2、かまど係のお姫様
お姫様は、城を抜け出すときに、乳母にいわれました。
あなたのような美しい女の子は、お金持ちのお妾にされて、ひどいめにあわされます。
なるべくその美しい顔を隠すようになさいませ、と。
乳母は小さな透明なガラス瓶をお姫様に渡しました。
これを毎日、顔におつけなさい。肌が荒れて、醜くなりますから。
そういって、乳母は、燃え盛る城の中に戻って行きました。
かまど係の奴れいとなったお姫様は、自分の美しさをかくすために、一生懸命がんばりました。
乳母の言い残したとおり、毎日、顔にガラスの小瓶のなかの水をつけました。その水には何がはいっていたのか、今となってはわかりませんが。お姫様の白い柔らかかった肌は、あっというまに固くなり、ひびわれました。まつ毛も全部抜けました。
何人もの従者に手入れされていた美しい黒髪を自分でザクザクに切って、毎日砂漠の砂にさらしました。髪はぼさぼさになりました。
加えて、かまど係というのはきびしい仕事でした。毎日、重たい薪を運び、かまどに火をおこします。それだけでもお姫様にとっては大変だったのです。しかも、火が強すぎると、やれ火が強すぎるの熱いのといって怒られ、弱くしすぎると、つぎは火が弱すぎるとどなられました。
小さくて白くて美しかったお姫様の手は、力仕事とやけどとあかぎれのせいで、節が高く、ごつごつした、大きなぶ厚い手になってしまいました。