうなのか、俺の転生した世界はすべてがシナリオ通りに進むのだ。

俺は絶望に打ちひしがれてトイ村に帰っていった。





―――


プログラマーA「うーん。このイベントいるかなぁ?」


プログラマーB「村の名前を教える村人はいるだろう。」


プログラマーA「わざわざ聞かなくてもいいんじゃないかと思って。」


プログラマーB「そうだな。じゃあ看板に書いたらどうだ?」


プログラマーA「いいね。じゃあそうしよう。じゃあ、このキャラクターはもういらないな。」


プログラマーB「いやいや、もったいない。なんか地味な村だからさ、いっそこういうキャラとかにしたらどう?」



――










転生10回目の村人Aだ。


だが今回は一味違う。


俺は……なんと絶世の美女キャラになっていた。

まさかの女だ。

しかもものすごい美女。


こ、これは平凡だとしてもいろいろ楽しそうだ。

とにかくおしゃべりが絶えないし、平凡なりに恋も楽しめる。

相手はどうしても男だが、もうこれは女の心を磨くしかない。


男だろうと女であろうともてまくりの人生が面白くないわけがないのだ。


次もぜひ村人Aで転生したいと思う……。



The end.





拙い作品を読んで下さった全ての方に感謝申し上げます。

ありがとうございました。

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